IPPNWドイツ支部 : フクシマから6年


IPPNWドイツ支部 アレックス・ローゼン小児科医の論評

フクシマから6年:原子力災害は今も進行中

原文(独語)へのリンク

Sechs Jahre Fukushima: Die Atomkatastrophe besteht fort

著者:アレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医/IPPNWドイツ副代表)

〈和訳:グローガー理恵〉

2017310

フクシマ原子力災害が始まってから6年経った今も、日本の人々は、福島第一原発事故によってもたらされた結果とともに生きている。福島第一原発で破損された原子炉(複数)は相変わらず、制御不可能な状態にある。 最近は福島第一の2号機原子炉格納容器内で、ヒトが数分間浴びたら即死してしまうような非常に高い放射線量が計測された。ロボットも、それだけ高い線量のある原子炉内では機能することができない。溶融した炉心(コリウム)を取り出すことは、チェルノブイリと同様に、何十年もの間、不可能であると推測されている。そのような状況のもとで、将来、地震/津波/暴風のような自然災害が発生したとすれば、廃墟となった福島第一原発が、その地帯全域を多大な危険に晒すことになる。

毎日毎日、何トンもの放射能汚染された冷却水が地下水/海水に流れ込み、地下水や海洋の放射能汚染をますます悪化させている。また、陸地の除染作業も行き詰まり、せっかくの作業も断続的に起こる暴風/降雨/洪水のために無駄に終わっている。放射性ごみは絶え間なく増え続け、山のように堆積されていく。そのため、最近、選抜された市町村において建設資材の放射能汚染制限値が引き上げられた。これは、放射能濃度が高い土を公共道路建設のために利用できるようにするためである。ー しかし、この影響を被った地域の住民による猛烈な反対運動があったため、” 制限値の引き上げ ” は中止されなければならなくなった。

一方、国は、放射能汚染された故郷から離れることを余儀なくさせられた10万人近くの人々への圧力を強めている。故郷を逃れた人々は ” 原発避難者 ”として、今日に至るまで、日本中に散らばっている 。 そして今や、避難者たちはできるだけ早く、福島のゴーストタウンと化した故郷ヘ帰還せよ、ということになったのである。未だに放射線量が非常に高く、健康ヘのリスクなしで生活することのできないような所であっても、帰還すべきであるというのだ。何よりも、若年家族や免疫不全症者、子どもたちが、そのような場所へ帰還するとは到底容認のできないことである。さらに、帰還したい人の人数が少ない状況が続いているため、国から出る原発避難者のための援助金はカットされることになるという。

そして福島では、小児甲状腺がんと診断された症例数がさらに増加している。201110月から20143月における最初のスクリーニング(先行検査)では甲状腺がん症例数がまだ101件であった。しかし、その後に(2014年から)行われた二巡目のスクリーニング(本格検査)では、2年後(2016年)に、症例数が145件になった。ということは、新たに診断された44人の子どもたちにおける甲状腺がんは、この2年間という期間 (2014~2016年)に発生したに違いないということを意味している。これは、年間の小児甲状腺がん発生率が【100,000人当たり8.1件】に相当するということである。フクシマ・メルトダウン以前の日本の小児甲状腺がん発生率は年間で【100,000人当たり0.3件】であった。甲状腺の腫瘍の進行や転移があったため手術を受けた子どもたちの数は145人である。そのほかに、穿刺吸引生検でがんと診断された子どもたちが38人いるのだが、彼らはまだ手術を待っている状態である。毎年、新規症例が追加されている。これまでのところ、子どもたちの71%足らずが [*訳注 ]検査を受けたのみであるので 、今後は、さらにもっと、がん診断数が増加するものと予測される。ーチェルノブイリ事故後に辿られた経過と酷似している。

甲状腺がん症例の早期発生後、福島においては、さらに、これから何十年間にも亘り、白血病や肺・腸の腫瘍、皮膚腫瘍、その他の器官の腫瘍の発生が増加するものと予測される。しかし、これらの症例が、目下のところは未だきちんと記録されている甲状腺がん症例のように、正確に記録されていくものかどうか、これは疑わしいことである。なぜなら日本政府は政治的に原子力産業に依存しており、何年もの間、原子力フレンドリーな宣伝活動や地元の農協への励ましの支援を通して、トリプル・メルトダウンを伴ったフクシマ超大規模原子力事故のネガティヴなイメージをもみ消そうとしているからである。

そして、甲状腺検査でさえもが、まもなく停止されるかもしれないのである。すでに今、集団スクリーニングの中止についての話があり、甲状腺調査を担当している福島医学大学からの代表者が福島県の学校をまわって、子どもたちや青少年たちに、「理不尽ながん診断」を望まない人は集団検査を受けることを拒否する ようにと勧めているのである。

その一方では、フクシマ災害の影響を受けた人々のニーズに応えようと全力を尽くしている多くの日本人がいる。福島県いわき市にある独立ラボ、いわき放射能測定室「たらちね」は市民の要望に応じて放射能測定を行い、独立クリニック、「たらちね検診センター(20175月に開設予定))」は超音波検査(エコー検査)についてのセカンドオピニオンを提供してくれることになっている。岐阜の医師たちは、原子力災害による影響を正確に評価することを可能にするために、日本の子どもたちの乳歯中のストロンチウム-90の濃度を測定する研究調査に取り組んでいる。

ドイツIPPNWは、これらのイニシアチブを支持する。我々は、日本からの新しい調査結果を科学的に評価することを通して、フクシマ惨事によって影響を受けた被災者のために、事実を解明する情報を提供することに尽力する。IPPNW/ PSRによる報告書『チェルノブイリと共に生きる30年間ーフクシマと共に生きる5年間30 years living with Chernobyl – 5 years living with Fukushima )(未邦訳)は、ここ数十年間における意義深い科学的知見を列挙し、それらをわかりやすく提示している。

以上

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

[ *訳注 ]

子どもたちの71%足らずが :福島医大によると、2巡目のスクリーニングを受けることになっている受検者数は計381,281人だが、これまでのところ270,486(71%)の検査結果データが出されているのみである。 (情報提供:アレックス・ローゼン医師)

IPPNW:「フクシマとともに生きる-5年間」から


グローガー理恵

2016年の3月、IPPNWドイツ支部とPSR米国支部が共同で“5 Years Living with Fukushima(フクシマとともに生きる-5年間)”と題された報告書を公表した。報告書は、二人の共著者、IPPNWドイツ支部副議長、アレックス・ローゼン(Alex Rosen)医師とIPPNWヨーロッパの副議長、アンゲリカ・クラウセン(Angelika Claußen)女医によって作成された。
報告書は、フクシマ原子力災害を巡る4つの問題点を呈示している:
1. いかにしてこの原子力災害が起こったのか?
2. どれだけの量の放射能が放出されたのか?
3. どのような影響が環境に及ぼされるのか?
4. 予測される、被災住民への健康影響とはどんなものか?
そして、これらの問題点を中心にその回答を見出そうと努めながら、今も進行中であるフクシマ大惨事を直視し、その実態を明らかにしていっている。
報告書の最後には、この論文の重要な結論と言える「日本への勧告」が掲載されてある。ここでIPPNW/PSRは、日本の原子力産業、政治家、原子力規制機関の間にはびこる汚職/癒着を徹底的に調査してクリーンアップしないのなら、フクシマのような大惨事が再び起こることになるであろう、との警報を鳴らしている。「日本への勧告」は、フクシマ大惨事に関わる責任当局者全員が真摯に受け止めるべき重大な警告だと思う。
それを抄訳したものをご紹介させていただく。なお抄訳することについては、アレックス・ローゼン医師からの快諾を頂いている。
原文 (英語)へのリンク:http://www.psr.org/assets/pdfs/fukushima-report.pdf

IPPNW と PSRによる日本への勧告 (33頁)

(抄訳:グローガー理恵)

1.フクシマ災害によって影響を受けた人々/被災者が持つ人権である「健全な環境の中で生活し健康に生きられる」という権利 ─この事こそが、フクシマ災害に関するすべての議論および政策決定における中心事項となるべきである。そのためには、被災者集団が意思決定プロセスに効力的に参加するということを確実にしなければならない。
2.被ばくした、または、これから被ばくする可能性がある ─ 原子力災害の事故処理/クリーンアップ作業員全員 ─ に信頼性ある正確な線量計が与えられなければならないし、彼ら全員が定期検診を受けなければならない。また、定期検診は原子力産業と関わりのない独立した医師によって行わなければならない。このことは、下請け業者に雇われた労働者、臨時労働者およびボランティアにも適用される。今後は、東電のような原発運営者が調査やデータに影響を及ぼすようなことがあってはならない。
3.日本政府は、チェルノブイリ事故の後に旧ソビエト連合によって設定された登録制度と同様に、フクシマ核災害の結果として放射能被ばくした全てのヒバク集団を登録する制度をつくり、その登録作業を持続していかねばならない。この登録の対象者となるのは:
»  放射能汚染区域からの避難者および汚染区域にまだ住んでいる住民
»  福島第一原発現場の作業員およびクリーンアップや除染作業に携わる人たち
4.汚染地域からの住民には、まだ汚染されている地域へ帰還するのか、それとも、汚染のない地域へ移住するのかを自分たちで決めることができる” 決定権利 “ が与えなければならない。移住することを決めた場合には引越し代や経済的援助が提供されなければならない。
5.避難した人々を汚染地域に強制帰還させることはストップされなければならない。とくに、人々が放射能汚染した自分たちの故郷には戻りたくないというのに、彼らへの経済的援助を打ちきることで帰還を強いるようなことがあってはならない。
6.原子力災害による影響についての疫学研究調査が実施されることを確実にしなければならない。また、被ばくした人々全員のために無料の健康診断や治療が提供されねばならない。日本国民に及ぼされる健康上のリスクについての評価は、原子力産業やその政治的支援者たちとは利害衝突のない独立した科学者たちによって、なされるべきである。
7.多量の放射性降下物が太平洋を覆ったのであるから、日本および米国を含む国際的海洋研究機関による海洋生物への影響についての組織的な研究調査が行わなければならない。
8.原子力災害によって及ぼされる影響/結果について報告することやその研究調査が、日本で新しく制定された”特定秘密保護法”のような国の抑圧によって妨げられるようなことがあってはならない。
9.福島原発メルトダウンの後、全ての原発が停止された数年間の間、日本は原子力発電なしで電力不足の問題もなくやってきた。しかし今、原子力ロビーは、大多数の日本国民の意思に反して、原子炉を再稼働させようとしている。日本は、50基の全ての原発を永久閉鎖して、その代わりとして、再生可能かつ持続可能なエネルギーの生産に投資をすべきである。日本は、ソーラーパワー/風力/水力/地熱エネルギーのような再生可能エネルギーを開発できる、と同時に、省エネルギー/エネルギー効率対策にも取り組んでいける、ずば抜けた潜在的能力/可能性を持っているのである。
10. それまで、原子力ロビーが日本政治に及ぼす甚大な影響力および政界、原発運営者/原子力産業、原子力規制機関の間にはびこる汚職や癒着について調査を行うことが必要である。そして、将来、フクシマのような大惨事が再び起こるのを防ぐために、このような汚職/癒着の横行に、事実上、ストップをかけなければならない。
以上

県民健康調査の目的に沿った調査と検査の継続と拡充を求める要望書


ひだんれん(原発事故被害者団体連絡会)

日本財団が9月に福島で行った国際会議での提言を元に、甲状腺検査を自主参加とするよう12月9日(金)に知事に提言しました。
これに対し、ひだんれんとして「甲状腺検査の継続と拡充を求める」要望書を県民健康調査課に、12月21日に提出します。

福島県知事 内堀雅雄様
県民健康調査課課長 小林弘幸様

県民健康調査の目的に沿った調査と検査の継続と拡充を求める要望書

原発事故被害者団体連絡会
共同代表 長谷川健一
同  武藤 類子

貴職の日頃のご尽力に敬意を表します。

12月10日付の福島民友新聞は、「原発事故当時18歳以下の県民を対象とした甲状腺検査を巡り、日本財団の笹川陽平会長は9日、県庁を訪れ、『検査を自 主参加にすべき』とする提言書を内堀雅雄知事に提出した。内堀知事は『大事な提言として受け止める』とし、提言を参考に県民健康調査検討委員会で議論を尽 くす考えを示した。」と報じました。
この提言書は、本年9月26日と27日に日本財団の主催で開かれた第5回福島国際専門家会議の内容を取りまとめたもので、IAEAやUNSCEAR、 WHO等国際機関メンバーらが、福島県で多発している甲状腺がんについて、福島原発事故による放射線被ばく由来ではなく「過剰診断」によるものとの指摘が なされています。

提言書3頁の「将来への提言」では、「1)福島県民健康調査事業、特に甲状腺超音波検査の今後については、地域のステークホルダー(利害関係者)、 すなわち直接その決定によって影響を受ける関係者の課題である。甲状腺検診プログラムは、個人と集団全体のリスクと便益、公衆衛生上の人的ならびにその他 の資源の需要、他の国々の同様なプログラムなどの分析を考慮した上で決定されなければならない。健康調査と甲状腺検診プログラムは自主参加であるべきであ る。」とありますが、そもそも甲状腺がんを含む異常が原発事故に起因する放射線被ばくによるものではなく、スクリーニング効果であると決めつけた前提に立 つ提言であり、この決めつけは、県民健康調査の検討委員会等で重ねてきた議論を蔑ろにするものです。

第24回県民健康調査検討委員会では、「二巡目の検査の評価が出るまで検査縮小の議論はすべきではない」「チェルノブイリの例では4、5年から低年層の甲 状腺ガンが急増することが観察されているので、実はこれからだ」「この検査は非常に特殊な事態の中で、非常に意味のある調査である」「最初は放射線の影響 は考えにくいという報告をしたが、今は懸念がある。放射線の影響を考慮しながら検証していくべき」という意見が出され、星座長も「受診率を上げるというの が一つの目標になっている」と述べています。また、福島の子どもの多くを執刀している福島医科大の鈴木眞一教授は、詳細な手術症例を報告し、125例のう ち5例を除く121例が、1センチ以上の腫瘍かまたはリンパ節転移があると説明し、「過剰診断」とはほど遠い治療実態を明らかにしました。また、片葉を摘 出した患者の中に、再発しているケースがあることも公の場で初めて認めました。

8月25日にも、福島県小児科医会は現行の甲状腺検査によって「被験者、家族のみなのらず一般県民にも不安が生じている」とし、同意を得られた人のみの検 査とするよう、規模の縮小を求めて福島県に要望書を提出しましたが、それに対して当事者団体である「311甲状腺がん家族の会」や国内外120を超える諸 団体からは、検査を縮小せず、むしろ拡充してほしいという要望書が提出されました。

福島県議会も9月の定例会で、「福島県民健康調査における甲状腺検診で、検査規模の縮小ではなく、検査の維持を求めることについて」の請願を全会一致で採択しました。

県民健康調査の目的は「東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散や避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康 状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、もって、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図る」と要綱に記されています。
今回の日本財団の提言はこの検討委員会で確認されたことに逆行する内容と言えます。福島県も「甲状腺検査は、現時点での甲状腺の状況を把握するとともに、 子どもたちの健康を長期に見守るために、本人や保護者の皆様に安心していただくため、福島県が県民健康調査の一環として行っているものです。」と謳ってい ます。

一財団が開催した国際会議の提言にとらわれることなく、福島原発事故で被ばくした被害者の実態に真摯に向き合い、県民健康調査の本来の目的に立ち返っ て、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、将来にわたる県民の健康の維持、増進を遂行していただけますよう要望いたします。

要 望 事 項

1.県民健康調査の甲状腺がん検査は縮小せず、広く県民に周知して拡充、継続すること。

2.県民健康調査では、甲状腺がんに限らず検査項目を増やし、検査のスパンを短くして、県民健康調査の本来の目的に立ち返り、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、将来にわたる県民の健康の維持、増進を遂行すること。

如何に福島医大が彼ら自身の調査をサボタージュしているか


IPPNWドイツ支部 アレックス・ローゼン(Alex Rosen) 小児科医による批判:如何に福島医大が彼ら自身の調査をサボタージュしているか

ご紹介させていただきますアレックス・ローゼン医師の論評は、2016615日に福島民友オンラインに掲載された甲状腺検査の在り方は 受けない意思も尊重』」と題された記事に基づいたものです。福島民友の記事は、甲状腺検査を巡るコミュニケーションを担当する福島医大の緑川早苗准教授が、昨年から学校を訪れ、子ども向けの出前授業を始め、そこで緑川氏が「がんが見つかったら嫌だと思う人は、甲状腺検査を受けない意思も尊重されます」と、子どもたちに話しているという事について触れています。その他の詳しい内容については下記のリンクをご覧になって下さい:

http://www.minyu-net.com/news/sinsai/michishirube/FM20160615-084642.php

アレックス先生は、如何に福島医大が彼ら自身の甲状腺調査をサボタージュしているか、様々な点を挙げながら、明確に批判しています。そして最後に、残された唯一の希望は、子どもたちや、その親御さんたちが福島県立医学大学の方略を見抜いて、これからも集団スクリーニング検査に参加することを続けていってくれる事であると結論しています。

下記が原文(ドイツ語)へのリンクです:

このアレックス先生の論評の中で下記の動画へのリンクが紹介されてありますので、ぜひご覧になってみて下さい:

原発事故当時15歳だった女性の勇気ある証言

福島における「理不尽ながん診断」

如何に福島県立医学大学が彼ら自身の調査をサボタージュしているか

著者:アレックス・ローゼン (Alex Rosen)医学博士 (小児科医/IPPNWドイツ支部副議長)

(和訳:グローガー理恵)

201684

福島で大規模な子どもたちの甲状腺がん検査/集団スクリーニングが実施されるようになってから、今や5年経った。複数の原子炉メルトダウンを伴ったフクシマ超大規模原子力事故による影響が原子力に好意的な日本政府によって故意に過小評価されているが、少なくとも、科学者、医師、保護者会は、この集団スクリーニングの実施を押し進めることができた。 福島県立医学大学によって行われている集団スクリーニングは、福島県のみに制限されていることや透明性の低さ、原子力ロビーによる福島医大への影響力など尤もな批判があるのだが、スクリーニングすることによって甲状腺がんの早期診断や早期治療ができるという可能性を提供してくれている。

さらにチェルノブイリの場合とは違い、この調査を通して、原子力災害が被曝した住民へ及ぼす影響について重要な知見を得ることができる。

一方、5年後になって終了した1巡目と2巡目にわたる甲状腺検査の結果は、検査を受けた住民における甲状腺がんの症例数が、はじめに予測されていたよりも、はるかに高い数値であることを明示している。しかし、この事に対する日本政府の反応の仕方は独特である: 彼らは家族に、誰もが自由意志でこの検査をやめることができるということを提案しているのである。

福島医学大学の 内分泌学者/コミュニケーション担当者である緑川早苗准教授は、去年から、福島県内の学校をまわって、子ども向けの”出前授業”をやっている。”出前授業”で緑川准教授は、「理不尽な がん診断」を望まない人は、集団検査を受けることを拒否する権利があることを説明する。このような表現 (「理不尽ながん診断」)が何を意味しているのか。それは、福島医学大学の出版物を読めば、はっきりとしてくる: 彼らは、これまでに福島県の172人の子どもたちに見つかった甲状腺がん症例はいわゆる「スクリーニング効果」に関連性がある、との見解を示しているのである。福島医大は、「甲状腺がん症例がフクシマ原子力災害に起因しているとの可能性は低く、これらの甲状腺がん症例は、集団スクリーニングが実施されなかったのなら、まったく見つからなかったか、もしくは、後になった時点ではじめて見つかったであろう」との見解を唱えている。なぜ、一目瞭然である原子力災害との因果関係が最初から否定されるのか、福島医大は解説しない。また、早期転移を伴った悪性度の高い進行性がん、そして、腫瘍の浸潤性増殖および腫瘍の急速な成長が高率に発生していることについても、何の説明もなされていない。一方で、131人の子どもたちに腫瘍および転移の摘出手術が適応された。摘出手術を受けた患者は、これから一生ずっと甲状腺ホルモン剤を服用していかねばならないし、がん再発の早期発見と早期治療ができるようにするためにアフターケア検診にも臨んでいかねばならない。さらに福島医大は、なぜこのような数値 (予想外に高かった甲状腺がんの罹患率)を単に ”スクリーニング効果” と関連づけて考えるのか、はっきりとした解説をしていない。

福島医大の代表者 (緑川早苗)は学校の出前授業で、「がんが見つかったら嫌だと、がん診断を望まない子どもたちがいるのなら、その意思も、また尊重されなければならないと提唱する。また、コミュニケーション担当者でもある彼女は、子どもたちやその家族が持つべき権利について一言も触れようとしない。子どもたちやその家族が持つべき権利とは、放射線汚染の危険性原子力事故後に発生する甲状腺がんに関する知識悪性腫瘍の発見が遅すぎる場合のリスク について、偏りのない公平な情報を得ることである。その代わりに、彼女はこう述べたのである: 「原発事故の後に子どもたちは検査を受けるべきだと(汚染地域の)住民 が考えたのは当然のこと。また、検査結果を放射線と結び付けて不安に思ったの も当然のこと。でも今思えば、その全て が理不尽な体験だった」と。

そして現在、多くの科学者や医師、両親たちが、検査の受診者数が減ることで甲状腺調査の価値が失われてしまうことになるだろうと、尤もな懸念を懐いているのである。できるだけ多くの年少者に検査を受けるのをやめるようにと、それとなく提案している福島医大の打算は瞭然としている。患者の自律性というものは、今まで尊重されてこなかった – したがって、子どもに甲状腺の異常が見つかった場合、家族はそのことをなかなか知らせてもらえなかったり、検査結果に関する情報も十分に与えてもらえなかったり、他の医師によるセコンド・オピニオンは概して否定されたり、診察結果や超音波画像が両親に渡されなかったりしたのである。そうして、今や、甲状腺検査の結果は甲状腺がんと原子力災害の相関関係を更にいっそう明白に示しているため、彼らは、この 患者の自律性という美名の下に、歪曲させた、計画的かつ意図的な事実の曲解を生み出そうと狙っているのであり、この事は最終的にすべての甲状腺検査を取り消し無効にしてしまうのである。既に、福島県民健康管理調査検討委員会の前検討委座長である山下俊一医師をはじめとした日本の責任担当者たちは、集団スクリーニングを止めることを告知している。これに対して抗議をすることや、独立した公正な公衆情報を要請することこそが、当を得ており適切なのであろうが、残念ながら、そのような行動を起こすことは、日本の現在の政治情勢・経済状況を考慮すると、おそらく現実的だとは言えない。

しかし、まだ希望は残っている:それは、両親や子どもたちが福島県立医学大学の方略を見抜いて、これからも集団スクリーニング検査に参加することを続けていってくれる、という希望である。

以上

乳歯中のストロンチウム90を探す


アレックス・ローゼン

医学博士/小児科医/IPPNWドイツ副議長

和訳:グローガー理恵

フクシマ原子力災害によって、はかりしれないほど膨大な量の放射能が環境中に拡散された。放射性ヨウ素とセシウムによる汚染については、日本の当局によって度々言及されており、これらの放射性同位体は土壌、水、食物のサンプルをもとに定期的に測定されているが、放射性ストロンチウムによるヒトの被曝や環境汚染の事実は黙殺されている。

汚染マップは存在しない。ストロンチウムの測定は、せいぜいのところ時折、個々の研究グループによって行われるぐらいである。また、放射能汚染された食物の摂取によって人々が受ける被曝線量を算定するために使われる食物データベースには、ストロンチムの調査がまったくない。ストロンチウムに関して分かっていることは、福島の家畜の歯中や骨中に有意な量の放射性ストロンチウムが検出されたということである。*1)

そこで、日本の独立した科学者たちは、日本市民が受けた放射性ストロンチウム被曝の研究調査に取り組むことを自分たちの目標と定めたのである ー そうすることで、これまでずっと黙殺されてきた、汚染地域に住む住民における白血病や悪性骨腫瘍の発症リスクへの注意を喚起するー とくに、子どもたちの方が大人よりもはるかに高い発症リスクを抱えていることへの注意を促すことである。

今後何年かの間に、日本全国から乳歯が収集されることになっている。これは、乳歯中のストロンチウム濃度を測定するためである。ここで重要なことは、とくに汚染がひどい地域からの子どもたちばかりでなく、ありとあらゆる年齢層の日本全国からの人々も乳歯を提供してくれることである。そうすることで、ストロンチウム濃度の経年変化や地域差の分析ができるようになる。さらにまた、これらの乳歯調査の測定データは、個々の住民集団や年齢グループにおけるストロンチウム被曝の総量を評価するためのバイオマーカーとして使うことができるだろう。

また、乳歯提供の際には乳歯と共に、提供者の乳児の時の栄養 (母乳、粉ミルク、混合 )や 飲み水 (水道水、井戸水、ミネラルウォターなど)についての詳細、および提供者の生誕地から居住地転換についての記録も提供されることになっている。過去のストロンチウム・スタディーから、乳児が生後一年間に摂取する栄養が、体のストロンチウム被曝にはっきりとした影響をもたらすことが分かっている。日本では、この局面についても研究調査がなされるべきである。そうすることで、必要な場合には、乳児のための適切な勧告ができるからである。

歯中のストロンチウム検出は技術上、大変な時間と忍耐を要する、とても込み入った仕事である。そのため、この研究調査の発起人たちは、ストロンチウムの検出方法によく精通しているスイス・バーゼル州立研究所からの国際的ノウハウを取り入れることにした。目下のところ、日本で最初に集められた200本の乳歯はバーゼル研究所で調査されている。将来は日本において研究調査を実施することが計画されているが、そのためには先ず調査目的に適った測定研究所を設立して、スタッフも養成されなければならない。しかし、研究者チームは、最終的には研究調査の結果が、研究のために費やされたすべての苦労や努力を正当化してくれるであろうとの確信に満ちている。彼らは、住民のストロンチウム被曝の経年変化を記録するために、研究調査を数十年間にわたり実施していくことを計画している。ストロンチウムの物理的半減期は28.8年である。

この研究調査の目的は、ストロンチウム汚染の実際の程度/範囲を確認し、被曝した子どもたちの健康を守るために、影響を受けた自治体や県に提言することである。IPPNWドイツは、この乳歯研究調査を支援しており、乳歯保存ネットワーク(PDTN) 呼びかけ人ネットワーク のメンバーでもある。” 呼びかけ人ネットワーク “ とは、乳歯スタディーが実際に遂行されるために、応援し助ける人々・団体のネットワークである。*2)

この重大な研究調査を実施するのが公的機関ではなく、独立した科学者たちであるという事実が、日本の政局について多くを物語っている:日本においては、全ての階層の国家機関が原子力産業の甚大な影響下にあり、彼らは政府から、できるだけ早く“フクシマ 問題 “を棚上げにして決着をつけるようにと要請されているのである。PDTNの科学者たちが取り組もうとしている研究調査は重要である。なぜなら、この研究調査は、放射能汚染地域に住む人々をその運命に任せることではなく、優れた科学によって政治や関連当局に圧力を加えることに寄与していくのであるから。

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訳注:

*1) 参考文献:二瓶英和, 福島第一原子力発電所警戒区域内被災家畜の歯中の放射性ストロンチウムとセシウムの測定, 東北大学 博士論文 2013http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/56584/1/Nihei-Hidekazu-2013-Tour03-334.pdf 

*2) 乳歯保存ネットワークの詳細についてはホームページを参照:http://pdn311.town-web.net/

原文(ドイツ語)へのリンク:  Suche nach Strontium-90 in Milchzähnen

ストロンチウムが歯中と骨中に


IPPNWドイツ支部-Fukushima Newsletter (201512月号):         

原文(ドイツ語)へのリンク:Hohe Strontium-Konzentrationen in Zähnen und Knochen

高濃度のストロンチウムが歯中と骨中に

新しい研究結果

(和訳:グローガー理恵

ストロンチウム-90は、半減期が28.8年のベータ線のみを放出する向骨性 の放射性同位元素であり、核災害における最も危険な放射物の一つである。ストロンチウム-90 はカルシウムと似ていて、体内に吸収されると骨中に蓄積され、そこで敏感な骨髄を傷つけ白血病を誘発することがある。

この非常に測定困難なアイソトープは、仙台の東北大学の一つの博士論文*が示しているように、放射能汚染地域の土壌サンプルの中に検出されたばかりでなく、損壊された福島原発周辺の避難区域の若年牛の歯中にも見つかった ー 検出されたストロンチウム-90の放射能濃度はおよそ【150Bq/kg】である。

何よりも警戒すべきことは、放射能汚染度の比較的低い地域からの牛にもストロンチウム-90が検出されたことである。このストロンチウム-90の問題は、これまで想定されてきたよりも、はるかに深刻な問題なのかもしれない。とりわけストロンチウムはセシウムよりも容易に栽培植物から取り入れられる可能性があり、検査されたサンプルの中には、ストロンチウムの濃度がセシウムよりも高い場合が幾つかあった。

また、避難区域のみがストロンチウム-90で汚染されているということは決してない。例えば、福島原発から北部の40キロ離れた沿岸区域にある相馬市に非常に濃度の高いストロンチウム-90が検出されている。さらに、福島原発から195キロ離れた、東京の北部30キロほどのところに位置する千葉県の柏市や福島から244キロ離れた大都市/横浜で、また東京首都圏でも、土壌に低い濃度のストロンチウムが見つかったのである。

放射性ストロンチウムを吸収したのは牛や家畜ばかりでなく、ヒトも、その相当量を空気、水、食べ物を通し吸収したという懸念が大きい。それゆえに、フクシマ問題に真剣に取り組んでいる日本の科学者たちは、ストロンチウムを検出調査するために、日本中の子どもたちの乳歯を集める活動を開始した。1960年代に米国で類似した研究調査が実施されたが、その結果、アメリカの子どもたちの乳歯中に非常に高い濃度のストロンチウムが検出され、この調査結果は、世界中の地上核兵器実験を禁止することに寄与したのだった。

乳歯保存プロジェクトを進める日本人科学者たちは、今後の研究調査を通して日本国内の放射能汚染区域における健康リスクに関するデータを得られることを期待している。

以上

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訳注

東北大学の一つの博士論文 :二瓶英和氏が作成した論文 ’福島第一原子力発電所警戒区域内被災家畜の歯中の放射性ストロンチウムとセシウムの測定  

http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/56711/1/nihei-2794.pdf 3ページ

 

もはや”スクリーニング効果” で理由づけることはできない


IPPNWドイツ支部 — アレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医の論評: 毎月のように発生する甲状腺がん症例 – もはや”スクリーニング効果” で理由づけることはできない

グローガー理恵

アレックス・ローゼン医師著の ”11月30日に公表された福島県の甲状腺検査の最新データ” に関する論評がIPPNWフクシマ・ニュスレターに掲載されているので、それを和訳してご紹介させていただく。

アレックス・ローゼン先生は論評の最後のパラグラフでこう述べている:「甲状腺がんを発病したために、すでに甲状腺の手術を受けなければならなかっ た115人の子どもたちの家族の運命は、看過することのできない別の問題である。福島の人々が持つべき、健康を享受し健全な環境に住めるという普遍的権利 が黙殺されているのだ。」 被災者への深い共感に満ちた言葉だと思う。また、責任当局者が真摯に受け止めるべき言葉だとも思う。

原文(ドイツ語)ヘのリンク:Jeden Monat neue Schilddrüsenkrebsfälle

毎月のように発生する甲状腺がん症例

福島県立医科大学が行った甲状腺検査の結果

著者:アレックス・ローゼン (Alex Rosen)医学博士 – IPPNWドイツ支部

(和訳:グローガー理恵)

2015年11月30日、福島県立医科大学が福島県の子どもたちにおける甲状腺検査の最新データを公表した。これらの検査は、いわゆる先行検査 (Baseline Screening)と本格検査(Full Scale Examination) と呼ばれる2部の検査で成り立っている。

先行検査 (Baseline Screening)

2011年10月から2014年3月までにおける、いわゆる ’’先行検査 (ベースライン・スクリーニング)” の 範囲内では、小児/青少年集団における甲状腺がんの有病率、すなわち甲状腺がん症例の静的な頻度が決定されることになっていた。日本の厚生労働省による と、日本国内における小児甲状腺がんの年間発症率は【10万人当たり0.3件】であるという。この数値に従うと30万人の子どもたちから成る一つの集団に おいては、年間【1件】の甲状腺がん症例数が確定されることが予測されるーこれは病徴や偶発病変を通して診断される場合である。

集団スクリーニングを通して、所謂 スクリーニング効果 (独語:Screening-Effekt)” が 生じるということは周知の事実であるーすなわち集団スクリーニングにおいて健康な受検者も検診することで、通常ならずっと後になってから初めて症候が現れ たであろういうような疾病がすでに早期段階で検出され診断が確定されるという事である。したがって、3年間半にわたる先行検査 においては、単に3件から4件以上のがん発症が診断されるであろうと予測された。この (3件〜4件の)件数を超した過剰症例は(スクリーニング効果がもたらしたとされるため)非常に早期段階のものであり、したがって罹患者にとって差し迫っ たリスクはないものと判定されるものと推測された。

しかし、実際の先行検査の結果は異なった状況を描いていた:超音波検査(エコー検査)で537人の子どもたちに甲状腺の異常が見つかった事が確認さ れたため、穿刺吸引生検が実施されなければならなかったのである。そして細胞診の結果、計114人にがん疾患の疑いがあることが明らかになった。 さらなるモニタリングで、 その圧倒的大多数が悪性度の高い進行性がんであることが判明し、その内の101人の子どもたちには転移や危険な腫瘍の増大があったため手術が行わなければ ならなかった。

手術後、一人は良性腫瘍と確定され、手術を受けた100人に甲状腺がん疾患の診断が下された (97人が乳頭がん、3人が低分化がん)。その結果、先行検査が完了した後すぐに、「このように予期しなかった、悪性の甲状腺腫瘍(がん)の多発の原因は 何なのであろうか」との厄介な疑問が生じてきたのである。少なからず、福島第一原発でメルトダウンが起こった後に日本当局が被災者たちにヨウ素剤を配布し ないと決定したことは、この甲状腺検査の結果を鑑みると非常に理解しがたいことである。

本格検査 (Full Scale Examination)

2014年4月から2巡目の甲状腺検査として、本格検査が始まっている。この検査には先行検査に含まれた子どもたち全員と、原発事故のすぐ後に生まれた子どもたち*も同様に検査対象となっている。

したがって、 この検査の対象集団は先行検査の対象集団よりも規模が大きい。現在計画されているのは、これらの検査対象者たちが、20歳 まで(21歳になる直前まで)2年ごとに、それ以降は5年ごとに検査を受けることである。2014年4月から2016年3月までの間に実施される、本格検 査における検査対象者数は計379,952人となっているが、これまでに本格検査を受けたのは199,772 人である。その中で検査結果が確認されたのは、これまでのところ、182,547 人のみ (48.0%)である。今まで、そのうちの124人に超音波検査(エコー検査)で、著しい変化/異常が見つかったため穿刺吸引生検を実施することが必要と なった。そして、細胞診により、新たに計39人にがん症例の疑いありとの結果が出た。そのうちの15人に転移や危険な腫瘍の増大があったため手術を受け、 その全員に甲状腺乳頭がんの診断が確定された。

これで、甲状腺がんの診断が確定された子どもたちの総数は115人となった。彼らには転移や腫瘍の急速な成長があったため、甲状腺手術を受けなけれ ばならなかったのである。さらに37人の子どもたちに甲状腺がん疾患の強い疑いがある。彼らはまだ手術を待っている状態である。甲状腺がん症例が確認され た15人に、がんが発生したのは1巡目の検査(先行検査)と2巡目の検査と(本格検査)との間の期間である。

2巡目のスクリーニング(本格検査)で受検者の58.9%に結節もしくは嚢胞が見つかった。1巡目の検査(先行検査)におけるその割合は、まだ 48.5%であった。ということは、1巡目の検査では甲状腺の異常がまったく検出 されていなかった32,227人の子どもたちに、新たに、嚢胞や結節が確認されたということである ー そのうちの308人に見つかった嚢胞/結節のサイズが非常に大きかったため、さらなる解明が緊急に必要とされた。さらに最初のスクリーニング ( 先行検査)で小さな嚢胞もしくは結節が見つかっていた656人の子どもたちに、再検査 ( 本格検査)では、非常に急速な(嚢胞/結節の)増大が確認されたため、さらなる診断検査が実施されなければならなかった。

残念ながら、 新たに甲状腺がんの診断が下された新規症例に関するデータは、当局によって差し控えられているため、最初のスクリーニングが正確に、いつ実施されたのか明 らかではない。先行検査と本格検査の間の期間が、予定されたように2年間であると仮定するのなら、現時点における小児甲状腺がん発生率は年間で 【100,000人当たり3.8件】になるものと推定される。

フクシマ・メルトダウンの以前の日本における小児甲状腺がん発生率は、年間で【100,000人当たり0.3件】であった。このような10倍以上にもなる小児甲状腺がん発症率の増加を、いわゆる ”スクリーニング効果 で理由づけることは、もはやできない。

単なる氷山の一角?

これまでに、まだ検査を受けていない子どもたちの数が、あることを暗示している:それは、今後、甲状腺がん症例が、この年間発症率を超えて、さらに 増加することが予測されるということである。福島県において放射線被曝をした67,000人以上の子どもたち**が、まず先行検査にまったく入っていな かったし、180,000人以上の子どもたちがまだ2巡目の検査(本格検査)を待っている状態である。そうであるから、今後何年かの間に、甲状腺がん症例 数がさらに上昇するかもしれないと憂慮すべき正当理由が存在するのである。

さらに憂慮すべきことは、ー放射性ヨウ素を含んだフォールアウトが東京都の北部までにも及び、原子力災害が始まった何日/何週間後に、さらに何十万 人という子どもたちが高い放射線量を被曝したという事が分かっているのにもかかわらずー福島県外に住む子どもたちがまったく検査を受けていないという事実 である。集団スクリーニングなしでは、これらのフォールアウトの影響を受けた人々の間で発生するものと予測される、がんの過剰症例と危険な放射線との因果 関係を確立させることはできない。

福島県は、安倍晋三の率いる日本政権と同様に、原子力産業 と深く深く癒着しており、日本では、いわゆる原子力ムラの影響力が相変わらず甚大であるということを重ねて述べねばなければならない。”原子力ムラ ’’とは、原子力企業、原子力フレンドリーな政治家たち、買収されたメディア、腐敗した原子力規制当局から成る集団を称するものである。彼らは共同で国の原子力産業の存続を推進している。

2012年には、国際原子力ロビー・IAEA (International Atomic Energy Agency-国際原子力機関)が、甲状腺検査を行っている福島県立医科大学への資金援助を通して影響力行使している可能性がある事が分かった***。

このような状況のもとで、福島県立医科大学による甲状腺検査が、放射線誘発甲状腺がん症例に関する真面目で信頼できる調査になるとは期待できない し、調査の公式結果も、もうすでに既定された結論と一致することになるだろう:すなわち、甲状腺がん発症の著しい増加とフクシマ超大規模原子力事故との因 果関係は見つからないとの結論が出されることになるのだ。

しかし、甲状腺がんを発病したために、すでに甲状腺の手術を受けなければならなかった115人の子どもたちの家族の運命は、看過することのできない別の問題である。福島の人々が持つべき、健康を享受し健全な環境に住めるという普遍的権利が黙殺されているのだ。今、この時点において必要なのは:  – 原子力災害によって及ぼされた健康ヘの影響結果を提供し、被災者の憂慮、苦悩を真摯に受け止め、経済的利害関係に非依存である独立した、科学的根拠に基づいた隠蔽性のない公平な分析調査の体制を確立させることができる、責任のある信頼できるガバナンスである。

以上

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【訳注】

*      原発事故のすぐ後に生まれた子どもたち: 事故後から2012年4月1日までに生まれた福島県民

**     福島県において放射線被曝をした67,000人以上の子どもたち:  先行検査の受診対象者数は    367,685人だったが、実際の受診者数は300,476 人 (367,685人 – 300,476人≒ 67,000人)

***   2012年には、国際原子力ロビー・IAEA (International Atomic Energy Agency-国際原子力機関)が、甲状腺検査を行っている福島県立医科大学への資金援助を通して影響力行使している可能性がある事が明かになった:   参照:外務省リンクに掲載された資料  –  ”人の健康の分野における協力に関する福島県立医科大学と国際原子力機関との間の実施取決め”

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3180:151225〕

福島における子どもたちの甲状腺がん


あってならない事は、存在し得ない
福島における子どもたちの甲状腺がん

2015年9月8日

アレックス・ローゼン

医学博士 – IPPNWドイツ支部

(和訳:グローガー理恵

2015年8月31日、福島県立医科大学は県の甲状腺検査の最新データを公表した。この検査は過去4年間において2回の異なった時点に実施されており、調査に含まれたのは、計30万人以上の18歳未満の子ども/青少年である。

1巡目の スクリーニング(先行検査)の1次検査における超音波検査で、受診者の内の537人に、非常に疑わしい甲状腺の異常が見つかったため、穿刺吸引細胞診が実施されなければならなかった。その結果、113人に ’がんの疑い’ があることが分かった。さらに、その113人の内、99人に、転移や危険な腫瘍の成長が見つかったため、手術が行わなければならなかった。手術の結果、99人の内、1人が良性腫瘍と確定され、98人に がん疾患の診断が下された。

2巡目のスクリーニング(本格検査)の検査対象集団には、福島原発事故のすぐ後に生まれた子どもたち*も含まれるため、最初のスクリーニング(先行検査)の検査対象集団よりも大きくなっている。

2014年4月から2016年3月の間に行われるスクリーニング(本格検査)の検査対象者総数は378,778人であるが、これまでに検査を受けた受診者数はたったの169,445人だけである。2巡目のスクリーニング(本格検査)で受診した169,445人のうち、これまでのところ、153,677人の検査結果が確定されたのみである(40.5%) 。そのうち(153,677人)の88人に 穿刺吸引細胞診が必要とされた。その結果、計24人にがんの疑いがあることが新たに判明した。そして、その内の6人に転移や危険な腫瘍の拡大が見つかったため、手術が行われなければならなかった。そして、手術をうけた6人全員にがんの診断が確定した。

すなわち現在、104人の子どもたちに甲状腺がんの診断が下されたことになる。彼ら全員に転移やがん腫の急速な成長が見つかったため、甲状腺手術が行わなければならかったのである。さらに他の33人に、甲状腺がん疾患の 強い疑いありとの判定が出されており、彼らはまだ手術を待っている状態である。

2巡目のスクリーニング(本格検査)で、受診者の58.4%に結節もしくは嚢胞が見つかった。最初のスクリーニング(先行検査)では、この(結節もしくは嚢胞が見つかった)割合が、まだ48.5%であった。ということは、最初のスクリーニング(先行検査)においては、甲状腺の異常が全く検出されなかった28,438人の子どもたちに、新たに、再検査(本格検査)で、嚢胞と結節が確認されたということであるーしかも、その内の270人に見つかった嚢胞/結節のサイズが非常に大きかったため、さらなる解明が緊急に必要とされたのだった。

さらに、最初のスクリーニング(先行検査)で小さな嚢胞もしくは結節が見つかった553人の子どもたちに、再検査(本格検査)においては、非常に急速な(嚢胞/結節の)増大が 確認されたため、さらなる診断検査が実施されなければならなかった。 1巡目のスクリーニング(先行検査)と2巡目のスクリーニング(本格検査)との間の期間に、確定された甲状腺がん症例が6件発生したのである。

先行検査と本格検査の間の期間が、予定されたように2年間であると仮定すれば、小児甲状腺がん年間罹病率(発病率)は、【100,000人当たり2件近く】になると推算される。フクシマ原子力事故以前の日本における、小児甲状腺がんの年間発病率は【100,000人当たり0.3件】であった。 所謂 ”スクリーニング効果 ” を理由にして、 このような子ども/青少年たちにおける甲状腺がん発病率の増加を正当化することは、もはやできないのである。

さらに、放射線被曝をした福島県の67,000人以上の子どもたち**が、これらの検査(先行検査および本格検査)に全く含まれていなかった事、そして、残りの209,000人以上の子どもたち***が未だに2巡目の検査(本格検査)を受けていない状態である事が挙げられる。そうであるから、今後数か月間に、甲状腺がん症例数が、さらに上昇するかもしれないと懸念すべき正当な理由が存在するのである。放射能汚染による最も著しい影響は、がん発病までの潜伏期間があるため、いずれにせよ、今後何年か後に現れることが予測される。

福島県立医科大学で甲状腺検査の最新データが公表された同じ日、福島県は既にこれらの憂慮すべきデータに対する反応を示した。彼らは、予測できなかったほどに高い子どもたちの甲状腺がん症例数が、福島第一原発のトリプル・メルトダウンがもたらした放射性ヨウ素の放出と関連しているのかどうかを調査することを研究チームに委託したのである。しかしながら、福島県にとってこの研究調査の結論は、もう最初の書類に目を通す以前に既に決まっているのである:「福島県で見つかった甲状腺がん症例が福島原発事故に由来するとは、ありそうにない。」 そのような早すぎる結論既定には驚かされる。なぜなら、この研究調査の真剣さ/重大性に対しての疑念を呼び起こさせるからである。

認識せねばならないことは、福島県が東京の日本政府と同様に、国の原子力産業の影響力に深く浸透されている事、そして、所謂 “ 原子力ムラ ” の勢力が引き続き甚大であるという事である。日本で、”原子力ムラ’’とは原子力企業、原子力フレンドリーな政治家たち、買収されたメディア、腐敗した原子力規制庁から成る集団を呼ぶ名称である。彼らは共同で国の原子力産業の存続を促進している。このような状況のもとで、福島県による放射線誘発された甲状腺がん症例の研究調査が、真剣で信頼性のあるものになる事は期待できない。そして、今年中に出されることになっているその研究調査結果も、すでに存在する既定結論と一致するものになるだろう:甲状腺がん発病率の著しい増加と、2011年3月に発生したフクシマ超大規模原子力事故との因果的な関連性は見つからなかった – なぜなら、あってならない事は、存在し得ないのであるから****。

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【訳注】

* 福島原発事故のすぐ後に生まれた子どもたち:事故後から2012年4月1日までに生まれた福島県民

** 放射線被曝をした福島県の 67,000人以上の子どもたち’が、これらの検査に全く含まれていなかった事: 先行検査の受診対象者数は367,685人だったが、実際の受診者数は300,476 人であった。

*** 残りの209,000人以上の子どもたちが未だに2巡目の検査(本格検査)を受けていない状態: 本格検査の受診対象者数は378,778 人だが、実際の受診者数は169,455人 である。

**** あってならない事は、存在し得ない(独語: Da nicht sein kann was nicht sein darf ):ドイツの詩人/著作家、クリスティアン・モルゲンシュテルン (Christian Morgenstern)の作品 ”Die unmögliche Tatsache (仮訳:不可能な事実)” から引用された句。福島県や日本政府にとって、甲状腺がん発病率の著しい増加と、2011年3月に発生したフクシマ超大規模原子力事故には因果的な関連性があるという事が判明することは、”あってならない事”であり、そのような因果関係は “存在し得ない”、ということを示唆している。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3086:150920〕

原文(ドイツ語)へのリンク:

http://www.fukushima-disaster.de/deutsche-information/super-gau/artikel/c0954b1c87134eef0b3444d988c2d152/da-nicht-sein-kann-was-nicht-sein-da.html

「あの人に迫る 中西準子 環境リスク学者」 (東京新聞2015-08-23号)を読んで


松井英介

(岐阜環境医学研究所)

この記事の上記タイトルのすぐ下には囲みがあって、次のように書かれている。

「あなたに伝えたい 思想によって人の命や自由は簡単に奪われてしまいます。だから、事実や根拠に基づいて物事を決めていかなくてはいけない」。

中西準子を知らなくても、この囲みの記述に惹かれて、記事を読んだ人があるかもしれない。

この記事の大見出しは「早期帰還めざし線量の見直しを」。

ここで私は「おやッ?!」と思ったのだが、彼女を取材した林勝記者の「インタビューを終えて」は、福沢諭吉を援用しながら次のように述べ、中西準子を高く評価している。

「中西さんは、まさに福沢のような独立自尊とカラリとした精神の持ち主だった。キャリアウーマン、リケジョ(理系女子)の先駆けでもある」。

私がこの記事を読んで、「おやッ?!」と思った理由、記事を読んで感じた疑問点と、私なりの、林勝記者と東京新聞への提言を以下に列挙する。

  1. なぜ、中西準子と林勝記者は「移住の権利」保障を主張しないのか?

そうではなくて、なぜ、早期帰還実現のために線量の見直しを提案するのか?

子どもたちを、人工核物質による余分な被曝から守るために、人工核物質による環境汚染の少ないところへ移り住めるようにする「移住の権利」の保障が最優先課題ではないのか。

  1. なぜ、除染が放射線の被曝リスクを下げるための唯一の選択肢なのか?

彼女はこの記事の中で次のように述べている。

「除 染の目標を徹底的に下げれば、放射能のリスクが下がるから良いように思えますが、逆に、いつまでたっても帰れません」。「その間に被災者の生活や人生設計 が破壊されるリスクを考えないと。一つのリスクを無理に減らすと、別のリスクが大きくなる。これをリスクトレードオフといいます」。

「移住の権利」保障にはまったく触れずに、あたかも除染が放射線被曝リスク低減に有効な方法、しかも唯一の方法であるかのごとき論を展開し、除染と人生設計を計りにかけるリスクトレードオフとは、一体何なのか。

彼女は、「事実や根拠に基づいて物事を決めていかなくてはいけない」と主張するが、除染が放射線被曝リスク低減に有効であったという、事実や根拠があるのか。

  1. なぜ、空間γ線量測定値をもとに計算した実効線量単位シーベルトで内部被曝リスクを論じるのか?

この記事の中で中西準子は、一貫して実効線量シーベルトでリスクを論じているが、日本の実効線量は空間γ線量測定値をもとに計算されたものであって、1991年に制定されたチェルノブイリ法の土壌中各核種の放射線量をもとに計算された実効線量とは根本的に異なるものだ。この重要な事実が、この記事では完全に無視されている。林勝記者も彼女に問いただしてはいない。

林勝記者が、今中哲二編「国際共同研究報告書―チェルノブイリ事故による放射能災害」技術と人間、1998をまだ読んでいないのであれば、同書とくにP.48~49を熟読するよう勧めたい。

また、中西準子は一貫して国際放射線防護委員会(ICRP)の基準で、被曝リスクを論じている。ところがICRPのとくに内部被曝のリスク評価はかなり過小評価されていることが、以前から指摘されている。

なぜ、「低線量」内部被曝を無視してきたのか

ICRPの提唱するSv(実効線量)は、身体の各部分が不均一な被曝を受けたとき、全身均一な被曝に換算すれば、どれだけの被曝量に相当するかという考え方に基づいている。

内 部被曝の場合、各局所の組織・細胞集団の被曝状況は、きわめて不均等だ。バイスタンダー効果や放射線誘導遺伝的不安定性・ミニサテライト配列、エピジェネ ティックスなど最近の分子生物学的研究の成果、動物を使った基礎実験研究の結果、さらに世界各地の放射線汚染地域で行なわれた疫学研究の成果は、ICRPの基本的考え方が、持続的な内部被曝による晩発障害をきわめて過小評価していることを示している。

ICRP1950年 発足当初備えていた内部被曝に関する委員会を、早々に排除した理由は、内部被曝の健康影響を考慮すると原子力関連のさまざまな作業に従事する労働者とその 子どもの健康を維持できなくなり、原子力戦略推進に重大な支障をきたすことになるとして、巨大な力をもつ原子力産業が判断したためだ。

ICRPの内部被曝線量委員会委員長であったカール・Z・モーガンのコメントは次のようだ。「すべての放射性核種の最大許容濃度(MPC)を決定。ICRPは、原子力産業界の支配から自由ではない。原発事業を保持することを重要な目的とし、本来の崇高な立場を失いつつある」カール・Z・モーガン、ケン・M・ピータソン著、松井浩、片桐浩訳.「原子力開発の光と影 核開発者からの証言」昭和堂, 2003

ハンフォード原子力施設労働者の健康障害

アメリカ合衆国疫学会の第一人者・マンクーゾは、アメリカの「原子力委員会(AEC=NRCとERDAの前身)の委託を受け、1944年から1972年までの29年間ハンフォード原子力兵器製造施設で働いた労働者24,939人の調査を行った。彼らのうち死亡者は3,520人、このうち白血病をふくむがんによる死亡は670名だった。彼らが生前職場で浴びた外部放射線量は平均1.38rad(1rad=10mGy)。それに対してがん以外の原因で亡くなった労働者の平均線量は0.99radだった。がんによって亡くなった労働者の方が、生前40%多く放射線を浴びていたことになる。この調査結果をもとに、マンクーゾは1977年に発表した報告書で、つぎのように結論づけた。「人間のいのちを大切にするというのなら、原子力発電所内部で働く作業従事者の被曝線量は年間0.1rem1mSvに抑えるべきである」。

マ ンクーゾの方法論は、「ソシャル・セキュリティー・ナンバー(国民一人一人に番号をふり、生年月日、出生地、職種、家族構成、収入、死亡年月日、死亡地な どがすべて記録される)」を駆使した精度の高いものだ。この報告書を発表した途端に、アメリカ政府エネルギー省は調査費の支給を打ち切り、調査データをマ ンクーゾの手から奪い取り、彼に「ペルソナ・ノン・グラーダ〈危険人物〉」の烙印を押した

内橋克人「日本の原発、どこで間違えたのか―“原発への警鐘”」朝日新聞出版, 2011

林勝記者には、ぜひとも次の拙著もご参照いただきたい。

松井英介著「見えない恐怖―放射線内部被曝―」2011年、旬報社刊

松井英介「『低線量』放射線内部被曝からいのちと人権を守る―ICRPの実効線量を検証する―」月刊保団連, No.1167, 2014, P.45-9

松井英介「『脱ひばく』いのちを守る―原発大惨事がまき散らす人工放射線」花伝者,2014

国際放射線防護委員会(ICRP)とヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)の被曝リスクとくに内部被曝(体内に取り込まれた各種核種が放出するα線線量とβ線線量から実効線量を導く際の荷重係数などにはかなり大きな違いがある。

ICRPは、γ線、β線およびα線の放射線荷重係数(WR)を、それぞれ1120と定めている。ICRPは、放射線荷重係数(WR)を各核種の生物学的効果比RBE, relative biological effectivenessの平均値を代表するように選択した。

これに対してECRREuropean Committee on Radiation Risk欧州放射線リスク委員会)は、ICRPα線とβ線の荷重係数は過小だとして、低線量領域の被曝に対する生物物理学的損害係数WJを提唱した。

係数WJを被曝のタイプ別にいくつかの例を紹介すると、それらは次のようだ。外部急性被曝:1.0。外部24時間で2ヒット:1050DNA損傷の修復を妨害することを考慮)。内部原子単一壊変:1.0(例えば40K)。内部2段階原子壊変:2050(壊変系列と線量に依存)。内部不溶性粒子:201000(放射能と粒子サイズ、線量に依存)。プルトニウム酸化物ホット・パーティクルの線量については、115000に及ぶとの評価を紹介している。

ECRRについて日本では必ずしもよく知られているとは言えないので、簡単にそ生い立ちを紹介する。ECRRは、1997年ヨーロッパ議会のグリーン・グループによって開催されたブリュッセルの会議での議決に基づいで設立されたNGOだ。

グリーン・グループは、消費財として放射性廃棄物をリサイクル利用するための民主的規制が、欧州議会内で働いていないことに懸念を抱き、人工放射能(man-made radioactivity)のリサイクル利用がもたらし得る健康影響に関する科学的アドバイスを求めた。その会議では、低レベル放射線がもたらす健康影響については著しい意見対立があり、この課題について公式レベルの調査がなされるべきであるということになった。

評決によって、そのために新しく設立されることになったのが、ECRRと名づけられた主体だった。そして、ECRRの検討課題は、従来の科学に関するいかなる事柄についても仮定を設けてはならず、国際放射線防護委員会(ICRP)、国連科学委員会(UNSCEAR)、欧州委員会(European Commission)からの独立性を保たなければならないとされた。

ECRRが設立されて間もなく、欧州議会内の科学的選択肢評価(STOA; Scientific Option Assessment)機構が、公衆と労働者に対する電離放射線被ばくの「基本的安全基準」への批判について議論するための会合をブリュッセルにおいて開催した199825日)。この会合で、カナダの著名な科学者であるバーテル博士Dr.Bertellは、冷戦期を通じて核兵器と原子力発電を開発してきたという歴史的な理由から。ICRPは原子力産業に与するように偏向しており、低レベル放射線と健康の領域における彼らの結論や勧告はあてにならないと主張した欧州放射線リスク委員会(ECRR)編、山内知也監訳「放射線被ばくによる健康影響とリスク評価―欧州放射線リスク委員会(ECRR2010年勧告、明石書店、2011, 8994」)

ここではこれ以上詳述しないが、EU議会で認知されたECRRは、ICRPと同じ国際NGOなので、ECRRは日本でももっと評価されてしかるべきだ。

  1. 各種放射線による内部被曝を評価するためのイロハ

参考までに、体内に取り込まれた人工核物質微粒子から放出される各種放射線による内部被曝を評価するためのイロハを、セシウム137とストロンチウム90を例に解説する。

原子炉でウラン235やプルトニウム239が分裂したとき、さまざまな人工核物質が生み出される。セシウム137とストロンチウム90もそれらのひとつだ。これらは1対1の割合で生成される。これらが、3.11大 惨事の際破壊された原子炉・格納容器からどのように自然環境中に放出されたか。地下水と触れ、大量に海に放出されていることは、政府などの報告でも明らか だ。遠隔地への大気を介した飛散については、公開されたデータが不十分だ。私の見た政府発表では、事故後それほど経過していない時期に、相馬市で、セシウ ム137とストロンチウム90101の割合で検出されている。(政府の各地域別経時的測定値一覧が東京新聞のデータベースにあれば、せひともご教示いただきたい。)

身体に取り込まれた場合、体内での動きには大きな違いがある。

セシウムは、カリウムとよく似ていて、心臓や骨格筋によく取り込まれる。物理

学的半減期は約30年。水溶性の化合物になると3ヶ月くらいで排出されが、非水溶

性の場合、何年も出て行かない。はかの核物質に変わる(壊変する)ときγ線とβ線を出す。γ線は飛ぶ距離(飛程)が長いので、ホールボディーカウンター(WBC)で測ることができる。しかしβ線は、体内での飛程が数mmと短いのでWBCでは測定できない。

  1. 抜けた乳歯のストロンチウム90を調べてβ線による骨・骨髄の内部被曝を知る

ストロンチウム90は、カルシウムとよく似て、骨や歯に集中的に蓄積される。物理学的半減期は、約29年とセシウムと同じくらいだが、骨や歯にとり込まれると、何十年も排出されない。壊変のときβ線しか出さないので、WBCでは測定不能。別の方法が必要。幸い、ヒトの場合、歯は生え変わるので、抜けた乳歯を調べることができる。大気圏内核実験が盛んだった半世紀も前から、乳歯に含まれるストロンチウム90の検査は世界各地でやられてきた。

ところが3.11原発大惨事以降、日本政府は自らこれを責任もってやろうとはしていない。福島県「県民健康調査」検討委員会も、乳歯のストロンチウム90検査をやるよう提案があったが、未だ実施していない。

3.11以後に生まれた子どもたちの乳歯が間もなく抜け始める。これを私たちの手で独自に調べるために、まず乳歯を捨てずに保存する運動を呼びかける計画だ。

検体・試料としての乳歯を優れた点は、試料採取に際して苦痛が全くないこと、試料の保存が容易であること、全国的に多数収集することが可能であることなどだ。

東京新聞には、私たちの乳歯保存+ストロンチウム90測定ネットワーク提案をお汲み取りいただき、ご協力・ご支援を是非とも願いしたい。

  1. ストロンチウム90の生体影響は、決して無視できるものではない
  2. 政府発表では、自然環境中に放出されたストロンチウム90の比率が小さいように見えるが、上の解説で紹介したように、骨・骨髄・歯に取り込まれたストロンチウム90微粒子は、水溶性セシウム137化合物が3ヶ月ほどで排出されるのに比して、2030年の長期にわたって蓄積し、排出されない。骨髄中のリンパ球など血球の幹細胞に、水溶性セシウム137100倍もの長期間にわたってβ線が照射されつづける。その結果、白血病の発症や免疫能を担うリンパ球機能不全の原因となる。体内蓄積時間の長さを考えれば、ストロンチウム90の生体影響は、決して無視できるものではない。
  1. なぜ、「ストロンチウムの飛散がほとんどない」と言えるのか?

中西準子はその著書「原発事故と放射線のリスク学」日本評論社, 2014の中で、次のように述べている。

「②ストロンチウムの飛散がほとんどないと考えてよい、ここがチェルノブイリなどとの相違点である(P.80)」。

林勝記者は中西準子取材に先立って、少なくともこの本は読んでいたであろう。ならば、この記述は、どのような事実・調査結果を基にしたものなのかを、まず問いただすべきだったのではないか。

また、同書の同じページ(P.80)で「ホールボディーカウンターでは、①α線やβ線の影響はわからない、②ストロンチウムの影響は反映されていない」などと記述する一方、P.7679では、次のように書いている。

「福島県によるWBC検査が始まったのは20116月、南相馬市立総合病院で東京大学医科学研究所の医師坪倉正治さんが始めたのが同年7月である。(中略)坪倉正治(JAMA201220119月から2012331日までに福島県南相馬市計画した3286人については、預託実効線量が1ミリシーベルトを超えたのは1人で、その線量は1.07ミリシーベルトであったと報告している」。(中略)「福島を含めて、内部被ばくの問題は全くないと考えていいだろう」。

このように、セシウム137γ線量だけを測定したWBCのデータと食品のセシウム137および134のマーケットバスケット方式によって測定データをもとに、中西準子は「内部被曝はない」と断言しているのだ。

この後、上述のP.80の記述になるのだが、林勝記者は、中西準子がストロンチウム90などβ核種の生体影響を排除し、放射性セシウムが放出するγ線の影響だけで内部被曝を評価した点を、問いたださなかったのか。

  1. セルゲイ・ラフマノフ在日ベラルーシ共和国特命全権大使、土壌中各核種の測定の必要性と重要性を日本政府に提言

セルゲイ・ラフマノフ在日ベラルーシ共和国特命全権大使は、「ベラルーシから見る日本の原発事故後の課題」と題した論考の中で、課題1:正確な汚染マップの作成を挙げ、つぎのように述べている。

「ま ず一番重要な課題は、正確な汚染マップを作ること。日本には、すでに汚染マップがいくつかあり、公表されていますが、私たちから見るとモデル図のようなも のです。現実を反映していないと思っています。なぜかというと、この汚染マップは空中から測定されてものだからです。地表から一番近いところでも高さ1mで測定されています。このようにして作った地図は正確性に欠けます」。

  1. 「一方、ベラルーシの汚染マップは、8年がかりで化学的なテクノロジーを使って作りました。さまざまな地域で表層土壌を採取して、化学的に分析したのです。当時は、1地点の採取試料の調査に数日かかることもありました。しかし、いま私たちは、たった5分で同じ分析ができる技術をもっています」。

「この分析施設は国際基準を満たしており、米国で製造されている類似のものと比べても、優位な点が多くあります。この設備は日本への輸出が始まり。2013年以降、大量に導入される予定です」ベラルーシ共和国非常事態省チェルノブイリ原発事故被害対策局編、日本ベラルーシ友好協会監訳「チェルノブイリ原発事故ベラルーシ政府報告書最新版」産学社2013, P.1618

同大使は、土壌中各核種の測定の必要性と重要性を日本政府に提言しているが、日本政府はこれを無視しているものと推定される。

東京新聞には、ベラルーシ大使と日本政府に対する、この重要な問題点に関する取材を、是非ともお願いしたい。

   

  1. 早野龍五監修「坪倉正治先生のよくわかる放射線教室」の重大な問題点

中西準子は、上に紹介した著書の中で、早野龍五・坪倉正治を高く評価している。その二人が、主役を担っている一般住民向けブックレットが、当初二万部印刷され南相馬市民に無料で配布された。その後二万部が増刷され、英語版も発刊された(ベテランママの会, 早野龍五, 南相馬市立総合病院「福島県南相馬発坪倉正治先生のよくわかる放射線教室」2014

この本が孕んでいる極めて重要な問題点について、ここでは詳述しないが、α線とβ線による内部被曝を無視している点と、天然核種と人工核種を単純に比較することによって一般市民の内部被曝理解をミスリードする点についてだけ指摘しておく。そして、後者の誤りを示すために、以下に、ウクライナWBCセンターの研究成果の一部を図とともに紹介する。

・水溶性と非水溶性セシウム137の体内動態は異なる

次に示すウクライナのキエフの研究所・ホールボディーカウンター(WBC)センターのデータをご覧いただきたい。水溶性と非水溶性のセシウム137の体内分布をWBCで測定し天然のカリウム40のそれと比較した結果だ。

次ページ上の図では、飲食物とともに摂取した水溶性セシウム137の体内分布はカリウム40の分布とほぼ重なっており、全身に分布している。一方、腎からの排出は、カリウム40の方がかなり速いことがわかっている。

一方下の図では、非水溶性セシウム137は心や肺の存在する胸郭部分にとどまり、全身への移行がわずかであることが示されている。すなわち、セシウム137は、心臓と肺にとどまり、セシウム137が放出するγ線とβ線とくにβ線による心臓への影響が大きいことが示唆される。

 r1

図:EXPERT WHOLE BODY COUNTER-ASSISTED
IN VIVO METHODS OF RADIONUCLIDES DISTRIBUTION ASSESSMENT IN HUMAN BODY
, V.A. Pikta, V.V. Vasilenko
Department of radiation hygiene and epidemiology, National Research Centre for Radiation Medicine (NRCRM), Kiev, Ukraine

またこれらのデータは、私たちが地球上に出現する前から自然界に存在した天然放射性核種(この場合カリウム40)と私たちが出会ってまだ70年ほどしか経っていない人工放射性核種を同等に扱ってはならないことを教えている。

現在地球上に存在するのは、天然放射性核種に適応し、それらが体内に入ってきても直ぐに体外に排出する構造と機能をもった種=生命体なのだ。ところが私たちを含む地球上の種=生命体は人工放射性物資に適応していないのだ。

すなわち、人工核物質と天然の核物質を同等に扱い、それらの人体影響を機械的に比較評価することの誤りであることを、この研究結果はよく示している。

・非水溶性セシウム137を検出 気象研究所

気象研究所(茨城県つくば市)のグループは、3.11事故の後比較的初期の段階(31415日)に放出された球状セシウム含有粒子を観察したところ、それらは、サイズが大きく、鉄、亜鉛、セシウムを含有し、非水溶性であったと、報告している。

そして、この知見は、事故の経過を理解し、健康への影響および環境中での滞留時間を正確に評価するための鍵になる、としている福島核事故の初期段階における球状セシウム含有粒子の放出、Emission of spherical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident Kouji Adachi, Mizuo Kajino, Yuji ZaizenYasuhito Igarashi Scientific Reports 3, Article number: 2554 | doi:10.1038/srep02554 受付日:2013612日 承認日:2013815日 公表日:2013830日)

1:つくば市における福島第一原子力発電所事故後のエアロゾル粒子の放射能 

S8320日~21日期間採取のフィルター試料のSEM分析。

a)      拡散した斑点を含むフィルター断片のSEM(走査型電子顕微鏡;引用者付記)イメージ(図2)。フィルターは数層に薄切りされ(図S4-b)、この画像はその薄切り片の1つのもの。

b)     フィルターのIPイメージ。放射性物質がフィルター全面に分布している。

c)      それぞれアルミノ珪酸塩鉱物および硫酸塩粒子に相当するAlおよびSの元素分布イメージ。これらの粒子はフィルター全面に分布している。

 

このように、3.11事故の後、気象研究所では、水に溶けないセシウム137含有粒子を検出した。関東圏の降下物中に非水溶性人工放射性物質の微粒子が存在したという事実は、非常に重要だ。

  気象研究所で収集された資料をもとにしたこの研究は、東電福島第1原発事故現場から約170km離れた茨城県つくば市にセシウム137のホットスポットが形成されたことを示すものだ。著者Adachi らは、文献を挙げながら、次のように記述している。

 「大気中に放出された放射性物質は、北半球全域にわたって移動した。たとえばヨーロッパで、マソンら32011311日に採取した空気から放射性セシウムとヨウ素を検出し、その最大値レベルを328日から30日にかけて観測した。事故が世界規模の影響をもたらしたにも関わらず、事故の期間中、原子炉内でなにが起こったのか、われわれにはいまだに正確にはわからず、また放射性Cs放出量の推計値は9から36ペタベクレルまでと大きくばらついている」。

  日本国政府には、できるかぎり細かいメッシュで土壌を採取し土壌中に降り積もった全ての種類の人工核物質について調査し、その結果を一般に開示する責任があると、私は考える。

  1. 「移住の権利」の保障こそ、最も重要な緊急課題だ

3.11原発大惨事の被害者を、これ以上苦しめてはいけない。

福島県各地をはじめ、自然生活環境が人工核物質によって汚染された地域に住んで働き子育てせざるを得ない、あるいは、仮設住宅に暮らさざるを得ない状況に置かれた人びとの苦難は筆舌に尽くしがたい。その仮設住宅も2017年には無料貸与を止めると日本政府言い出している。全国各地に移住した人びとの子どもたちの苦しみも、3.11原発大惨事後4年半が経過しようとしている現在、決して軽減されてはいない。

その根本原因は、日本政府の「帰還政策」にある。例えば私の住んでいる岐阜市の場合、借り上げ住宅の補助金を、今年4月で打ち切ってしまった。全国各自治体の対応には違いはあるようだが、中央政府の基本政策は、元住んでいた福島県など人工核物質で汚染された地域への「帰還」だ。

1991年に、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアなど各々制定した「チェルノブイリ法」は、前述したように、土壌中各核種の放射線量測定値(kBq/m2)をもとに実効線量を求め、年間5ミリシーベルト以上の地域を「避難(特別規制)ゾーン」、年間5ミリシーベルト以下1ミリシーベルト以上の地域を「移住権利ゾーン」と定めた。そして「移住の権利を保障」し、移住先で働き暮らし子育てができる条件を整えた。

国連人権理事会特別報告者アナンド・グローバーは、福島第一原発事故後の「健康に対する権利」の実情について、201211月現地調査を行い、20135月国連人権理事会に調査報告書を提出した。この中で、日本政府に対し、低線量被曝の影響も考慮し、年間1ミリシーベルトを基準とする健康に関する施策を行うよう勧告した。

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)は、世界各国の医師約20万人で構成されるNGOだ。1985年にノーベル平和賞を受賞している。そのIPPNWは、国連グローバー勧告のすぐあとに、これを支持する声明を出し、日本政府の帰還の基準である年間20ミリシーベルトは受け入れがたいとし、日本政府は福島県中通りに生活する60万人が避難・移住できるように諸条件を整えるべきだと踏み込んだ提言をした。

ところが日本政府は、国連グローバー勧告に抗議するという、異例の対応をしたのだ。

東京新聞紙上で中西準子は一見被害住民の立場に立つかの如く装いながら、実は日本政府の帰還政策を補完する論を展開しており、記事自体が、被害住民に新たな苦難やストレスになると考えられる。私は一臨床医として、安易にこれを看過できなかった。

 ・人工放射性核種による自然環境生態系汚染とヒトのいのちへの影響を化学物質によるそれらと同列に扱ってはならない

中西準子のリスク学を読むと、そこに一貫して流れているのは、人工放射性核種による自然環境生態系汚染とヒトのいのちへの影響を化学物質によるそれらと同列に扱う考え方だ。

一度自然生態系が人工放射性核種によって汚染されると、10万年もの長期にわたって元に戻ることはない。除染によって人工放射性核種が自然界から取り除かれると思うのは幻想であって、一時的に他所に移動させたにすぎない。除染ではなく移染なのだ。

ヒトの場合も胎児や乳幼児への影響がとくに懸念されるのは、ヒトへの深刻な遺伝的影響が次世代に受け継がれ、ヒトという種そのものの存続が脅かされるからだ。

人工核種によるいのちの汚染とリスクは化学物質による影響をはるかに超えており、極めて憂慮すべき事態として重視しなければならない。

1957WHOは「ヒトにおける放射線の遺伝的影響」(英語版とフランス語版)と題する重要な報告書を出したが、1959年以降この報告書の入手はきわめて困難となり、日本語訳もない。

何故であろうか?

「ウクライナ政府(緊急事態省)報告書」を報道したNHKの取材チームは、つぎのように書いている。

IAEAなどの国際機関は、白血病、白内障、小児甲状腺がん以外の疾患に関しては、原発事故の影響とは認めていない」馬場朝子・山内太郎「低線量汚染地域からの報告」(2012年)NHK出版、P.129

ここでは、「ウクライナ政府(緊急事態省)報告書」から、遺伝的影響に関する記述のごく一部を次に引用しておく。

「親の生殖細胞に導かれた放射線の影響は、子孫の個体発生および様々な段階で現れる可能性がある。出生後の個体発生の“小さな”突然変異は、おそらく、遺伝的構造の全体性の不安定化を生じさせるヘテロ接合条件において具現化される。

場合によっては、この現象はいわゆる“生理的劣性”の基礎となり、被曝した親の子孫の多様性を減少させるものかもしれない。被曝した人々の子孫における遺伝的なゲノム不安定性の結果は、多数の異形、器官の形成異常、染色体異常頻度の上昇、マイクロサテライトDNA 部分の突然変異の存在であるかもしれない。これらすべてが生活していく条件への適応を障害することに寄与し、多因子型疾患の発生と具現化のリスクを増大させ、被曝した親から生まれた子どもの健康レベルを低下させている。

このように、放射線の影響を受けている小児期年齢集団の健康状態の動的な変化は、以下のような、持続する負の傾向という特徴を示している。

-子どもたちは、さまざまな病気の発症率が増加しているだけでなく、実際に健康な子どもが量的に減少しており、その傾向は変わっていない。健康状態が最低レベルの子どもは、事故時に甲状腺に高線量の被曝をした子どもたちである(P.64)」。

 IAEA(国際原子力機関)WHO(世界保健機関)との間で覚書を交わして、WHOが放射線の健康影響に関して発言するのを封じたのは、1959年のことだった。UNSCEAR(国連科学委員会)IAEAと同じ考えだ。ICRP(国際放射線防護委員会)も、国連機関ではなくNGOだが、同じ考え方に立っている。これら国連安保理の下で強大な政治力をもった原発推進国際機関を中心にした国際核軍産複合体について明快に解説を加えた本を二冊紹介する。

コリン・コバヤシ著「国際原子力ロビーの犯罪」(2013)以文社。

チェルトコフ著「チェルノブイリの犯罪―核の収容所【上巻】」(2015)緑風出版。【下巻】9月発行予定。

3.11原発大惨事以降、さまざまな裁判が闘われ、いまも闘われているが、これらの中でもっとも重要な裁判は、『子ども脱ひばく裁判』だと私は考えている。これは福島県中通りの母父と子どもたち200人あまりが原告となり、国を相手どって起こした裁判だ。全国どこにいても原告になることができる。期限は切られていない。訴状(2014-08-29)の一部を以下に引用する。

「こ れまでみた通り、自然災害とは根本的に異質な放射能災害が引き起こす健康被害は深刻なものであり、とりわけ放射能の感受性が高い子どもたちにとって、その 影響は甚大である。人間は放射能に打ち勝つことはできず、その抜本的な解決は被ばくから遠ざかること、すなわち避難にほかならない。国は、憲法上、子ども たちを安全な環境で教育を実施する義務を負い、さらに福島原発事故発生に対して加害責任を負う立場として、原発事故に全く責任のない純然たる被害者である 子どもたちを救護する義務を負うのは言うまでもない。言い換えれば、国は汚染地域の子どもたちを直ちに安全な場所に集団避難させる政策を決定し、実施すべ き義務を負っていた(P.41)」。

この裁判については、井戸謙一弁護士が優しく解説した次のブックレットをご参照いただきたい(井戸謙一「怖がってもいい、泣いてもいい、怒っていい、いつか、さいごにわらえるように―『子ども脱ひばく裁判』の弁護士が、ふくしまの親たちに送るメッセージ―」ママレボ出版局,2015

  1. 「あの人に迫る 中西準子 環境リスク学者」と同大のスペースを、「移住の権利」保障のために闘う私たち市民に提供するよう、東京新聞に要求する

知 人友人にこの記事を紹介すると、これが東京新聞の記事だとわかったとき、一様にびっくりする。そして例えば次のようにつぶやく。「読売新聞や産経新聞だっ たら、やっぱりと思って苦笑いするのだけど、これが東京新聞?!」「東京新聞は頼りにしていたのに、これから何を信じたらいいの?」。

だから私はこのような紙面づくりは、東京新聞の自殺行為だと思う。そして東京新聞の購読ももう止めようかという誘惑に駆られたのだが、待てよと思いとどまった。  

そして、せめて東京新聞の名誉回復のためにも、「あの人に迫る 中西準子 環境リスク学者」と同大のスペースを「移住の権利」保障を要求して闘う私たち市民に提供するよう求めたい。

 

  1. なぜ林勝記者は、「アジア侵略の先導者であり差別主義者であった」福沢諭吉(安川寿之輔)を高く評価するのか

この論考の冒頭に紹介したように、中西準子を取材した林勝記者は、「インタビューを終えて」で、日本の自伝文学の最高峰とされる福沢諭吉(18371901)の「福翁自伝」から〈子供ながらに精神は誠にカラリとしたものでした〉などと引用して,福沢諭吉をもち上げている。

福 沢諭吉は、朝鮮の人びとが耕していた土地を奪い、日本語と日本名を強い、働き手を労働者や皇軍兵士として強制連行し、年端もいかない十代の娘たちを皇軍の 性奴隷をして拉致し、人間の尊厳を踏みにじった植民地主義者だった。さらに中国をはじめアジアへの侵略のリーダーであり、アジア人差別主義者だった。

これらは紛れもない歴史事実だから、ジャーナリスなら知らないはずはない。

と同時に、アジアの人びととの真の友好関係を築くための前提として、日本政府が過去の植民地支配と侵略戦争の歴史事実を認め謝罪すべきだとの議論がなされている戦後70年の今、このような主張を紙面で展開する東京新聞のセンスを、私は問いたい。

安倍首相をふくむ原発推進国家権力からも大バッシングを受けた「美味しんぼ―福島の真実」の著者・雁屋哲が、安川寿之輔らが以前から提唱していた福沢諭吉の「一万円札からの引退を!」を掲げて立ち上がったのには、深い想いがあるに違いない。

それは、3.11原発大惨事によってすべてを奪われ、今なお塗炭の苦しみを味わっている人びとに寄せる人間らしい心だ。またそれは、福島など過疎化する地方の人びとを侮辱しつづけてきた国際核軍産複合体に対する強い怒りだ。

雁屋哲は呼びかけている。

「圧力をはねのけて、自分の命、子供の命を守るために声を上げてください」(雁屋哲著「美味しんぼ『鼻血問題』に答える」(2015年)遊幻舎、P.260)

この件に関しては、以下の著書も参照いただきたい。

杉田聡著「天は人の下に人を造る」(2014年)インパクト出版会

安川寿之輔編「さようなら!福沢諭吉 創刊準備2号」(2015年)発行人:安川寿之輔

(完)

福島県の子どもたちの甲状腺がん:破綻した「過剰診断」論


満田夏花

8月31日の「福島県県民健康調査委員会」で公開された資料の内容および当日の審議内容をもとにまとめました。
深刻な状況なのに受診率も下がっています(1巡目検査の受診率は81.7%であったのに比して、2巡目の検査の受診率は激減し、44.7%)。
もはや「事故との因果関係」を否定することに固執するのはやめ、政治的な思惑抜きに、手術後の症例などもふまえてきちんと議論するべき局面です。
また、「リスコミ」という放射線安全神話のプロパガンダではなく、被ばく低減、健診の拡充にこそ予算を投じるべきでしょう。
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ファクトシート:福島県の子どもたちの甲状腺がん
「悪性または疑い」137人に
http://www.foejapan.org/energy/news/150904.html
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2巡目25人、うち前回「問題なし」23人

8月31日、福島県県民健康調査委員会で、福島県の子どもたちの甲状腺がんの最新の状況が明らかになりました。
それによれば、甲状腺がんの悪性または疑いと診断された子どもたちの数は、合計137人。2014年から始まった2巡目検査で甲状腺がんまたは疑いとされた子どもたちは25人。この中には、1巡目の検査で、問題なしとされた子どもたち23人が含まれています。
「疑い」とは、ここでは、細胞診において「甲状腺がん」と診断された人のことです。「確定」とは手術後に摘出した組織などを調べて診断した結果です。
国立がんセンターの統計データでは、甲状腺がんは10代後半で10万人に約0.9人とされています。現在、福島の子どもたちの甲状腺がんの率がそれをはるかに上回ることについては、「スクリーニング効果」、すなわち一斉に甲状腺エコー検査を行うことにより、通常よりも前倒しで発見されたことによるものと説明されてきました。しかし、すべてを「スクリーニング効果」とする根拠が不十分である上、2巡目の検査で前回問題なしとされた23人については、説明できません。
多いリンパ節転移や甲状腺外浸潤
破綻した「過剰診断」説

政府は、2巡目で甲状腺がんが見出されて以降も、「事故との因果関係は考えにくい」とし、一部の専門家たちが唱えている「過剰診断論」を盾にして新たな対策を取ろうとしません。

「過剰診断」とは、ここでは「生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断」をさしています。すなわち、大したがんでもないのに、「甲状腺がん」と診断し、手術を行うことをさしています。
しかし、8月31日、手術を受けた子どもたち99人の症例について、福島県立医大(当時)の鈴木眞一教授によるペーパーが公開され、リンパ節転移が72例にのぼること、リンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移などのいずれかに該当する症例が92%にのぼることが明らかになりました。県民健康調査委員会の清水一雄委員も「医大の手術は適切に選択されている」と述べています。すでにこの「過剰診断論」は破綻しているのです。

資料はこちらから>https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129308.pdf

鈴木眞一教授は、ずっと甲状腺がん検査の責任者でしたが、以前より、「過剰診断」という批判に対して、手術を受けた患者は「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」として、「放置できるものではない」としていました。

1巡目と2巡目の比較
福島県立医大は、2011年10月から2014年4月まで行われた1巡目の検査を「先行検査」とし、事故前の状況の把握と位置づけています。また、2014年4月からはじまった2巡目検査を「本格検査」として事故後の状況の把握としています。この両者を比較してみましょう。

1巡目調査

2巡目調査

* 対象:平成23年3月11日時点で、概ね0歳から18歳までの福島県民。 367,685人。
* 受診者300,476 人(81.7%)
* 悪性ないし悪性疑い113人
* 男性:女性38人:75人
* 平均年齢17.3±2.7歳(8-22歳)、震災当時14.8±2.6歳(6-18歳)
* 平均腫瘍径14.2±7.8㎜(5.1-45.0 ㎜)

細胞診等で悪性ないし悪性疑いであった113人の年齢、性分布(検査時の年齢)

* 対象:先行検査における対象者に加え、事故後、2012年4月1日までに生まれた福島県民にまで拡大。 378,778 人、
* 受診者169,455人 (44.7%)
平成26年度実施対象市町村において
* 悪性ないし悪性疑い25人
* 男性:女性11人:14人
* 平均年齢17.0±3.2歳(10-22歳)、震災当時13.2±3.2歳(6-18歳)
* 平均腫瘍径9.4±3.4㎜(5.3-17.4㎜)
細胞診等で悪性ないし悪性疑いであった25人の年齢、性分布(検査時の年齢)
<第20回福島県県民健康調査委員会(2015年8月31日)資料をもとに作成>
受診率の低下~リスコミという名の不安対策の弊害

心配されるのは受診率の低下です。1巡目検査の受診率は81.7%であったのに比して、2巡目の検査の受診率は激減し、44.7%です。
ただでさえ、被ばくによる健康リスクについて考えたくない心理がある上に、政府の「被ばくは大したことはない」「不安に思うことのほうが健康に悪い」といった放射線安全キャンペーンが効を奏していると考えられます。
政府は、リスク・コミュニケーションといった不安対策に巨額の予算を投じるのではなく、個々の症例についての分析と、県外への健診の拡大、甲状腺がんのみならず、甲状腺の機能低下やその他の疾病も見据えた総合的な健診のあり方を真剣に検討すべきでしょう。