セシウム137による心筋の病気


ユーリ・バンダジェフスキー
ガリーナ・バンダジェフスカヤ

「カルディナル」2003年10月号に載ったフランス語版(チェルトコフ訳)による

ベラルーシ南部の田園地帯には、チェルノブイリの原子炉爆発以来、至るところに放射性セシウム(Cs137)が存在する。食物連鎖の中にこれが存在する結果、身体組織にセシウムが蓄積するのである。子どもが胎内にいる間は、胎盤がフィルタとして胎児を守る。生後はまず母乳によって、次いで地元産の食品や牛乳、野菜、果物、肉、森の漿果類、きのこ、魚、野鳥などによって、子どもの体は汚染を受けてしまう。

こうした子どもたちには、たいへん高い頻度で、高血圧の発症が見られる。子どもたちは疲れやすく、すぐに息切れする。胸の痛みに苦しんだり、子どもによっては心臓の機能が充分でないこともある。こうした心臓の病から、子どもは突然死んでしまうこともある。

心臓の先天的な畸形も、この地域では発症率が目立って上昇している。

汚染された子どもの身体内の、セシウム137の分布

人体用ガンマ線スペクトル計測装置(ホールボディカウンタ)によって、セシウム137に特化した身体組織の計測ができる。これによる検査が学童を対象として行なわれた。検査の際の決りはごく単純だ:子どもはスペクトル分析装置の肘掛け椅子に座って、3分間じっとしていなければならない。使われているのは、V・ネステレンコが率いるベルラド放射線防護研究所の移動チームの装置である。村に暮す子どもたち一人ひとりに蓄積しているCs137は、同じ村に暮す大人と比べて、平均して3倍ほども高い。

ホメリ病理研究所(ベラルーシ)で私たちは、農村部の村で亡くなった方々の解剖を通じて、子どもたちの数値が、同じ地方の成人と比べてやはり3〜5倍高いことが分った。子どもたちの場合で、特に線量が高い部位を順に挙げると、まず副腎、腎臓、甲状腺、膵臓、胸腺であり、次いで骨格筋、心筋、腸壁、脾臓である(3)。

放射性セシウムノ身体組織内での特異な分布については、ずっと以前から知られていた。セシウムが心臓や内分泌腺に集まることから、1927年以来、たいへんに半減期の短いセシウム131という同位体を用いて、甲状腺の病気を研究してきたのだし、ある種の心筋拘束の場所を特定するのにも使われてきた(4)。

セシウム137による内部被曝は、外部被曝とは異る。ガンマ線は体に浸透してきやすく、外部被曝は、基本的にガンマ線によるものだ。ベータ線はごく短距離しか飛ばないが、体内に入ったCs137から恒常的に放射されていて、線源から数ミリメートル単位の半径にある細胞の、ゲノムや細胞膜にとってはずっと有毒である(5)。

臨床所見

ここでは、子どもたち、中でも、就学年齢の子どもたちについて述べることにする。

子どもたちの場合

学童たちの身体内にあるセシウム137の線量はまちまちである。

■ 僅かな運動をしただけで、頻脈、不整脈、血圧の不安定、異様な疲れ、といった症状が出る子どもがたくさんいる。収縮期血圧が標準より20mm以上も高いという意味での、高血圧はこの病気によく見られる要素である。強度に汚染されている地区では、子どもたち2人に1人にこうした症状がある。

■ こうした«疲れた»子どもたちを臨床的に検査すると、時に、収縮音が聴き取れるが、2つの音の組み合わせで、最初にしばしば聴き取りにくいほどの音がした後、次いで倍化された音が聴き取れる。

心電図からは流通障害、不完全脚ブロック、再両極化の異常、際立った洞結不整脈などが見られる。

これらの心電図上の異常な状態の程度は、臨床的に見られる様々な徴候の程度と同様、身体組織内のCs137の分量と直に相関している。小児科診療所の大半はホールボディカウンタを備えていない。そこで、そうした診療所はこの心臓の病と人工放射性核種とを結び付けて考えることができない。

■ 体重1kgあたりのCs137が0〜10Bqの子どもの80%以上で、心電図には異常がない。
■ 11〜36Bq/kgでは、子どもたち3人に2人が、心電図に異常がある。
■ 37〜100Bq/kgでは、80〜90%の子どもたちに、もっとはっきりした心電図の異常が出る

成人の場合

成人では、体重1kgあたり20〜30Bqを超えるセシウムが慢性的にある場合、軽微な運動とか、感染症とかによって体に負荷がかかると、心臓がそれについていくのが難しくなる。こうした心臓の病は突然死に行き着くことがある。子どもでもそうした突発的な死は同じように起こる。

病理解剖:心筋の劣化と壊死

心臓が慢性的に充分に機能していない徴候を呈している症例では、平均して心筋1kgあたり136±33BqのCs137がある。大人でも子どもでも、心臓は肥大し、心臓の血液送出が不十分である徴候が看て取れる。心筋の虚血をともなった冠動脈の狭窄、あるいはアテロームに関連した梗塞は、このグループでは稀である。そこで、心筋組織内の劣化や壊死のこうした現象に、セシウムの慢性的蓄積が果している役割に疑いを向けることができる。

これらの症例の組織検査によって、心臓の筋肉に異常があることが分る。心筋繊維の萎縮ないしは肥大であり、横紋の消失を伴う。細胞核収縮ないし細胞死を伴う心筋繊維の劣化も観察される(図1)。ところどころ、細胞が局所的に凝集していて、全般的に間質浮腫が見られるが、炎症によって曇って見えるような個所はごく僅かだ。

心臓以外の臓器にも状態の劣化が見られる。特に、内分泌腺と腎臓だ。甲状腺の機能不全は心臓障害を顕在化させることがある。腎臓の障害は、この人たちの間に高血圧の頻度が高い説明になるかもしれない。

図1
Cs137によって高度に汚染された地区で暮していた67歳の女性の心筋

バンダ心筋図
心筋に、心筋繊維の劣化や壊死がある。エオシン好性原形質、横紋消失、自己融解。細胞核の変質、固縮。間質浮腫はあるが、炎症による曇りも出血もない

溝鼠での実験

セシウムの集積と心臓疾患との関連性は、動物実験によって確かめられる。

■ ウィスター系列種の鼠にCs137によって400Bq/kgの汚染のある穀物を餌として与えた(1日の平均穀物量は45g)。10日めに、鼠の体内のCs137は平均63,7Bq/kgになった。しかし解剖して計測すると、心臓では、心筋1kgあたり、平均445,7kgのCs137であった。つまり、心臓以外の身体の7倍もある。

実験の途上、血清内でアルカリホスファターゼとクレアチニンフォスフォキナーゼの活性低下が観察された。その一方で、アラミントランスフェラーゼの活性は非常に増大していた。酵素レベルでのこうした変化は、代謝障害の深刻さの証しである。組織検査からは、心筋細胞の劣化が明かになった。電子顕微鏡で見ると、心筋の変質はミトコンドリアのレベルにまで達していた(1,2)

■ 12匹のウィスター系列種に毎日5mlの180BqのCs137溶液を、胃袋に管を挿して摂取させた。1週間の後、動物の生体の体重1kgあたりで平均850Bqになった。脂肪組織や骨や皮膚と比較して、ずっと多くのCs137を集積する組織が幾つかあった。全身の値に比べて、腎臓では15倍の多さであったし、心臓では11倍であった(図2)。

心臓の組織検査の結果、心筋に劣化が見られ、心筋繊維に幾つか壊死もあったが、心筋炎も梗塞もなかった。

図2
180BqのCs137を1週間毎日投与された鼠の体重1kgあたりの体内Cs137

banda_Cs137_fig21:全身  2:肝臓  3:腎臓  4:心臓
5:脾臓  6:骨格筋  7:睾丸  8:肺

肝臓と腎臓と心臓とが格別に高いことが分る。脂肪組織や皮膚などに比べて、腎臓や心筋にはずっと多くのCs137が集積する。

子どもの症状の回復可能性

心臓のこうした症状に対して、林檎ペクチン末をベースにした吸収剤による治療効果を研究した。ペクチンの有効性は鉛、水銀などの重金属では確かめられている。この療法によって、Cs137非含有の食事のみを与えた場合の、3倍の早さで体内のCs137が減少する。

■ 体内のCs137が減少するとともに、症状の幾つかは軽減が見られる。調査したのは94人の子どもたち、男の子が46人と女の子が48人である。

心電図が正常に戻るのは、Cs137の減少がかなりの程度である場合である。右側不完全脚ブロックの消失、あるいは再両極化障害の消失が見られる。私たちの患者の一人で、14歳の少女の場合であるが、治療前の心電図は右側脚の不完全ブロッックを表示していた。その時の体内Cs137は全身体重1kgあたりで36、8Bqであった。16日間のペクチン療法の後で、心電図は右側不完全ブロックの消失を示した。その時の体内Cs137値はスペクトル装置の検出限界値5,0Bq/kg以下に下っていた。血圧は20/70mmHgで、変化しなかった。

今後、被験者となる子どもたちの数を増やし、また、ペクチンと偽薬の2グループに分けるなどして、さらに実証研究を進めていきたい。

■ 今までのところ、高血圧の子どもたちの血圧を正常に戻すことはできていない。

私たちとしては、セシウムにより中毒した患者へのペクチンの3〜4週にわたる投与を年に3回繰返す療法の実現を提案したい。


1 -BANDAJEVSKY YU.I, LELEVICH V.V. Clinical and experimental aspects of the effects of incor- porated radionuclides upon the organism. Ministry of Health.Gomel
State MedInstitute Gomel;1995 ; pp 128.
2 -BANDAJEVSKY YU.I. Pathophysiology of incorporated radioactive emission. Gomel State Medical Institute ; 1998 ;pp 91.
3 -BANDAJEVSKY YU.I. Chronic incor- poration in children’s organs. Swiss Med. Weekly.Septembre 2003
4 -NESTERENKO V.B. DEVOINO A.N., NESTERENKO I.E. et al. Monitoring of population of the Chernobyl region of Belarus for the radioprotection, by assessment of
radionuclides in food and human organism. Intern.J. Radiation Med.2001 ; 3 (1-2) : 93
5 -BANDAJEVSKY YU.I, NESTERENKO V.B., RUDAK E.A. Medical and biological effects of incorporated 137Cs in radioresistant human tissues. Intern. J. Radiation Med. 2001; 3 (1-2) :12.
6 -BANDAJEVSKAYA G.S. : Thesis in Russian; Moscow, 1998 ; pp28.
7 -BANDAJEVSKY Yu.l.,BANDAJEVSKYAG.S. Incorporated caesium and cardiovascular
patho- logy. Intern.J.Radiation Med.2001 ; 3 (1-2) : 11-12.