«資料» ICRPの勧告


アニ・シュジエ

ASNの広報誌「制御(Controle)」167号(2005年末)に掲載されているアニ・シュジエの論文である。

国際放射線防護委員会(ICRP)の目標は、放射線の諸効果に関する知識の状態を吟味し、有害な働きを防護の規則と観点から同定することにある。1928年に国際放射線学会の決定に従って造られたICRPは、今日でもなお、非政府組織という身分をもった、国際的な放射線の学会であり続けている。最初のうち、ICRPの任務は、放射線の効果に直面している医療部門の職業人たちの差し迫った問題に解答を与えることに、集中されていた。その時以来、電離放射線の実際的使用が拡大するにつれて、ICRPの重要性も、その関心の中心も、大きく拡大してきている。ICRPはICRU(国際放射線単位と測定委員会)と密接な関係にある。放射線学での大きさと単位とを定義する委員会だが、ICRPとは双子のような組織だ。またICRPは国際連合関係の諸組織や、欧州委員会とも緊密な関係にある。
ICRPそれ自体は研究活動はしていないが、世界中で行なわれている研究の結果を分析する。また、他の国際組織による仕事も検討する。例えば、UNSCEAR(原子放射線の効果についての国際連合科学委員会)の仕事である。ICRPは定期的に、特に規制諸機関の必要に合わせて、全般にわたる勧告を公にしている。そうした勧告の中では、ICRPが依拠している科学的基礎が明確にされ、防護の規準や、ある被曝水準をICRPが超えるべきでないと判定するに至った価値判断も明確にされている。図1は、国際規準の醸成過程の中での、ICRPの位置を示している。

図1 : 放射線防護の教義の練り上げ過程

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入手できる科学的知見の分析に依りながら、ICRPは、用心の意味で、浴びた線量と、癌や遺伝病を発症する危険性との間に、閾値なしの直線的な関係という仮説を維持している。ICRPの体系を構成する3つの原則(実践の正当化、防護の適切化、被曝の限度設定)はこの仮説に依拠しているし、これに従って、個々人を放射線に曝すあらゆる意図的活動について、それによる利益と不利益とを吟味し、そうした被曝を合理的に可能な限り軽減し、そうして結局のところ、限度値ないし何らかの規準値以下にすることが、課されている。こうした数値の選択もまた、裁定の対象なのであり、ICRPの様々な出版物の中ではそうした裁定が明確に述べられている。

ICRPは、5つの特別委員会に拠って、分析の仕事を進めている。科学的諸側面を扱う第1委員会、内部測定を扱う第2委員会、医療への適用を扱う第3委員会、医療以外への適用を扱う第4委員会、環境保護を扱う(新に造られた)第5委員会である。

防護体系の発展

非政府組織ではありながらも、ICRPが順次発表してきた勧告書は、国際機関が基本的な規準や指示文書を出す時の共通の基盤として役立てられてきた。そこからさらに、加盟国の国内法規に内容が移入された。

一番新しい勧告書(ICRlP出版物60号)が出た1990年以来、科学的知見の増進、技術発展、経験回帰法、社会の進展への同調の熱望などから、ICRPはその防護体系の発展が何を生み出しているかを自問し、概念と、状況の類型に従って使用される基準値ないしは限度値との、全般的整合性に関わる変更、あるいは人間の防護体系から環境のそれへの拡張に関わる変更を、提案することになった。

出版物60号で定義されている防護体系は、数十年にわたる熟考の積み重ねの産物である。線源も被曝状況も実に多様になってきており(自然の放射線源か人工か、状況は普通のものか、あるいは潜在的か、事故によるのか、慢性的なのか、等々)、被曝の範疇にも色々ある(職業的なもの、公衆の、あるいは医療による、等々)中で、それらをすべて包括できるようにすることを目指して、体系はますます複雑なものになってきている。被曝の線源、状況、範疇のこのような多様性を考慮に入れようと、ICRP60号は、活動を2つの類型に分け、それぞれに原則と概念とを異なった形で適用するのが良いだろうと考えるに至った。その類型とは:
・「実践」:現に存在している被曝の、水準引き上げと言い換えれる、人間的諸活動である。(電離放射線を使って産業設備を稼動する、というような場合)
・「介入」:現に存在している被曝の、水準引き下げと言い換えれる、人間的諸活動である。(緊急の状況、自然線源による高線量被曝、事故や以前の活動に起因する慢性被曝などの場合)

加えて、ICRP60号に続いて出された10冊の特集出版物の中で、個人線量の制限として勧告されていた数多くの数値が、考えられている状況のによって違った表現で記載されていてた。限度値であったり、義務的制限値であったり、行動に出るべき水準とか、介入すべき水準といった具合である。表1に、ICRP60号以降の出版物で、線量の制限を数値で勧告し、体系の適用に触れているものを示しておいた。
« 表1 » ICRP60号(体系の適用)以降に出た、ICRPの出版物

出版物62号 (ICRP, 1993) 生物医学的研究のための放射線防護
出版物63号 (ICRP, 1993) 緊急の状況での介入の諸原則
出版物64号 (ICRP, 1993) 潜在的被曝の場合の防御:一般的枠組み
出版物65号 (ICRP, 1994) 住居と労働でのラドン222に対する防御
出版物73号 (ICRP, 1997) 医療現場での放射線防御と安全
出版物75号 (ICRP, 1998) 労働者防御の一般的諸原則
出版物76号 (ICRP, 1998) 一点集中型被曝の場合の防御:特定線源への適用
出版物77号 (ICRP, 1998) 使用済み燃料や廃棄物に適用される放射線防御
出版物81号 (ICRP, 2000) 長寿命の使用済み燃料の保存に適用される放射線防御
出版物82号 (ICRP, 2000) 長期にわたる慢性被曝の中での公衆の防御

2000年に、全般的勧告の見直し作業を開始した時に、ICRPが一番力を入れようとしたのは、危険が続いているか否か、また被曝がどの程度制御可能かといった、決定権者が直面している事態の様相に応じて、行動の一覧を段階付けて提示し、体系を単純化するということであった。この段階付け表示には、限られた数の値が並んでいて、それぞれが防護のうえでの基本水準を、単一の線源によって個人が受け取る線量(線量の義務的制限値)という形で現わしてある。線量の義務的制限値は、決定権者が、以下の識別標識に照らして、状況を判断したところに従う:
・個々人の被曝の軽減が、多かれ少なかれ容易 (掌握)
・件の活動から個々人が引き出す直接間接ないし社会的利益 (利益)
・情報、職業教育、被曝している人々の経過観察 (情報/経過)

表2に、現実に起りうる被曝状況の例を上げ、当該個人の被曝をどのような義務的制限値以下に維持するべきと、ICRPが勧告しているかを示した。

« 表2 » ICRPの第1線の義務的制限値

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ICRPの提案する3つの数値は、一つの支配的線源に曝されている個人が受忍可能な最大被曝水準に対応している(線量の義務的制限値)。この値を守るというだけでは充分ではない。これに加えて、適切化の原則を適用する必要がある。 このように、線量の義務的制限値は、適切化過程の天井値を現わしている(上方の縛り)。経済的社会的要素を考慮に入れた上で、被曝を、そして被曝人数を、合理的に可能な限り、縮小するのが適切化過程である。

個人が幾つもの重大な線源の下にある時には、こうした数値を分割する必要もあろうし、そうした状況の一つごとに線量の義務的制限値として一つの値を守っていく必要がある。ICRPは例えば出版物77号で、公衆の多数の線源からの被曝の場合には0,3 mSv という数値が推奨されることをあらためて述べている。

線量の義務的制限値に向けて提案している数値の段階付け表示は、以前の出版物で勧告されていた数値に取って替わるもの、というわけではなくて、そうした数値を共通の枠組みに入れ込むことによって、それぞれが適用されるべき状況のもつ特徴を明確にし、全体がうまく統合されていることをはっきりさせている。

«図2 » 被曝の軽減を目指した行動要請の評価要素

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最後に、線量の義務的制限値の段階付け表示では、指標として、自然放射線の数分の一ないしは数倍といった比較の仕方で、防護活動の要請が強いものであるか否かを示している。これは、自然放射線はまったく無害である、ということを意味しているのではない。付け加わる、あるいは既存の被曝水準ごとの衝迫の多寡を、自然背景放射線との関係で示しているのである。

新体系の基本的諸特徴

新体系は基本的に、現行体系からの継続性の意志によって特徴付けられる。経験回帰法や、また前(2001〜2005)の委員会によって展開されたたいへん開かれた形の査問の過程での、職業人たちからの反応とを考慮に入れての改革である。ICRP60号で提出された正当化、適切化、制限の諸原則はそのまま適用されるが、義務的制限下での適切化にいっそう力点が置かれるようになった。このようにしてICRPは、出版物60号の用語をまさにそのまま採用した時点で、勧告には規制の変更を含むことはないと考えているのである。改革される部分は、教育的な供覧の中でより強く感じられるが、ICRPの特集出版物の今後のすべての改訂作業の中でも感じ取られるに違いない。

要約すれば、新しい勧告の基本的諸特徴は、下記の通りである:
・あらゆる被曝状況(普通、緊急、既存)の中での、個人線量の義務的制限値を、一つの線源との結びつきの中で、評定する。この制限値が、労働者および公衆の防護の基本的水準となる。
・普通の被曝状況下で、個人が曝される被曝線源からの総量が判定可能な場合に対するICRP60号の線量制限の値は維持される。
・義務的制限値と限度値との遵守の要請を、防護の適切化過程に実行によって補完することを義務付ける。
・正当化の原則を維持するが、しかし、新たな実践の導入の正当化である場合は、防護の諸条件は決定に際して比較的小さな役割を演ずる、ということを認めている。
・測定の大きさや単位の定義の中で用いられている平衡という要素の、最近の科学的データを考慮した改訂がされている。
・患者への線量水準については、診断ないし治療の目的に沿って計画されている手順に、期待されている利益との関係の中で、評定することに力点を置いている。
・人間以外の種の保存という政策が導入されている。
今のところまだ練り上げ途上の新しい諸勧告は、委員会の防護体系の重要な諸側面を発展させる「根本」文献に依拠している。こうした文献の扱っている主題は、次のようなものだ:生物学的および疫学的基礎、大きさと単位、防護の適切化、定義、医療被曝、応用分野。

次なる一歩

委員会とその5つの専門委員会は、2005年のジュネーヴ会議の時点から、新な4年の任期を開始しており、主宰者はスエーデンのラース=エリク・ホルムがイギリスのロジャー・クラークを引き継いでいる。

新しい総裁の主要課題の一つは、根本文書の練り上げの仕事の完了になる。これは2005年4〜7月に査問に掛けられていたものだ。それはまた、全般的諸勧告の文書中に、2005年3月にパリで、委員会のいちばん最近の集りの際に決定された変更事項を盛り込むことでもある。最新版勧告の新たな査問が2006年春に予定されていて、その後、この文書全体の出版は2006年または2007年になるはずだ。

本論文でも強調しているように、規制諸機関に現行規準を変更するよう勧告することを狙ってはいない。むしろ、ICRP60号(「義務的制限下の適切化」)で既に導入されている規制の原則や概念のうちの幾つかに力点を置くこと、そして状況がどのような類型のものであれ、適用を理解拡げていくのが狙いである。危険というものは継続的に存在し、 防護の活動は被曝状況の制御可能性の多寡にかかっているというのが、メッセージの要である。