放射能のまとめ: セシウム137/バリウム137


竹内雅文

セシウム137からはどういう放射線が出てくるのか、また、放射線が出るというのはどういうことなのかを、まとめてみました。

セシウム137は自然界にはもともと存在しなかった不安定な元素で、いずれは崩壊して安定な元素に変ろうとします。ほぼ30,2年の間に、半数のセシウム137が崩壊すると言われていて、これがセシウム137の「半減期」です。この崩壊の時に、強い運動エネルギーをもった電子が放出されます。この放出される電子をβ線(ベータ線)と呼びます。そしてセシウム137はバリウム137という元素に変わります。この過程をβ崩壊と言います。こうして出来たバリウム137は一部を除いて不安定な状態で、内部に余分なエネルギーを抱えています。これを捨てて安定した状態に移行するために、長くても数時間以内に、高いエネルギーの光子が放出されます。これをγ線と呼びます。この過程をもう少し詳しく見ていきましょう。

ele03β線、γ線が出てくる仕組みを理解するためには、原子というものの成り立ちを頭に入れておく必要があるようです。中心には原子核があり、その周辺に幾つかの電子が、何層かに別れて存在するとされています。原子核の内部には陽子があり、この陽子の数と外側にある電子との数が同じであるのが、その原子の充全な状態で、電子に出入りがあって、数にズレがある時は、その原子が荷電している、ないしはイオン化した状態です。電気的な状態から言うと陽子は常にプラスであり、電子はマイナスです。通常はプラスとマイナスが同数で釣り合った状態になっています。原子は陽子の数=電子の数ごとに違った名前が付けられています。陽子の数=電子の数が「1」ならば、水素です。「6」ならば炭素、「16」ならば硫黄、「29」ならば銅、「80」ならば水銀です。この陽子の数を、原子番号と読んでいます。

ele01ここで、陽子が2つある場合のことを考えます。陽子が2つある元素はヘリウムです。プラスのものが2つ、隣り合わせになっていることになります。プラスとマイナスは引きあいますが、プラスとプラスとは反発しあいます。磁石のN極どうし、S極どうしが反発しあうのに似ています。

ele02そこで、2つの陽子はそれだけでは一緒にいて原子核を構成することができません。1つの陽子に、もう1つ別の陽子を無理矢理ぶつけてくっつけることは、出来るそうです。特定の速度でぶつければ良いということのようですが、その時、片方の陽子は中性子に変わってしまいます。

中性子はもともと陽子と同じような構造のものです。陽子や中性子は、3つのクォークからできていて、陽子は2つのu-クォークと1つのd-クォーク、中性子は1つのu-クォークと2つのd-クォークからできています。u-クォークは+2/3に荷電された粒子、d-クォークは−1/3に荷電された粒子で、

2d+1u = 2× (+2/3) + 1× (−1/3) = +1 (陽子)

1d+2u = 1× (+2/3) + 1× (−1/3) = ±0 (中性子)

ということになります。陽子の中にあるd-クォーク2個のうち1個がu-クォークに変身すれば、 中性子に変れることになります。

ele06陽子と陽子とが一緒にいられるためには、中性子が必要なようです。ヘリウムは通常、原子核の中に陽子2つの別に中性子を2つもっています。中性子は陽子と陽子とをくっつける取り持ち役のような存在になっています。プラスどうしでは反発してしまってくっつかないのに、中性のものが介在するので、一つの原子核の中に共存できるのだということになるようです。水素以外の元素では、すべての原子核中に中性子が存在します。ただ、同じ原子番号の元素でも、中性子の数はいつも同じというわけではありません。

ele04例えば酸素(O)の場合、原子番号は8で、陽子数は8です。中性子も8つあるのが普通ですが、4つしかない場合もあり、20個もある場合もあります。中性子の数から見た場合に、酸素原子には25種類あることになります。こうした違った酸素どうしを互いに同位体(isotope)であると言います。これらを区別するためには、陽子の数と中性子の数を足した数を、元素名の後に付けるようになっています。通常の酸素は酸素16です。25種類ある酸素のうちで、安定しているのは1617183つだけで、あとはすべて不安定な元素で、いつかは崩壊します。つまり、放射性元素であることになります。もっとも安定しているのは酸素16で、すべての同位体のうち99,8%が酸素16です。

酸素の場合、もっとも安定した形では、陽子と同じ数の中性子を原子核に持っていることが分かりました。ところが、色々な元素のいちばん安定した同位体の陽子と中性子の数を比べてみると、原子番号が上がるにつれて、中性子の数が次第に増えていくことが分かります。下の表では、幾つか飛び飛びに元素を選んで、中性子と陽子との比率を出してみました。赤字になっている最下行のセシウム137以外はすべて、それぞれの元素の同位体の中から、一番普通にあるものを選んであります。陽子の数が増えてくると、原子核の中の諸要素が、多分、次第に複雑な構造を形作るようになっていくのでしょう。余分に緩衝材を入れないとうまく結合しなくなっていくようです。

元素

陽子

中性子

中性子/陽子

160 酸素

8

8

1,000

59Co コバルト

27

32

1,185

127I ヨウ素

53

74

1,396

133Cs セシウム

55

78

1,418

137Ba バリウム

56

81

1,446

238U ウラン

92

146

1,587

247Cm キュリウム

96

151

1,572

137Cs セシウム137

55

82

1,491

セシウム137はウラン236の核分裂によって生まれる人工元素です。核燃料にゆっくりした速度で中性子を衝突させると、その中に34%ほど含まれているウラン235がそれを吸収していったんウラン236になりますが、これはたいへん不安定な元素で、2つに割れてしまいます。割れ方は決まっているわけではないので、色々な元素がそこで生まれていくのですが、どちらにしても、半分前後の陽子数のものが2個出てくるわけです。その時、中性子が余ってしまいます。ウラン236の場合、中性子と陽子の比率は1,565ほどですが、原子番号50番前後の元素は1,4前後が安定比率です。分裂の時に数個の中性子が外部に飛び出したりするのですが、それでも、どういう割れ方をした場合でも、たいがい中性子は余分になります。

ウラン236が炉内で分裂する時には、中性子が幾つか炉内に飛び出してきて、それが別のウラン235に当たるので、反応が続いていきます。核分裂は、こうして連鎖反応になりますので、いったん分裂が起こりはじめると、人為的に停止させるのは簡単でないことになります。このように、核分裂反応の時には、中性子が飛び出すので、分裂してできてくる新しい元素が、分裂前の中性子を全部抱え込むのではありません。それでも、セシウム137の場合には、安定したセシウムに比べて中性子が4個も多く、比率も1,491にもなります。これは非常に不安定な状態のようなのです。

そこでセシウム137の原子核の中にある82個の中性子のうち、どれか1個が陽子に変身します。こうして中性子を減らして、不安定性を解決するわけです。陽子や中性子は、3つのクォークからできていて、陽子は2つのu-クォークと1つのd-クォーク、中性子は1つのu-クォークと2つのd-クォークからできています。今度は、中性子の中にあるd-クォーク2個のうち1個がu-クォークに変身すれば、 陽子に変れることになります。

ただ、陽子は電荷1の粒子で、中性子は電荷0の粒子ですが、電荷0の粒子が電荷1の粒子になるということは、それだけを取って見ると自然のバランスを壊してしまっています。つまり、(+)と(−)とは数が釣り合っていないと、この世界は根本的に成り立たなくなるらしいのです。で、どうやら、プラスが1個増える時にはマイナスも1個増えるようにできているらしいのです。

ele05で、セシウム137の原子核から電子が1個、外に飛び出してきます。セシウム137はこの時、陽子は1つ増えて55から56になります。中性子は1つ減って82から81になったわけです。これは上の表に出ているバリウム137と同じです。こうしてバリウムに変化する時には、陽子が1つ増えているのですから、周囲にある電子の数も1つ増えるのですが、飛び出してきた電子は、これには使われません。勢いよく、外に飛び出していってしまいます。

セシウム137はバリウム137になり、その時に電子が飛び出していくのですが、その時にその電子の持つ運動エネルギーは最大で1 117 keV ほどであるとされています。しかし、そうして安定したバリウム137に変わるのは、実は20個に1個程度で、他は不安定な状態のバリウム137になります。不安定という意味は、まだ内部にエネルギーを抱えたままの状態ということなのですが、こういう状態のバリウム137になる時には、飛び出していく電子のエネルギーは最大で514 keVだとされています。その場合のバリウム137は、後でまた別の形でエネルギーをまとめて放出することになります。この不安定なバリウム137は、安定した状態のものと区別するために、バリウム137mと書くことになっています。

ele07この余分なエネルギーの放出は、だいたい、バリウム137mが成立した直後に起こります。半減期2,55分ですので、数時間以内にほぼすべてが無くなると思ってよいでしょう。662 keV のエネルギーを持った光子が放出され、安定した状態のバリウム137になります。セシウム137から出てくる電子のエネルギーはバラバラで一定せず、そのために、「最大●●keV」というような言い方になるのですが、バリウム137から出てくる光子のエネルギー662keVという数値は、いつも同じです。これは光子ですので、光とか、紫外線とか、マイクロ波といったものと同じようなものですが、エネルギーが強いので、波長はたいへんに短くなります。

こうして出てくるβ線、γ線のそれぞれの性質については、項を改めたいと思います。