IPPNWドイツ支部 : フクシマから6年


IPPNWドイツ支部 アレックス・ローゼン小児科医の論評

フクシマから6年:原子力災害は今も進行中

原文(独語)へのリンク

Sechs Jahre Fukushima: Die Atomkatastrophe besteht fort

著者:アレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医/IPPNWドイツ副代表)

〈和訳:グローガー理恵〉

2017310

フクシマ原子力災害が始まってから6年経った今も、日本の人々は、福島第一原発事故によってもたらされた結果とともに生きている。福島第一原発で破損された原子炉(複数)は相変わらず、制御不可能な状態にある。 最近は福島第一の2号機原子炉格納容器内で、ヒトが数分間浴びたら即死してしまうような非常に高い放射線量が計測された。ロボットも、それだけ高い線量のある原子炉内では機能することができない。溶融した炉心(コリウム)を取り出すことは、チェルノブイリと同様に、何十年もの間、不可能であると推測されている。そのような状況のもとで、将来、地震/津波/暴風のような自然災害が発生したとすれば、廃墟となった福島第一原発が、その地帯全域を多大な危険に晒すことになる。

毎日毎日、何トンもの放射能汚染された冷却水が地下水/海水に流れ込み、地下水や海洋の放射能汚染をますます悪化させている。また、陸地の除染作業も行き詰まり、せっかくの作業も断続的に起こる暴風/降雨/洪水のために無駄に終わっている。放射性ごみは絶え間なく増え続け、山のように堆積されていく。そのため、最近、選抜された市町村において建設資材の放射能汚染制限値が引き上げられた。これは、放射能濃度が高い土を公共道路建設のために利用できるようにするためである。ー しかし、この影響を被った地域の住民による猛烈な反対運動があったため、” 制限値の引き上げ ” は中止されなければならなくなった。

一方、国は、放射能汚染された故郷から離れることを余儀なくさせられた10万人近くの人々への圧力を強めている。故郷を逃れた人々は ” 原発避難者 ”として、今日に至るまで、日本中に散らばっている 。 そして今や、避難者たちはできるだけ早く、福島のゴーストタウンと化した故郷ヘ帰還せよ、ということになったのである。未だに放射線量が非常に高く、健康ヘのリスクなしで生活することのできないような所であっても、帰還すべきであるというのだ。何よりも、若年家族や免疫不全症者、子どもたちが、そのような場所へ帰還するとは到底容認のできないことである。さらに、帰還したい人の人数が少ない状況が続いているため、国から出る原発避難者のための援助金はカットされることになるという。

そして福島では、小児甲状腺がんと診断された症例数がさらに増加している。201110月から20143月における最初のスクリーニング(先行検査)では甲状腺がん症例数がまだ101件であった。しかし、その後に(2014年から)行われた二巡目のスクリーニング(本格検査)では、2年後(2016年)に、症例数が145件になった。ということは、新たに診断された44人の子どもたちにおける甲状腺がんは、この2年間という期間 (2014~2016年)に発生したに違いないということを意味している。これは、年間の小児甲状腺がん発生率が【100,000人当たり8.1件】に相当するということである。フクシマ・メルトダウン以前の日本の小児甲状腺がん発生率は年間で【100,000人当たり0.3件】であった。甲状腺の腫瘍の進行や転移があったため手術を受けた子どもたちの数は145人である。そのほかに、穿刺吸引生検でがんと診断された子どもたちが38人いるのだが、彼らはまだ手術を待っている状態である。毎年、新規症例が追加されている。これまでのところ、子どもたちの71%足らずが [*訳注 ]検査を受けたのみであるので 、今後は、さらにもっと、がん診断数が増加するものと予測される。ーチェルノブイリ事故後に辿られた経過と酷似している。

甲状腺がん症例の早期発生後、福島においては、さらに、これから何十年間にも亘り、白血病や肺・腸の腫瘍、皮膚腫瘍、その他の器官の腫瘍の発生が増加するものと予測される。しかし、これらの症例が、目下のところは未だきちんと記録されている甲状腺がん症例のように、正確に記録されていくものかどうか、これは疑わしいことである。なぜなら日本政府は政治的に原子力産業に依存しており、何年もの間、原子力フレンドリーな宣伝活動や地元の農協への励ましの支援を通して、トリプル・メルトダウンを伴ったフクシマ超大規模原子力事故のネガティヴなイメージをもみ消そうとしているからである。

そして、甲状腺検査でさえもが、まもなく停止されるかもしれないのである。すでに今、集団スクリーニングの中止についての話があり、甲状腺調査を担当している福島医学大学からの代表者が福島県の学校をまわって、子どもたちや青少年たちに、「理不尽ながん診断」を望まない人は集団検査を受けることを拒否する ようにと勧めているのである。

その一方では、フクシマ災害の影響を受けた人々のニーズに応えようと全力を尽くしている多くの日本人がいる。福島県いわき市にある独立ラボ、いわき放射能測定室「たらちね」は市民の要望に応じて放射能測定を行い、独立クリニック、「たらちね検診センター(20175月に開設予定))」は超音波検査(エコー検査)についてのセカンドオピニオンを提供してくれることになっている。岐阜の医師たちは、原子力災害による影響を正確に評価することを可能にするために、日本の子どもたちの乳歯中のストロンチウム-90の濃度を測定する研究調査に取り組んでいる。

ドイツIPPNWは、これらのイニシアチブを支持する。我々は、日本からの新しい調査結果を科学的に評価することを通して、フクシマ惨事によって影響を受けた被災者のために、事実を解明する情報を提供することに尽力する。IPPNW/ PSRによる報告書『チェルノブイリと共に生きる30年間ーフクシマと共に生きる5年間30 years living with Chernobyl – 5 years living with Fukushima )(未邦訳)は、ここ数十年間における意義深い科学的知見を列挙し、それらをわかりやすく提示している。

以上

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[ *訳注 ]

子どもたちの71%足らずが :福島医大によると、2巡目のスクリーニングを受けることになっている受検者数は計381,281人だが、これまでのところ270,486(71%)の検査結果データが出されているのみである。 (情報提供:アレックス・ローゼン医師)

IPPNW:「フクシマとともに生きる-5年間」から


グローガー理恵

2016年の3月、IPPNWドイツ支部とPSR米国支部が共同で“5 Years Living with Fukushima(フクシマとともに生きる-5年間)”と題された報告書を公表した。報告書は、二人の共著者、IPPNWドイツ支部副議長、アレックス・ローゼン(Alex Rosen)医師とIPPNWヨーロッパの副議長、アンゲリカ・クラウセン(Angelika Claußen)女医によって作成された。
報告書は、フクシマ原子力災害を巡る4つの問題点を呈示している:
1. いかにしてこの原子力災害が起こったのか?
2. どれだけの量の放射能が放出されたのか?
3. どのような影響が環境に及ぼされるのか?
4. 予測される、被災住民への健康影響とはどんなものか?
そして、これらの問題点を中心にその回答を見出そうと努めながら、今も進行中であるフクシマ大惨事を直視し、その実態を明らかにしていっている。
報告書の最後には、この論文の重要な結論と言える「日本への勧告」が掲載されてある。ここでIPPNW/PSRは、日本の原子力産業、政治家、原子力規制機関の間にはびこる汚職/癒着を徹底的に調査してクリーンアップしないのなら、フクシマのような大惨事が再び起こることになるであろう、との警報を鳴らしている。「日本への勧告」は、フクシマ大惨事に関わる責任当局者全員が真摯に受け止めるべき重大な警告だと思う。
それを抄訳したものをご紹介させていただく。なお抄訳することについては、アレックス・ローゼン医師からの快諾を頂いている。
原文 (英語)へのリンク:http://www.psr.org/assets/pdfs/fukushima-report.pdf

IPPNW と PSRによる日本への勧告 (33頁)

(抄訳:グローガー理恵)

1.フクシマ災害によって影響を受けた人々/被災者が持つ人権である「健全な環境の中で生活し健康に生きられる」という権利 ─この事こそが、フクシマ災害に関するすべての議論および政策決定における中心事項となるべきである。そのためには、被災者集団が意思決定プロセスに効力的に参加するということを確実にしなければならない。
2.被ばくした、または、これから被ばくする可能性がある ─ 原子力災害の事故処理/クリーンアップ作業員全員 ─ に信頼性ある正確な線量計が与えられなければならないし、彼ら全員が定期検診を受けなければならない。また、定期検診は原子力産業と関わりのない独立した医師によって行わなければならない。このことは、下請け業者に雇われた労働者、臨時労働者およびボランティアにも適用される。今後は、東電のような原発運営者が調査やデータに影響を及ぼすようなことがあってはならない。
3.日本政府は、チェルノブイリ事故の後に旧ソビエト連合によって設定された登録制度と同様に、フクシマ核災害の結果として放射能被ばくした全てのヒバク集団を登録する制度をつくり、その登録作業を持続していかねばならない。この登録の対象者となるのは:
»  放射能汚染区域からの避難者および汚染区域にまだ住んでいる住民
»  福島第一原発現場の作業員およびクリーンアップや除染作業に携わる人たち
4.汚染地域からの住民には、まだ汚染されている地域へ帰還するのか、それとも、汚染のない地域へ移住するのかを自分たちで決めることができる” 決定権利 “ が与えなければならない。移住することを決めた場合には引越し代や経済的援助が提供されなければならない。
5.避難した人々を汚染地域に強制帰還させることはストップされなければならない。とくに、人々が放射能汚染した自分たちの故郷には戻りたくないというのに、彼らへの経済的援助を打ちきることで帰還を強いるようなことがあってはならない。
6.原子力災害による影響についての疫学研究調査が実施されることを確実にしなければならない。また、被ばくした人々全員のために無料の健康診断や治療が提供されねばならない。日本国民に及ぼされる健康上のリスクについての評価は、原子力産業やその政治的支援者たちとは利害衝突のない独立した科学者たちによって、なされるべきである。
7.多量の放射性降下物が太平洋を覆ったのであるから、日本および米国を含む国際的海洋研究機関による海洋生物への影響についての組織的な研究調査が行わなければならない。
8.原子力災害によって及ぼされる影響/結果について報告することやその研究調査が、日本で新しく制定された”特定秘密保護法”のような国の抑圧によって妨げられるようなことがあってはならない。
9.福島原発メルトダウンの後、全ての原発が停止された数年間の間、日本は原子力発電なしで電力不足の問題もなくやってきた。しかし今、原子力ロビーは、大多数の日本国民の意思に反して、原子炉を再稼働させようとしている。日本は、50基の全ての原発を永久閉鎖して、その代わりとして、再生可能かつ持続可能なエネルギーの生産に投資をすべきである。日本は、ソーラーパワー/風力/水力/地熱エネルギーのような再生可能エネルギーを開発できる、と同時に、省エネルギー/エネルギー効率対策にも取り組んでいける、ずば抜けた潜在的能力/可能性を持っているのである。
10. それまで、原子力ロビーが日本政治に及ぼす甚大な影響力および政界、原発運営者/原子力産業、原子力規制機関の間にはびこる汚職や癒着について調査を行うことが必要である。そして、将来、フクシマのような大惨事が再び起こるのを防ぐために、このような汚職/癒着の横行に、事実上、ストップをかけなければならない。
以上

如何に福島医大が彼ら自身の調査をサボタージュしているか


IPPNWドイツ支部 アレックス・ローゼン(Alex Rosen) 小児科医による批判:如何に福島医大が彼ら自身の調査をサボタージュしているか

ご紹介させていただきますアレックス・ローゼン医師の論評は、2016615日に福島民友オンラインに掲載された甲状腺検査の在り方は 受けない意思も尊重』」と題された記事に基づいたものです。福島民友の記事は、甲状腺検査を巡るコミュニケーションを担当する福島医大の緑川早苗准教授が、昨年から学校を訪れ、子ども向けの出前授業を始め、そこで緑川氏が「がんが見つかったら嫌だと思う人は、甲状腺検査を受けない意思も尊重されます」と、子どもたちに話しているという事について触れています。その他の詳しい内容については下記のリンクをご覧になって下さい:

http://www.minyu-net.com/news/sinsai/michishirube/FM20160615-084642.php

アレックス先生は、如何に福島医大が彼ら自身の甲状腺調査をサボタージュしているか、様々な点を挙げながら、明確に批判しています。そして最後に、残された唯一の希望は、子どもたちや、その親御さんたちが福島県立医学大学の方略を見抜いて、これからも集団スクリーニング検査に参加することを続けていってくれる事であると結論しています。

下記が原文(ドイツ語)へのリンクです:

このアレックス先生の論評の中で下記の動画へのリンクが紹介されてありますので、ぜひご覧になってみて下さい:

原発事故当時15歳だった女性の勇気ある証言

福島における「理不尽ながん診断」

如何に福島県立医学大学が彼ら自身の調査をサボタージュしているか

著者:アレックス・ローゼン (Alex Rosen)医学博士 (小児科医/IPPNWドイツ支部副議長)

(和訳:グローガー理恵)

201684

福島で大規模な子どもたちの甲状腺がん検査/集団スクリーニングが実施されるようになってから、今や5年経った。複数の原子炉メルトダウンを伴ったフクシマ超大規模原子力事故による影響が原子力に好意的な日本政府によって故意に過小評価されているが、少なくとも、科学者、医師、保護者会は、この集団スクリーニングの実施を押し進めることができた。 福島県立医学大学によって行われている集団スクリーニングは、福島県のみに制限されていることや透明性の低さ、原子力ロビーによる福島医大への影響力など尤もな批判があるのだが、スクリーニングすることによって甲状腺がんの早期診断や早期治療ができるという可能性を提供してくれている。

さらにチェルノブイリの場合とは違い、この調査を通して、原子力災害が被曝した住民へ及ぼす影響について重要な知見を得ることができる。

一方、5年後になって終了した1巡目と2巡目にわたる甲状腺検査の結果は、検査を受けた住民における甲状腺がんの症例数が、はじめに予測されていたよりも、はるかに高い数値であることを明示している。しかし、この事に対する日本政府の反応の仕方は独特である: 彼らは家族に、誰もが自由意志でこの検査をやめることができるということを提案しているのである。

福島医学大学の 内分泌学者/コミュニケーション担当者である緑川早苗准教授は、去年から、福島県内の学校をまわって、子ども向けの”出前授業”をやっている。”出前授業”で緑川准教授は、「理不尽な がん診断」を望まない人は、集団検査を受けることを拒否する権利があることを説明する。このような表現 (「理不尽ながん診断」)が何を意味しているのか。それは、福島医学大学の出版物を読めば、はっきりとしてくる: 彼らは、これまでに福島県の172人の子どもたちに見つかった甲状腺がん症例はいわゆる「スクリーニング効果」に関連性がある、との見解を示しているのである。福島医大は、「甲状腺がん症例がフクシマ原子力災害に起因しているとの可能性は低く、これらの甲状腺がん症例は、集団スクリーニングが実施されなかったのなら、まったく見つからなかったか、もしくは、後になった時点ではじめて見つかったであろう」との見解を唱えている。なぜ、一目瞭然である原子力災害との因果関係が最初から否定されるのか、福島医大は解説しない。また、早期転移を伴った悪性度の高い進行性がん、そして、腫瘍の浸潤性増殖および腫瘍の急速な成長が高率に発生していることについても、何の説明もなされていない。一方で、131人の子どもたちに腫瘍および転移の摘出手術が適応された。摘出手術を受けた患者は、これから一生ずっと甲状腺ホルモン剤を服用していかねばならないし、がん再発の早期発見と早期治療ができるようにするためにアフターケア検診にも臨んでいかねばならない。さらに福島医大は、なぜこのような数値 (予想外に高かった甲状腺がんの罹患率)を単に ”スクリーニング効果” と関連づけて考えるのか、はっきりとした解説をしていない。

福島医大の代表者 (緑川早苗)は学校の出前授業で、「がんが見つかったら嫌だと、がん診断を望まない子どもたちがいるのなら、その意思も、また尊重されなければならないと提唱する。また、コミュニケーション担当者でもある彼女は、子どもたちやその家族が持つべき権利について一言も触れようとしない。子どもたちやその家族が持つべき権利とは、放射線汚染の危険性原子力事故後に発生する甲状腺がんに関する知識悪性腫瘍の発見が遅すぎる場合のリスク について、偏りのない公平な情報を得ることである。その代わりに、彼女はこう述べたのである: 「原発事故の後に子どもたちは検査を受けるべきだと(汚染地域の)住民 が考えたのは当然のこと。また、検査結果を放射線と結び付けて不安に思ったの も当然のこと。でも今思えば、その全て が理不尽な体験だった」と。

そして現在、多くの科学者や医師、両親たちが、検査の受診者数が減ることで甲状腺調査の価値が失われてしまうことになるだろうと、尤もな懸念を懐いているのである。できるだけ多くの年少者に検査を受けるのをやめるようにと、それとなく提案している福島医大の打算は瞭然としている。患者の自律性というものは、今まで尊重されてこなかった – したがって、子どもに甲状腺の異常が見つかった場合、家族はそのことをなかなか知らせてもらえなかったり、検査結果に関する情報も十分に与えてもらえなかったり、他の医師によるセコンド・オピニオンは概して否定されたり、診察結果や超音波画像が両親に渡されなかったりしたのである。そうして、今や、甲状腺検査の結果は甲状腺がんと原子力災害の相関関係を更にいっそう明白に示しているため、彼らは、この 患者の自律性という美名の下に、歪曲させた、計画的かつ意図的な事実の曲解を生み出そうと狙っているのであり、この事は最終的にすべての甲状腺検査を取り消し無効にしてしまうのである。既に、福島県民健康管理調査検討委員会の前検討委座長である山下俊一医師をはじめとした日本の責任担当者たちは、集団スクリーニングを止めることを告知している。これに対して抗議をすることや、独立した公正な公衆情報を要請することこそが、当を得ており適切なのであろうが、残念ながら、そのような行動を起こすことは、日本の現在の政治情勢・経済状況を考慮すると、おそらく現実的だとは言えない。

しかし、まだ希望は残っている:それは、両親や子どもたちが福島県立医学大学の方略を見抜いて、これからも集団スクリーニング検査に参加することを続けていってくれる、という希望である。

以上

乳歯中のストロンチウム90を探す


アレックス・ローゼン

医学博士/小児科医/IPPNWドイツ副議長

和訳:グローガー理恵

フクシマ原子力災害によって、はかりしれないほど膨大な量の放射能が環境中に拡散された。放射性ヨウ素とセシウムによる汚染については、日本の当局によって度々言及されており、これらの放射性同位体は土壌、水、食物のサンプルをもとに定期的に測定されているが、放射性ストロンチウムによるヒトの被曝や環境汚染の事実は黙殺されている。

汚染マップは存在しない。ストロンチウムの測定は、せいぜいのところ時折、個々の研究グループによって行われるぐらいである。また、放射能汚染された食物の摂取によって人々が受ける被曝線量を算定するために使われる食物データベースには、ストロンチムの調査がまったくない。ストロンチウムに関して分かっていることは、福島の家畜の歯中や骨中に有意な量の放射性ストロンチウムが検出されたということである。*1)

そこで、日本の独立した科学者たちは、日本市民が受けた放射性ストロンチウム被曝の研究調査に取り組むことを自分たちの目標と定めたのである ー そうすることで、これまでずっと黙殺されてきた、汚染地域に住む住民における白血病や悪性骨腫瘍の発症リスクへの注意を喚起するー とくに、子どもたちの方が大人よりもはるかに高い発症リスクを抱えていることへの注意を促すことである。

今後何年かの間に、日本全国から乳歯が収集されることになっている。これは、乳歯中のストロンチウム濃度を測定するためである。ここで重要なことは、とくに汚染がひどい地域からの子どもたちばかりでなく、ありとあらゆる年齢層の日本全国からの人々も乳歯を提供してくれることである。そうすることで、ストロンチウム濃度の経年変化や地域差の分析ができるようになる。さらにまた、これらの乳歯調査の測定データは、個々の住民集団や年齢グループにおけるストロンチウム被曝の総量を評価するためのバイオマーカーとして使うことができるだろう。

また、乳歯提供の際には乳歯と共に、提供者の乳児の時の栄養 (母乳、粉ミルク、混合 )や 飲み水 (水道水、井戸水、ミネラルウォターなど)についての詳細、および提供者の生誕地から居住地転換についての記録も提供されることになっている。過去のストロンチウム・スタディーから、乳児が生後一年間に摂取する栄養が、体のストロンチウム被曝にはっきりとした影響をもたらすことが分かっている。日本では、この局面についても研究調査がなされるべきである。そうすることで、必要な場合には、乳児のための適切な勧告ができるからである。

歯中のストロンチウム検出は技術上、大変な時間と忍耐を要する、とても込み入った仕事である。そのため、この研究調査の発起人たちは、ストロンチウムの検出方法によく精通しているスイス・バーゼル州立研究所からの国際的ノウハウを取り入れることにした。目下のところ、日本で最初に集められた200本の乳歯はバーゼル研究所で調査されている。将来は日本において研究調査を実施することが計画されているが、そのためには先ず調査目的に適った測定研究所を設立して、スタッフも養成されなければならない。しかし、研究者チームは、最終的には研究調査の結果が、研究のために費やされたすべての苦労や努力を正当化してくれるであろうとの確信に満ちている。彼らは、住民のストロンチウム被曝の経年変化を記録するために、研究調査を数十年間にわたり実施していくことを計画している。ストロンチウムの物理的半減期は28.8年である。

この研究調査の目的は、ストロンチウム汚染の実際の程度/範囲を確認し、被曝した子どもたちの健康を守るために、影響を受けた自治体や県に提言することである。IPPNWドイツは、この乳歯研究調査を支援しており、乳歯保存ネットワーク(PDTN) 呼びかけ人ネットワーク のメンバーでもある。” 呼びかけ人ネットワーク “ とは、乳歯スタディーが実際に遂行されるために、応援し助ける人々・団体のネットワークである。*2)

この重大な研究調査を実施するのが公的機関ではなく、独立した科学者たちであるという事実が、日本の政局について多くを物語っている:日本においては、全ての階層の国家機関が原子力産業の甚大な影響下にあり、彼らは政府から、できるだけ早く“フクシマ 問題 “を棚上げにして決着をつけるようにと要請されているのである。PDTNの科学者たちが取り組もうとしている研究調査は重要である。なぜなら、この研究調査は、放射能汚染地域に住む人々をその運命に任せることではなく、優れた科学によって政治や関連当局に圧力を加えることに寄与していくのであるから。

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訳注:

*1) 参考文献:二瓶英和, 福島第一原子力発電所警戒区域内被災家畜の歯中の放射性ストロンチウムとセシウムの測定, 東北大学 博士論文 2013http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/56584/1/Nihei-Hidekazu-2013-Tour03-334.pdf 

*2) 乳歯保存ネットワークの詳細についてはホームページを参照:http://pdn311.town-web.net/

原文(ドイツ語)へのリンク:  Suche nach Strontium-90 in Milchzähnen

もはや”スクリーニング効果” で理由づけることはできない


IPPNWドイツ支部 — アレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医の論評: 毎月のように発生する甲状腺がん症例 – もはや”スクリーニング効果” で理由づけることはできない

グローガー理恵

アレックス・ローゼン医師著の ”11月30日に公表された福島県の甲状腺検査の最新データ” に関する論評がIPPNWフクシマ・ニュスレターに掲載されているので、それを和訳してご紹介させていただく。

アレックス・ローゼン先生は論評の最後のパラグラフでこう述べている:「甲状腺がんを発病したために、すでに甲状腺の手術を受けなければならなかっ た115人の子どもたちの家族の運命は、看過することのできない別の問題である。福島の人々が持つべき、健康を享受し健全な環境に住めるという普遍的権利 が黙殺されているのだ。」 被災者への深い共感に満ちた言葉だと思う。また、責任当局者が真摯に受け止めるべき言葉だとも思う。

原文(ドイツ語)ヘのリンク:Jeden Monat neue Schilddrüsenkrebsfälle

毎月のように発生する甲状腺がん症例

福島県立医科大学が行った甲状腺検査の結果

著者:アレックス・ローゼン (Alex Rosen)医学博士 – IPPNWドイツ支部

(和訳:グローガー理恵)

2015年11月30日、福島県立医科大学が福島県の子どもたちにおける甲状腺検査の最新データを公表した。これらの検査は、いわゆる先行検査 (Baseline Screening)と本格検査(Full Scale Examination) と呼ばれる2部の検査で成り立っている。

先行検査 (Baseline Screening)

2011年10月から2014年3月までにおける、いわゆる ’’先行検査 (ベースライン・スクリーニング)” の 範囲内では、小児/青少年集団における甲状腺がんの有病率、すなわち甲状腺がん症例の静的な頻度が決定されることになっていた。日本の厚生労働省による と、日本国内における小児甲状腺がんの年間発症率は【10万人当たり0.3件】であるという。この数値に従うと30万人の子どもたちから成る一つの集団に おいては、年間【1件】の甲状腺がん症例数が確定されることが予測されるーこれは病徴や偶発病変を通して診断される場合である。

集団スクリーニングを通して、所謂 スクリーニング効果 (独語:Screening-Effekt)” が 生じるということは周知の事実であるーすなわち集団スクリーニングにおいて健康な受検者も検診することで、通常ならずっと後になってから初めて症候が現れ たであろういうような疾病がすでに早期段階で検出され診断が確定されるという事である。したがって、3年間半にわたる先行検査 においては、単に3件から4件以上のがん発症が診断されるであろうと予測された。この (3件〜4件の)件数を超した過剰症例は(スクリーニング効果がもたらしたとされるため)非常に早期段階のものであり、したがって罹患者にとって差し迫っ たリスクはないものと判定されるものと推測された。

しかし、実際の先行検査の結果は異なった状況を描いていた:超音波検査(エコー検査)で537人の子どもたちに甲状腺の異常が見つかった事が確認さ れたため、穿刺吸引生検が実施されなければならなかったのである。そして細胞診の結果、計114人にがん疾患の疑いがあることが明らかになった。 さらなるモニタリングで、 その圧倒的大多数が悪性度の高い進行性がんであることが判明し、その内の101人の子どもたちには転移や危険な腫瘍の増大があったため手術が行わなければ ならなかった。

手術後、一人は良性腫瘍と確定され、手術を受けた100人に甲状腺がん疾患の診断が下された (97人が乳頭がん、3人が低分化がん)。その結果、先行検査が完了した後すぐに、「このように予期しなかった、悪性の甲状腺腫瘍(がん)の多発の原因は 何なのであろうか」との厄介な疑問が生じてきたのである。少なからず、福島第一原発でメルトダウンが起こった後に日本当局が被災者たちにヨウ素剤を配布し ないと決定したことは、この甲状腺検査の結果を鑑みると非常に理解しがたいことである。

本格検査 (Full Scale Examination)

2014年4月から2巡目の甲状腺検査として、本格検査が始まっている。この検査には先行検査に含まれた子どもたち全員と、原発事故のすぐ後に生まれた子どもたち*も同様に検査対象となっている。

したがって、 この検査の対象集団は先行検査の対象集団よりも規模が大きい。現在計画されているのは、これらの検査対象者たちが、20歳 まで(21歳になる直前まで)2年ごとに、それ以降は5年ごとに検査を受けることである。2014年4月から2016年3月までの間に実施される、本格検 査における検査対象者数は計379,952人となっているが、これまでに本格検査を受けたのは199,772 人である。その中で検査結果が確認されたのは、これまでのところ、182,547 人のみ (48.0%)である。今まで、そのうちの124人に超音波検査(エコー検査)で、著しい変化/異常が見つかったため穿刺吸引生検を実施することが必要と なった。そして、細胞診により、新たに計39人にがん症例の疑いありとの結果が出た。そのうちの15人に転移や危険な腫瘍の増大があったため手術を受け、 その全員に甲状腺乳頭がんの診断が確定された。

これで、甲状腺がんの診断が確定された子どもたちの総数は115人となった。彼らには転移や腫瘍の急速な成長があったため、甲状腺手術を受けなけれ ばならなかったのである。さらに37人の子どもたちに甲状腺がん疾患の強い疑いがある。彼らはまだ手術を待っている状態である。甲状腺がん症例が確認され た15人に、がんが発生したのは1巡目の検査(先行検査)と2巡目の検査と(本格検査)との間の期間である。

2巡目のスクリーニング(本格検査)で受検者の58.9%に結節もしくは嚢胞が見つかった。1巡目の検査(先行検査)におけるその割合は、まだ 48.5%であった。ということは、1巡目の検査では甲状腺の異常がまったく検出 されていなかった32,227人の子どもたちに、新たに、嚢胞や結節が確認されたということである ー そのうちの308人に見つかった嚢胞/結節のサイズが非常に大きかったため、さらなる解明が緊急に必要とされた。さらに最初のスクリーニング ( 先行検査)で小さな嚢胞もしくは結節が見つかっていた656人の子どもたちに、再検査 ( 本格検査)では、非常に急速な(嚢胞/結節の)増大が確認されたため、さらなる診断検査が実施されなければならなかった。

残念ながら、 新たに甲状腺がんの診断が下された新規症例に関するデータは、当局によって差し控えられているため、最初のスクリーニングが正確に、いつ実施されたのか明 らかではない。先行検査と本格検査の間の期間が、予定されたように2年間であると仮定するのなら、現時点における小児甲状腺がん発生率は年間で 【100,000人当たり3.8件】になるものと推定される。

フクシマ・メルトダウンの以前の日本における小児甲状腺がん発生率は、年間で【100,000人当たり0.3件】であった。このような10倍以上にもなる小児甲状腺がん発症率の増加を、いわゆる ”スクリーニング効果 で理由づけることは、もはやできない。

単なる氷山の一角?

これまでに、まだ検査を受けていない子どもたちの数が、あることを暗示している:それは、今後、甲状腺がん症例が、この年間発症率を超えて、さらに 増加することが予測されるということである。福島県において放射線被曝をした67,000人以上の子どもたち**が、まず先行検査にまったく入っていな かったし、180,000人以上の子どもたちがまだ2巡目の検査(本格検査)を待っている状態である。そうであるから、今後何年かの間に、甲状腺がん症例 数がさらに上昇するかもしれないと憂慮すべき正当理由が存在するのである。

さらに憂慮すべきことは、ー放射性ヨウ素を含んだフォールアウトが東京都の北部までにも及び、原子力災害が始まった何日/何週間後に、さらに何十万 人という子どもたちが高い放射線量を被曝したという事が分かっているのにもかかわらずー福島県外に住む子どもたちがまったく検査を受けていないという事実 である。集団スクリーニングなしでは、これらのフォールアウトの影響を受けた人々の間で発生するものと予測される、がんの過剰症例と危険な放射線との因果 関係を確立させることはできない。

福島県は、安倍晋三の率いる日本政権と同様に、原子力産業 と深く深く癒着しており、日本では、いわゆる原子力ムラの影響力が相変わらず甚大であるということを重ねて述べねばなければならない。”原子力ムラ ’’とは、原子力企業、原子力フレンドリーな政治家たち、買収されたメディア、腐敗した原子力規制当局から成る集団を称するものである。彼らは共同で国の原子力産業の存続を推進している。

2012年には、国際原子力ロビー・IAEA (International Atomic Energy Agency-国際原子力機関)が、甲状腺検査を行っている福島県立医科大学への資金援助を通して影響力行使している可能性がある事が分かった***。

このような状況のもとで、福島県立医科大学による甲状腺検査が、放射線誘発甲状腺がん症例に関する真面目で信頼できる調査になるとは期待できない し、調査の公式結果も、もうすでに既定された結論と一致することになるだろう:すなわち、甲状腺がん発症の著しい増加とフクシマ超大規模原子力事故との因 果関係は見つからないとの結論が出されることになるのだ。

しかし、甲状腺がんを発病したために、すでに甲状腺の手術を受けなければならなかった115人の子どもたちの家族の運命は、看過することのできない別の問題である。福島の人々が持つべき、健康を享受し健全な環境に住めるという普遍的権利が黙殺されているのだ。今、この時点において必要なのは:  – 原子力災害によって及ぼされた健康ヘの影響結果を提供し、被災者の憂慮、苦悩を真摯に受け止め、経済的利害関係に非依存である独立した、科学的根拠に基づいた隠蔽性のない公平な分析調査の体制を確立させることができる、責任のある信頼できるガバナンスである。

以上

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【訳注】

*      原発事故のすぐ後に生まれた子どもたち: 事故後から2012年4月1日までに生まれた福島県民

**     福島県において放射線被曝をした67,000人以上の子どもたち:  先行検査の受診対象者数は    367,685人だったが、実際の受診者数は300,476 人 (367,685人 – 300,476人≒ 67,000人)

***   2012年には、国際原子力ロビー・IAEA (International Atomic Energy Agency-国際原子力機関)が、甲状腺検査を行っている福島県立医科大学への資金援助を通して影響力行使している可能性がある事が明かになった:   参照:外務省リンクに掲載された資料  –  ”人の健康の分野における協力に関する福島県立医科大学と国際原子力機関との間の実施取決め”

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3180:151225〕

福島における子どもたちの甲状腺がん


あってならない事は、存在し得ない
福島における子どもたちの甲状腺がん

2015年9月8日

アレックス・ローゼン

医学博士 – IPPNWドイツ支部

(和訳:グローガー理恵

2015年8月31日、福島県立医科大学は県の甲状腺検査の最新データを公表した。この検査は過去4年間において2回の異なった時点に実施されており、調査に含まれたのは、計30万人以上の18歳未満の子ども/青少年である。

1巡目の スクリーニング(先行検査)の1次検査における超音波検査で、受診者の内の537人に、非常に疑わしい甲状腺の異常が見つかったため、穿刺吸引細胞診が実施されなければならなかった。その結果、113人に ’がんの疑い’ があることが分かった。さらに、その113人の内、99人に、転移や危険な腫瘍の成長が見つかったため、手術が行わなければならなかった。手術の結果、99人の内、1人が良性腫瘍と確定され、98人に がん疾患の診断が下された。

2巡目のスクリーニング(本格検査)の検査対象集団には、福島原発事故のすぐ後に生まれた子どもたち*も含まれるため、最初のスクリーニング(先行検査)の検査対象集団よりも大きくなっている。

2014年4月から2016年3月の間に行われるスクリーニング(本格検査)の検査対象者総数は378,778人であるが、これまでに検査を受けた受診者数はたったの169,445人だけである。2巡目のスクリーニング(本格検査)で受診した169,445人のうち、これまでのところ、153,677人の検査結果が確定されたのみである(40.5%) 。そのうち(153,677人)の88人に 穿刺吸引細胞診が必要とされた。その結果、計24人にがんの疑いがあることが新たに判明した。そして、その内の6人に転移や危険な腫瘍の拡大が見つかったため、手術が行われなければならなかった。そして、手術をうけた6人全員にがんの診断が確定した。

すなわち現在、104人の子どもたちに甲状腺がんの診断が下されたことになる。彼ら全員に転移やがん腫の急速な成長が見つかったため、甲状腺手術が行わなければならかったのである。さらに他の33人に、甲状腺がん疾患の 強い疑いありとの判定が出されており、彼らはまだ手術を待っている状態である。

2巡目のスクリーニング(本格検査)で、受診者の58.4%に結節もしくは嚢胞が見つかった。最初のスクリーニング(先行検査)では、この(結節もしくは嚢胞が見つかった)割合が、まだ48.5%であった。ということは、最初のスクリーニング(先行検査)においては、甲状腺の異常が全く検出されなかった28,438人の子どもたちに、新たに、再検査(本格検査)で、嚢胞と結節が確認されたということであるーしかも、その内の270人に見つかった嚢胞/結節のサイズが非常に大きかったため、さらなる解明が緊急に必要とされたのだった。

さらに、最初のスクリーニング(先行検査)で小さな嚢胞もしくは結節が見つかった553人の子どもたちに、再検査(本格検査)においては、非常に急速な(嚢胞/結節の)増大が 確認されたため、さらなる診断検査が実施されなければならなかった。 1巡目のスクリーニング(先行検査)と2巡目のスクリーニング(本格検査)との間の期間に、確定された甲状腺がん症例が6件発生したのである。

先行検査と本格検査の間の期間が、予定されたように2年間であると仮定すれば、小児甲状腺がん年間罹病率(発病率)は、【100,000人当たり2件近く】になると推算される。フクシマ原子力事故以前の日本における、小児甲状腺がんの年間発病率は【100,000人当たり0.3件】であった。 所謂 ”スクリーニング効果 ” を理由にして、 このような子ども/青少年たちにおける甲状腺がん発病率の増加を正当化することは、もはやできないのである。

さらに、放射線被曝をした福島県の67,000人以上の子どもたち**が、これらの検査(先行検査および本格検査)に全く含まれていなかった事、そして、残りの209,000人以上の子どもたち***が未だに2巡目の検査(本格検査)を受けていない状態である事が挙げられる。そうであるから、今後数か月間に、甲状腺がん症例数が、さらに上昇するかもしれないと懸念すべき正当な理由が存在するのである。放射能汚染による最も著しい影響は、がん発病までの潜伏期間があるため、いずれにせよ、今後何年か後に現れることが予測される。

福島県立医科大学で甲状腺検査の最新データが公表された同じ日、福島県は既にこれらの憂慮すべきデータに対する反応を示した。彼らは、予測できなかったほどに高い子どもたちの甲状腺がん症例数が、福島第一原発のトリプル・メルトダウンがもたらした放射性ヨウ素の放出と関連しているのかどうかを調査することを研究チームに委託したのである。しかしながら、福島県にとってこの研究調査の結論は、もう最初の書類に目を通す以前に既に決まっているのである:「福島県で見つかった甲状腺がん症例が福島原発事故に由来するとは、ありそうにない。」 そのような早すぎる結論既定には驚かされる。なぜなら、この研究調査の真剣さ/重大性に対しての疑念を呼び起こさせるからである。

認識せねばならないことは、福島県が東京の日本政府と同様に、国の原子力産業の影響力に深く浸透されている事、そして、所謂 “ 原子力ムラ ” の勢力が引き続き甚大であるという事である。日本で、”原子力ムラ’’とは原子力企業、原子力フレンドリーな政治家たち、買収されたメディア、腐敗した原子力規制庁から成る集団を呼ぶ名称である。彼らは共同で国の原子力産業の存続を促進している。このような状況のもとで、福島県による放射線誘発された甲状腺がん症例の研究調査が、真剣で信頼性のあるものになる事は期待できない。そして、今年中に出されることになっているその研究調査結果も、すでに存在する既定結論と一致するものになるだろう:甲状腺がん発病率の著しい増加と、2011年3月に発生したフクシマ超大規模原子力事故との因果的な関連性は見つからなかった – なぜなら、あってならない事は、存在し得ないのであるから****。

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【訳注】

* 福島原発事故のすぐ後に生まれた子どもたち:事故後から2012年4月1日までに生まれた福島県民

** 放射線被曝をした福島県の 67,000人以上の子どもたち’が、これらの検査に全く含まれていなかった事: 先行検査の受診対象者数は367,685人だったが、実際の受診者数は300,476 人であった。

*** 残りの209,000人以上の子どもたちが未だに2巡目の検査(本格検査)を受けていない状態: 本格検査の受診対象者数は378,778 人だが、実際の受診者数は169,455人 である。

**** あってならない事は、存在し得ない(独語: Da nicht sein kann was nicht sein darf ):ドイツの詩人/著作家、クリスティアン・モルゲンシュテルン (Christian Morgenstern)の作品 ”Die unmögliche Tatsache (仮訳:不可能な事実)” から引用された句。福島県や日本政府にとって、甲状腺がん発病率の著しい増加と、2011年3月に発生したフクシマ超大規模原子力事故には因果的な関連性があるという事が判明することは、”あってならない事”であり、そのような因果関係は “存在し得ない”、ということを示唆している。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3086:150920〕

原文(ドイツ語)へのリンク:

http://www.fukushima-disaster.de/deutsche-information/super-gau/artikel/c0954b1c87134eef0b3444d988c2d152/da-nicht-sein-kann-was-nicht-sein-da.html

フクシマ作業員の健康調査における難題


アレックス・ローゼン

IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン医師による福島を巡る論考は、発表される度ごと、ドイツ在住のグローガー理恵さんが翻訳されたうえで、ご連絡いただいています。本サイトでは継続して掲載させていただいていますが、また新しい原稿をお送りいただきました。

2015年4月10日

和訳: グローガー理恵

フクシマ原子力災害の後、福島第一原発の敷地の中で働いてきた作業員たちは、途方もなく最も高い放射線被曝量を浴びたと言ってよいであろう。 しか し、現場の作業員たちの圧倒的多数は東電の従業員ではなく、もっと著しく酷い労働条件のもとで働く、下請け業者に雇われた臨時雇用労働者たちである。 労 働者の多くは、まともに登録もされておらず、彼らが受けた放射線被曝量も適切に記録されていないし、彼らの健康状態の実態や変化もモニターされていないの である。 多くの場合、現場で働く作業員は、短期間の臨時仕事に動員された不熟練の日雇い労働者たちであり、その後に、彼らを追跡できるような手がかりは ない。

日本のメディア報道によれば、日本のマフィア・やくざは、フクシマ原発現場のクリーンアップ作業、放射能汚染された冷却水の処理作業、または、事故 現場周辺における巨大な建設-構築計画などを請け負っている、東電の下請け業者との有利な労働契約のお蔭で利益を得ているという。

また、自ら進んで、または、善意からではあるが無鉄砲なボランティア活動の一環として、放射能汚染された地域において除染作業に関わっている数多く のボランティアもいるのだが、その中にも、高いレベルの放射線被曝量を浴びている人達がいるのである。 ボランティアの多くは、当局による除染作業努力に 成果が見られないために絶望しており、そのために彼らは、自分たちの手で、自分たちの故郷を再び住居可能にするための手助けをしたいのである。 しかし、 そうすることによって、彼らは自らを長期的健康被害に晒すリスクを冒していることになる。さらに、彼らの被曝がコントロールされるようなことはなく、被曝 線量も測定されることはないのである。

現在、広島・長崎原爆犠牲者の調査を長年にわたって行ってきた日米共同研究機関 「放射線影響研究所 (RERF-Radiation Effects Research Foundation)」が、 少なくとも、福島原子力災害の事故処理作業に従事したことが確認されている作業員達に及ぶ長期的な健康影響の調査をしようと試みている。 放射線影響研究 所 (RERF)は、2011年の3月から同年の12月までフクシマ原発現場での作業に従事していた計2万人以上の作業員を対象にして健康調査をしたいと述べ ている。 しかし実際に、不熟練の臨時雇用労働者や下請け業者の従業員として何年もの間、損壊した原子炉が並ぶ福島第一原発の敷地の中で危険な作業をして きた人々を、この大規模な調査に含めることができるのかどうか、疑わしい。

一例を挙げるなら、これまでに健康診断の参加を求められた凡そ2,000人の原発事故処理作業員達の中で、その内の35%だけが健康診断に参加する ことを明らかにしているのみである。 放射線影響研究所(RERF)の方は、作業員たちとの連絡がとれなかったり、または、作業員たちの現住所を突き止め ることができない、と主張している。 このことは、健康調査に、過度のレベルの放射線被曝量に晒された作業員たちのほとんどを引き入れることができないと いう懸念を確かなものにしているようである。  したがって、放射線被曝がもたらす長期的な健康影響に関する疫学上の評価をすることは不可能になるということである。

IPPNWドイツ支部は既に長い間、フクシマ作業員たちのための包括的な健康上のアフターケアを要求してきている。 そして、我々が繰り返し力説し てきたことは、「そのような健康調査には、安全規制・規準の対象に全くなっていない多数のボランティア作業者たちや、下請業者に雇われ、東電の従業員に適 用される安全-健康管理の基準に適わないような労働条件のもとで働く労働者たちも含めた、ありとあらゆる全ての作業員を引き入れなければならない」という ことである。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2955:150413〕

原文(独語)へのリンクです: http://www.fukushima-disaster.de/deutsche-information/super-gau/artikel/8c2ad6cfb8f78853ae03dd40ca40d3af/fukushima-arbeiter-verweigern-gesund.html

甲状腺がんは氷山の一角にすぎない


Deutsche Welleがアレックス・ローゼン医師(IPPNW)にインタビュー: ローゼン医師 「フクシマにおける子供たちの甲状腺がんは氷山の一角にすぎない」

このインタビューは、ちきゅう座で1月10日にご紹介させて頂きました、IPPNWドイツ支部公表の論評「甲状腺がん症例がさらに増加」に関連したものです。

インタビューの最後にアレックス・ローゼン先生は、こう述べています:

『我々は、「人々が放射能汚染された環境に残るのか、そこを去って移住するのかについて、自分たちで決定することができないということ」 を批判します』と。

このローゼン先生の言葉は、岐阜環境医学研究所所長、松井英介医師、そして国連特別報告者、アナンド・グローバ氏の訴えでもある「被災者は健康な環境に住める権利があり、移住したいと願うのなら移住できる権利がある」ということに、共鳴するものです。

フクシマ大惨事から4年、状況が日々悪化していく中で、今、緊急にフクシマの被災者の方々に援助の手を差し伸べることこそが、政府に課された最大の義務であり、何よりも最も優先しなければならない課題ではないでしょうか。

原文(独語)へのリンク:http://www.dw.de/rosen-schilddr%C3%BCsenkrebs-bei-kindern-in-fukushima-ist-nur-die-spitze-des-eisbergs/a-18176688

ドイチェ・ヴェレ (Deutsche Welle)

ローゼン医師: 「フクシマにおける子供たちの甲状腺がんは氷山の一角にすぎない

2015年1月9日

(和訳: グローガー理恵)

フクシマ原発大災害の後、子供たちの甲状腺がん症例数が増加している。 大人は全く甲状腺検査を受けていない。 核戦争反対医師団 (IPPNW)のアレックス・ローゼン医師は日本の当局を批判する。

–  Deutsche Welle (以下DWと省略): 甲状腺スクリーニングは、どのような検診が土台となって行われたのでしょうか?

Alex Rosen (以下ARと省略): 日本の甲状腺集団スクリーニングは、福島県全域における年齢18歳以下の子供たち36万人以上を対象にした大規模なスクリーニングに関わるものです。 今までに、このような検査が行われたことはなかったのです。 先ず、住民からの大きな圧力があって、検査が実施されるようになりました。 

スクリーニングの土台となった検診は、甲状腺の触診、そして、甲状腺の結節、嚢胞またはがんの疑いある異常に関する超音波検査です。 当局 は、それぞれの検査結果を公表することを躊躇しています。 多くの親達は、検診が大急ぎでなされたことや検査結果を通知してもらえなかったことの不満を訴 えています。 また、指令によって、他の医師たちはセコンドオピニオンを与えることを禁止されているのです。

–  DW: 60,505人の子供たちが再検査 (本格検査 )されて、その内の57.8%に結節や嚢胞が見つか りました。 これらの数値は、どのように評価されるのでしょうか?

AR: これは、正確には言えないことです。 なぜなら、これと比較できるような全世界に及ぶ国際的なスタディーが存在しないからです。 ですから、ある健康な年齢18歳以下の人口集団において、実際に、嚢胞や結節の数が、いくつなら正常であるのかということが分からないわけです。 しかし、スクリーニングが始まったころ、日本の担当当局者らはこう述べました:  「検査で何も出てくるようなことはないだろう」と。 そうですから、検査によって、このような非常に多数の子供たちに異常が見つかり、100人以上の子供たちにがんの疑いありと分かったとき、彼らはびっくり仰天したわけです。 

これまでのところ、当局はずっとスクリーニング効果を引き合いに出しています。 我々は、集団スクリーニングにおいて確定される検出結果を、そのように(スクリーニング効果と)呼んでいるのです。

多数の健康な人が検査される集団スクリーニングでは、何年か後になってから初めて気づいたであろうというような疾患の検出結果がはっきりと 出ます。 すなわち、何の病気の症状もない患者たちを検査することで、それが時には、ある疾患の初期段階を発見することになることになるわけです。 集団 スクリーニングによって、症状のある人が医者にかかるまで待ってから明らかになる疾患の数よりも、もっと多数の疾患数を見つけることができます。

新しい(本格検査の)データをベースにしますと、この2年間の間に、結節や嚢胞、そして、がん疾患が新たに生じた子供たちの数が多いことが分かります。 このことを、スクリーニング効果」で片づけることはできません。

–  DW:チェルノブイリでの経験に従って判断すると、フクシマ地域の住民には、がん疾患する高いリスクがあるということを予測しなければならないのでしょうか?

AR: その通りです。 我々は、1986年にウクライナで起こった原発事故を通して、放射性放射線の、そして何よりも放射性ヨウ素の放出が、特に甲状腺がん発病のような極めて深刻な健康被害をもたらすことを学びました。 日本では2011年3月に、多量の放射能が放出されました。 人々は、水、空気、食べ物を通して放射性ヨウ素を吸入しました。 放射性ヨウ素は、とりわけ、子供たちや青少年の甲状腺に付着して、そこで 甲状腺がんを誘発するのです。 これはよく知られていることです。 それだから、我々は、今後数年間、何十年間の間に、日本において甲状腺がん発病率が増加することを予測しているのです。 悲しいことですが。

–  DW:想定可能超大規模原子力事故の後、なぜ甲状腺という器官は健康被害に冒されるのでしょうか?

AR: 原子炉大災害により、放射性物質は環境中へと広まっていきますが、その放射性物質の中にヨウ素131があるので す。 身体は、普通のヨウ素と放射性のヨウ素との区別をすることができず、呼吸する空気、食べ物、水を通して放射性ヨウ素を吸入してしまいます。 ヨウ素 は甲状腺ホルモン生産に必要な元素です。 ヨウ素131は周辺の組織を被曝させ、甲状腺の異常や発がんを誘発していく可能性があります。 

原子炉事故の後、通常は、予防ヨウ素剤が全住民に配布されるべきなのです。 予防ヨウ素剤を摂取すれば甲状腺がヨウ素で詰まって、放射性ヨ ウ素を吸入できなくなります。 日本では、こういった知識があるにもかかわらず、ヨウ素剤の摂取がなされませんでした。 この事も、また日本の災害管理に 関して批難すべき点です。

–  DW: 多数の子供たちに転移が見られました。 そして、甲状腺の部分的摘出手術が実施されなければなりませんでした。 これは、子供たちの人生にとって、どのようなことを意味しているのでしょうか?

AR: 「がん」の診断結果が出た子供たちの数は112人です。 その内の84人 に転移があり、がんが拡がってしまっていたり、または、がんが非常に大きかったため、子供達の命にかかわるような問題となっていました。 それで、彼らは 手術を受けなければならなかったのです。 甲状腺の部分が摘出された場合、子供たちは一生、甲状腺ホルモンを摂取していかなければなりません。 しかし、 過酷なファクターは、彼らが生涯ずっと、超音波検査や血液検査などのアフターケア検診を受けていかなければならないことです。 なぜなら、いつでも再発す る可能性があるからです。 甲状腺がんのために死に至るケースは、甲状腺がん症例のおよそ7%ぐらいです。

–  DW: 大人はフクシマ原子力事故の後、検診を受けていないのでしょうか?

AR: 受けていません。 日本の大人は、一般に、この疾患に関する検診を受けていません。 また、そのような計画もありません。 大人が甲状腺がんを発病するリスクというのは、そんなに高くないのです。 これはチェルノブイリの経験から分かっていることです。

甲状腺がんは最も早い時期に現れる病気であり、氷山の一角にすぎません。 我々は、他の疾病の発生を予測しているのです: 放射線によって、白血病、乳がん、腸がん、心血管疾患が誘発されます。 日本では一般に、これら全ての疾患に関する検診が行われていません。

–  DW: 原子力災害から4年近く経って、もうすでに長期的な健康への影響を評価することができるのでしょうか?

AR: いいえ、できません。 我々は、潜伏期間が長い、すなわち、これから40年後になってから現れるような可能性の ある幾つかの疾病を予測しています。 これは、原子力災害時に生まれた子供たちは、放射線による影響が原因となって病気になる、高いリスクを生涯抱えてい くであろうということを意味しています。 この事が、健康影響の科学的な研究調査作業をする上で難題となります: がんという病気は、その出所の表示を掲げていないのですから。 我々が、発がんの原因がフクシマの放射性放射線によるものなのか、それを確実に証明できるようなことは決してないでしょう。

-DW: 核テクノロジーのない世界を促進する、国際的に組織化された医師団であるIPPNWは、どのような援助を提供していますか?

AR:  IPPNWは、日本の医師たち、科学者たち、被災者の方々、そして市民社会との繋がりを持っており、スクリーニング(検診)のデータに関する我々の解釈や 我々の「ノウハウ」を、彼らに提供しています。 これは、我々がチェルノブイリ災害後にウクライナやベラルーシで集積してきたものです。 我々は論説を書 き、それが日本語に翻訳されます。 日本から専門家をドイツやベラルーシに招き、そこで彼らが専門家たちと意見交換できるようにしています。

我々の仕事は、何よりも先ず、科学的、医学的分野において進められます。 日本は経済的に豊かな国です。かつてのチェルノブイリ事故後の状況とは違い、我々が日本に医療援助を提供する必要はありません。 チェルノブイリ事故があった、あの頃は、ドイツからの献身的な医師が超音波機器をウクライナへ持っていったり、病院を建てたり、被災者を検診したりしまし た。

日本の人々が必要としているのは、そして、彼らが国内のメディアから得られないものとは:  信用できる、真実性が確認された情報であり、自分たちの持つ 「健康への権利」が真摯に受け止められているのだということを、彼らが感知することです。

日本で、そのような事は起こっていません。 人々は放射能汚染された環境で生活することを強いられています。  ほんのわずかな人たちだけが、このような環境から離れられる可能性を持っています。 でも、そうすると、彼らはもう医療支援を得られなくなってしまうのです。

我々は、「人々が放射能汚染された環境に残るのか、そこを去って移住するのかについて、自分たちで決定することができないということ」 を批判します。

以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2910:150224〕

IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医が「IPPNWのUNSCEAR報告書の批判的分析」について説明:”Nuclear Hotseat” ポッドキャストから…(2)


グローガー理恵

6. UNSCEARは非がん疾病および遺伝的影響を無視している

LH:(30:28)  これは、IPPNWがUNSCEASRに対して申し立てた異論表の中で、私にとっては大変に印象深い点だったのですが、非がん疾病と遺伝的影響がUNSCEARによって無視されているということですね。

AR: そうなのです。これは、また別の大きなイシューなのです。長年の間、私たちは、放射線、電離放射線が、「がん」だけでなく、例えば、心臓血管系疾患、緑内障、心理的/神経的影響、内分泌系疾患、甲状腺疾患などのような非がん疾病も誘発するということを知っているのです。

私たちは、これら全てのことを、広島や長崎の犠牲者達や、また、チェルノブイリのリクビダートル(爆発の後に事故処理のために現場へ送り出された人々)からも認識しているのです。そして、このことはUNSCEARによって完全に無視されました。彼らは、あたかも、それを証する科学的証拠が存在しないかのように振る舞っています。しかし、例えば、広島や長崎で低線量被曝をした人々の中に心臓血管系疾患や甲状腺疾患が発生したという放射線による顕著な影響を明らかにしている、多数のスタディーが存在しているのです。

そして、同じことが、例えば、私が前に言及しましたティム・ムソーによる動物の研究調査のような、将来世代における何世代にも及ぶ影響や遺伝的影響に当て嵌まるのです。そればかりでなく、英国の核作業員の子供たちにおける白血病罹患率の増加ー 子供たちの親が放射線被曝した場合ー も同様のことなのです。したがって、これらの影響/結果は簡単に言い逃れができるようなことではないのです。しかし、この事実はUNSCEARによって簡単に無視されました。

7. 核フォールアウトと自然放射線の比較は誤解を招く

LH:(32:13) さらにIPPNWの分析によりますと、UNSCEARは、核フォールアウトと自然放射線とを比較することで誤解を招くようなことをやったということですが…。

AR: これは、UNSCEARや他の機関/組織が度々やっていることなのです。彼らは、「やあ、私たちは、年間1ミリシーベルトか2ミリシーベルトの追加放射線量について議論してるだけのことだから、これが実際に有害だなんてことはあり得ないよ。だって、自然バックグラウンド放射線なんていうのは、もうすでに年間で2ミリシーベルトになるんだから。」と言っているのです。

ここが、彼らの誤っているところなのです。明らかに、自然バックグラウンド放射線というものは、私たちが完全に避けられることができないものです。そして、世界にはバックグラウンド放射線量が他の地域よりも高かったり低かったりする地域があるのです。しかし、研究調査が再三再四、明らかにしていることは、線量が高い地域では実際に、より多くのがん発症があり、線量が低い地域における人々のがん罹患率はもっと低いのです。

そして、地殻内の放射性物質が多い環境に住んでいるために、より多量のラドンガスに晒されている人々における発がん率はより高く、飛行機で旅することが多い人達、大西洋横断飛行は宇宙放射線に照射される度合いが増えますが、このような人達における発がん率は高くなります。より高いレベルの地殻放射線に晒されている人達においても、がん発症率がより高くなります。なぜなら、がん、または、発がんするリスクと被曝線量の相関関係は直線的であり閾値なしの直線で、それはゼロまでに下がります。低い放射線量でさえも、かなりの、がん発症のリスク上昇をもたらすのです。そして、彼らが人々に伝えようとしているような、ある境界値以下だったら安全であると言えるような閾値なんてないのです。

フクシマのフォールアウトのために、年間たったの1ミリシーベルトか2ミリシーベルトの被曝線量を浴びるのだとしたら、あなたは心配することは何もありません、というのは真実ではありません。これは、ある人が、「いいかい。君が一日に一本のタバコを吸っているだけのことじゃないか。それはみんながやっていることだよ。だから心配することなんてないよ」と、言っているようなものです。

でも、健康な生活を営みたい人達、放射線に晒されたくない人達、発がん率の上昇を望まない人達、ー 彼らは、健康で核フォールアウトによる放射能汚染のない環境に住む権利を持つべきです。これは人為的なものであり、防ぐのが可能なことなのです。フォールアウトが起こったために、もうそれを防ぐことができない地域に居る人々には汚染区域を離れて別の場所へ移る選択が与えられるべきです。ーでも、そのようなことは、起こっていないのです。

8. UNSCEARのデータ解釈には疑問がある

LH:(34:32) 次の結論はナンバー8です。私は、これは、見事で控えめな表現だと思うのですが、IPPNWが

UNSCEARのデータ解釈は疑わしいと述べていることです。

AR: はい。 私たちがここで、意味していることは: それは、単に、データと仮定についての基本的な算定に関するだけのことではないし、また単に、彼らの算定の方法に関するだけのことでもない。しかし、最終的には、結論を引き出すことであり、結論として、「オーケー。これで、我々は(UNSCEARは)、何人の死亡者、もしくは、何件のがん症例数が予測されるのかを推算することができる」と、述べることができるのではないだろうか、という意味です。

しかし、UNSCEARはそういったことをしていないのです。彼らは自分達が出したデータについて真剣に考察していないのです。そうです。私たちの言っていることは、両天秤策のようなものです。一方で、私たちはUNSCEARがシステマティックに過小評価していると批判し、他方では、UNSCEARは少なくとも、自分達の手中にあるデータを利用して、それらを、人々が理解できるような方法で解明するようにせよ、と求めているのですから。

これが、住民が晒される集団線量であると人々に告げたところで、それが大いに役立つとは言えません。なぜなら、集団線量の数値をもらったところで、人々は実際、何もすることができないのです。しかし、公にアクセスが可能であるリスク係数を実際に用いて、健康影響はどうであるか、何件のがん症例数またはがん死亡をもたらすかを算定するのです。そうすれば、人々に、実際に何が予測できるのかということを教示することができます。同時に、私たちが前述しましたような要因が理由となって、おそらく、これらの予測や評価はやはり過小評価になるものと、私たちは述べなければなりません。

9. 政府によってとられた防護措置が誤って伝えられている

LH:(36:07) もうひとつ持ち出された批判というのが、政府によって為された防護措置が誤って伝えられているということですが…..。

AR: そうです。UNSCEARは報告書の中で、「もし政府が、あれだけよく住民を防護していなかったのなら、住民の被曝線量はもっと高くなっていたであろう」と言及しているのです。

日本の住民がもっと高い放射線量に晒されたかもしれないということは、明らかに事実ですが、私たちは、日本政府の素晴らしいクリーンアップの努力とか素晴らしい防護への努力とか言って、喝采を送る気にはなれないのです。なぜなら、福島で実際に何が起こったのかと言えばーこれは私たちの意見ではないのです、これは日本の国会事故調によって言明されたことなのです: 「住民を実際には守るべきであったはずの危機管理体制がまったく機能しなかった。完全なる大混乱の中で、住民は何をしてよいものか分からず、手元には何のプランもなく、首相は完全に不意打ちを喰わされた状態であった。例えば、彼は、住民に放射線の拡散状況を知らせることができたはずである、緊急時環境線量情報予測システム(Speedi)の存在を知らなかった。それどころか、ある人々は低線量の区域から高線量の区域に避難させられた。なぜなら政府の上層部において誰一人として、このシステムが存在することを知らなかったからである。」

私たちは皆、安定ヨウ素剤が、核災害によって放出された放射性ヨウ素が甲状腺へと入り込み、甲状腺がんを誘発するのを防ぐことができることを知っているのです。しかし、日本では、集団パニックを防ぐために、ヨウ素剤は住民に配布されませんでした。ですから、災害への緊急対応や避難、避難範囲やクリーンアップの取り組みに関してたくさんの問題があるのに、「全てが完璧でうまくいった。そうでなかったら災害はもっと大変なものになっていたのだ」と、実際に述べるのは、まったく有益なことではありません。

「緊急対応が如何に酷かったのか、何をもっと適切に為すことができたのか」との国会事故調の批判に、私たちも加わるということは、この時点で、まさに適切なことだと感じています。なぜなら、私たちは、50以上もの原子力サイトがあり地震多発国である日本において、核事故はいつでも起こり得る可能性があるという問題について論じているからです。それは一度起こったことなのだから、もう二度と起こるようなことはない、というようなことではないのです。私たちは、チェルノブイリから、フクシマから、ハリスバーグ(スリーマイル島原発事故)から、核災害というはいつでも、どの国でも起こり得るのだということを知っているのです。住民のための安全対策と公衆安全を改善するために、「今回は、全てがうまくいった」と、単に述べるだけのことでは何の役にも立ちません。なぜなら、そうでは、なかったのですから。

そして、明らかに、もっと酷いことになっていたかもしれないのです。そうです。日本は、言わばラッキーだったのです。風が東方に向かって吹いていたために、放射能の80%以上が海の方へと吹かれていったことで、日本の人達はラッキーだったのです。もし風が、たったの一日でも南方向へ吹いたのだとしたら、首都東京は放射性フォールアウトを被っていたことでしょう。これは、それが、どんなことをもたらしたのであろうかと想像したくもないようなことなのです。しかし、実際において、一日だけ風が北西方向に吹いたということが、今、私たちが見ているような、放射性フォールアウトの影響を受けた都市やコミュニティーにおいて、ほとんどの問題を引き起こしているのです。そうです。ある意味で、この核大災害はもっと酷いことになっていたかもしれないと言えます。

10. 集団線量推計値からの結論が提示されていない

LH: (39:27) 最後のポイントは、集団線量推定値からの結論が提示されていないということですが……。

AR: はい。私が言いましたように、UNSCEAR報告書は集団線量推定値について言及しています。これは、UNSCEARは、今後何十年間の間に、日本国民が「何人・シーベルト」に晒されるのかということを述べているわけですが、彼らは、それが人々にとって、どんなことを意味するのか、実際に述べていないのです。例を挙げてみますと: UNSCEARは、日本全国の生涯線量の集団積算線量が【48,000人・シーベルト】になると述べています。合計集団線量(生涯線量の集団積算線量)とは、フクシマ核事故のために被曝した日本における全ての人の生涯における、一人当たりの個人被曝線量の全てを加算したものです。これが【48,000人・シーベルト】なのです。

そして、国際的に認められているリスク係数を使って、これを計算しますと、日本におけるがん過剰症例数が4,000件 から16,000件になるとの結果が出ます。これは、すでに説明しましたように、過小評価されたものをベースにしているのです。

したがって、もし、実際に正しいデータおよび正しい仮定を用いるのだとしたら、この数値は、おそらく、もっとはるかに高いものとなるでしょう。しかし、UNSCEARが表示し算定している数値だけを用いるのだとしたら、4,000件から6,000件のがん症例の過剰発生、2,000件から9,000件のがん死の過剰発生を論じていることになります。

すなわち、もし、フクシマ核災害がなかったら、がんを発病しなかったであろうという人々が、フクシマ核災害が誘因となってがんを発病する、そういった人々の数が16,000人になるであろうということです。また、化学療法、手術もしくは放射線治療を受けて生き延びる人々は多数いるけれども、フクシマ核災害によって誘発されたがんのために死ぬ人々が9,000人もしくは9,000人以上ちょっとになるであろうということになります。このことは、人々に知らされなければならない事柄です。

これは、認めなくてはならないことであり、「いいかい、聞いてくれたまえ。フクシマは大惨事だったのだ。だから、こういった結果を誘発することになるのだ」と、言わねばなりません。そして、私たちができることは、ー ①実際に食物の放射能汚染を厳しくコントロールすること、②人々を、特に若年世帯と子供たちを放射能汚染地域から移住させること、③彼らが放射能汚染区域を離れるために、私たちができる、ありとあらゆる全ての支援を提供すること、④がんや他の疾病を早期発見して、より良い治療が施されるために充てられた健康管理と健康診断を提供することー によって、この数値を低減させるように試みることです。

しかし、これに関しては、ほとんど何も起こっていません。人々は、経済的要因のため、放射能汚染された地域へ帰還することを奨励されている、これが事実なのです。彼らは、これらの地域が空になってほしくないのです。彼らは、この核災害が起こったことを忘れたいのです。彼らは、人々が何事もなかったが如く、いつものように生活し続けていってほしいのです。彼らは、これから何十年間の間に核災害による健康影響が生じることを認めたくないのです。彼らは、人々が、健康被害に苦しむであろうということを認めたくないのです。私が、ここで「彼ら」と呼んでいるのは、核エネルギーからお金を受け取っている、核エネルギーの陰に潜む原子力ムラの政治家たち、核エネルギーを支持する会社、国家の規制機関を指しているのです。

「彼ら」の全てが、この大惨事を隠蔽しており、UNSCEARもこの動きの一部なのです。UNSCEARは「彼ら」を援助しています。 私たちは、科学者として医師として、このことを、すなわち、UNの組織体が実際にこの大惨事を隠蔽して取り繕っていることが、容認できないのです。

ーIPPNWによるUNSCEAR報告書の破滅的分析ー

LH:(42:44) これは、UNSCEARおよび彼らの報告書の破滅的分析ですね。あなたの評価では、UNSCEARによるこのような振る舞いは、意見の相違や彼らが用いているデータの別の解釈から来ているのことなのでしょうか、それとも、核産業を守るためのUNSCEARによる虚言やプロパガンダが多少あるのでしょうか?

AR: これは取り組む上で、とても困難なイシューだと思います。まず、UNSCEARはUNの組織体なのであるということを分からなければなりません。そして、UNの組織体として、UNの加盟国が派遣団員や代表者を、この組織体に派遣しているのです。ここで問われることは:「どの国が代表者を派遣しているのか?」ということです。それは、原子力国家です。それは米国であり、カナダであり、ドイツであり、日本であり、インドで…..あるのです。

これらの国は核エネルギーを保有しており、核プログラムを持てる能力があるのです。そして、明らかに、これらの国には、核エネルギーおよび核能力を保持していく上での既得権益があります。したがって、彼らは、核プログラムから直接出てきた科学者や、これらの核プログラムの中で育て上げられた科学者をUNSCEARに派遣しているのです。それらの科学者の中には、IAEAで専門家として働いてきた経歴のある科学者もいますし、核燃料企業で働いてきた科学者もいます。

ですから、これらの人達が核エネルギーに批判的であるとは言えません。核エネルギーや電離放射線による健康被害に関する批判的論文を発表した何れの科学者もUNSCEARに入るのを認められたことがありません。UNSCEARは、原子力国家の権益を代表する科学者達のクラブなのです。このことに人々は気づかなければなりません。UNSCEARは、独立した研究組織体ではありませんし、一方では、批判的な科学者で成り立っている組織体ではなく、他方では、核を支持する科学者で成り立っている組織体なのです。

UNSCEARは全くの核支持派です。UNSCEARのメンバーには、自分達の国で、一生涯、核産業のために働いてきた科学者達がいます。また、UNSCEARの報告書に引用されている科学者にも、やはり自分達の国で、一生涯、核産業のために働いてきた人達がいるのです。ですから、私は、彼らが虚言していて、プロパガンダをやっているとまでは言いません。しかし、彼らの思考は集団思考であり、彼らは非常に核支持派である組織からの出身者なのです。

彼らは決して異なった見解などを耳にしたことがないのです。そして、彼らは、全く逃れることが不可能であるような特定の意見/判断の偏りを持っているのです。科学において、真の科学において必要なことは、科学者それぞれが様々の異なった意見を持っていて、種々の異なった分野からの科学者達がお互いに論議しあい、実際に、各々の仮説を査定して、それぞれの見解をお互いに評価し合うことです。そうすれば、そこから最終的に出されるものが、可能な限り、真実に近い結論となるのです。ですから、私は、UNSCEARが故意に虚言しているとかプロパガンダを用いているのだとは言いません。しかし、私が言わなければならないことは、UNSCEARの情報と論文は、そのために、誰が勘定を支払っているのか、また勘定支払人はどこから来ているのかを明らかに示しているということです。

ーIPPNWの批判的分析は、メディア、政府、UNSCEARによってどのように受けとめられたか?ー

LH: (45:41) IPPNWの批判的分析はメディアによってどのように受けとめられたのでしょうか?それに対する政府からの反応はありましたか?UNSCEARはIPPNWによる批判的分析の存在を認め、それに対して応答してきたのでしょうか?

AR:  大変に興味深い質問です。私たちは、この批判的分析を公表する前にUNSCEARから連絡を受けました。去年の10月、UNSCEARは、彼らの報告書の一種のエグゼクティヴ・サマリー、ティーザーと言うかプレビューのような類のものを国連総会で公表したのです。それで私たちは、そのプレビューを読んでから、即座にUNSCEARに返答を出して、彼らに告げました。:「さて、聞いてください。私たちは、あなた方のエグゼクティヴ・サマリーを通読したのですが、私たちには、これらの点、イシューに問題があるのです。これらの点を、私たちは批判的に見ているのですが、あなた方は、私たちと意見交換をしたくありませんか?」

そこで彼らが何をしたかと言いますと、実際に、彼らは私たちの言い分を幾らか受け入れたのです。今、私たちは、彼らの最終報告に、幾つかの私たちの表現や言い分を見つけています。しかし結論は、そのまま、以前と同様です。

私たちがUNSCEARに宛てた最初の文書の中で、私たちは、彼らを、こう批判しました。: 彼らは象牙の塔に座っていて、実際に、遠方の他国に住む人々の一人一人が持つ苦悩や個人個人の状況を検討することなしに、これらの人々についての判決を下している。そして、ただ、「心配することはないですよ。全て、大丈夫になるでしょう」と言っているが、実際に福島に行って、そこの人々と話をして、彼らがどのような状況/気持ちでいるのかを尋ねることもしないでいる。

それで、UNSCEARの最終報告書で彼らが述べている結論は同じです。ー「全て、大丈夫になるでしょう」ーでも彼らは、そこに「被災者達が苦しんでいることを認識し、現地の人々の一人一人のストーリーに気を配ることは、明らかに非常に重要なことである」との文章を付け加えているのです。

ですから、私たちは、ある意味では、彼らが応答してきており、私たちの批判をいくらかは取り上げたのですが、彼らの結論においては何も変わっていなかった、と見ています。私たちは、何れにせよ、そのようなことを期待してはいません。また、UNSCEARの組織を弱めるようなインパクトを与えるようなことも期待していません。なぜなら、明らかに、彼らは、批判的思考もしくは、核エネルギーに関する批判点を許さないようなバックグラウンドから来た人達なのですから。

彼らがお金を儲け、このような地位に収まって、UN組織体の中で世界中のあちらこちらを飛び回っていられるのは、彼らが核エネルギーに批判的であるからではなく、彼らが、政府に、こう言ってほしいと頼まれたことを言っているからなのです。

私たちの論文に対するメディアの反応に関してですが: 2つの大きな記者会見がありました。ひとつはニューヨークの国連の前でヒューマン・ライツ・ナウと一緒にした記者会見と、もう一つはベルリンでの記者会見でした。

両方ともかなりよい参加者数でした。私たちの所見に関しての、テレビ出演もありました、新聞記事にもなりました、ラジオでも放送されました。

全体的にみれば、これは、とても科学的で特定なテーマですので、メインストリームメディアには余り受けません。でも、それが私たちの意図ではないのです。私は、今後何年もの間、UNSCEAR報告書が言及され引き合いに出されることになり、人々は常に、「そうだね。UNSCEAR報告者は、ああ述べているよ。こう述べているよ」と言うことになるだろうと考えています。

私たちの意図は、人々にUNSCEARとは別の見解を提供したいということだけなのです。私たちは、「そう…UNSCEAR報告書ではそう述べられているかもしれないけれど、UNSCEAR報告書に書かれていることが実際に真実なのか、私たちの批判と疑問について読んでくれませんか」と言いたいのです。私たちは、私たちが真実を自分達の掌中に握っているのだとは思っていません。IPPNWの組織は余りにも小さすぎますし、日本における何十万人という人達を対象にして、実際に、これらの人々にどのような影響が及ぼされたのかを突き止めていくための非常に大規模な研究調査を行うには、私たちのリソースは余りにも限られています。

しかし、私たちが科学者および医者として、また人間としてできることは、批判的な疑問を提示して問うていくことです。: 「これは本当に信じられることだろうか?これが本当に真実なのだろうか?」と。そして、この私たちの「問い」を理解してくれたジャーナリスト達は、私達が、- ①自分達の患者を、とにかく守りたいと試みている、②公衆衛生に害をもたらしている産業ロビーに立ち向かおうと試みている、③放射能汚染のない健康な世界を促進している、 – 医者達なのである、ということに気づいてくれたのだと、私は考えます。そして、彼らは正しく理解してくれており、私たちのメッセージを広めてくれるものと、思うのです。

私たちは、これから何年か何十年か後に、人々がUNSCEAR報告書を考察するとき、IPPNWによる批判的分析も見つけてくれ、その結果、彼らが、UNSCEARの調査結果について、より批判的で偏らない見解を、おそらく、持ってくれるであろうということを望んでいます。

ー どのようにすれば、この重要な分析に国際的注目が向けられるようになるか? ー

LH:(49:49) この重要な分析に国際的注目が向けられるように援助するために、私たちは何をすることができるでしょうか?

AR: そうですね。 今、私たちは、このIPPNWの批判分析を、この10月に催される国連総会で、UNSCEAR報告書を再検討することになっている様々な国連代表団に、実際に届けようと試みています。

個人、ブロガー、ジャーナリスト、このテーマに関わっている全ての人ができることは、この情報を広め、こう述べることです: 「そう。これがUNSCEAR報告書です。読んでごらんなさい。いろんな情報を見つけることができます。それから、これがIPPNWによるUNSCEAR報告書の批判的分析です。これは、UNSCEAR報告書の限界や問題点がどこにあるのかをよく理解するために役に立ちますよ。」

例えば、あなたの(Libbeさんの)ショーやブログ、Wikipedia記事のようなニュース・アウトレットを通じて、誰かが、この情報をもっと広く知らせることができれば、ですね。ー 私は、この情報が人々に届くことがとても重要だと思います。

この情報をもっと広く知らせることができる人とは、自分のクラス・プロジェクトのための調査をしている学生になるかもしれません。自分達の生徒に何を教えていこうかと探索している先生になるかもしれません。政策を形付けるために調査している政治家たちや彼らの助力者かもしれません。バックグラウンド調査をしているジャーナリストになるかもしれません。または、原子力発電所に近接したところに住んでいて、フクシマで何が起こったのかを知りたいと願っている一般大衆かもしれません。

これら全ての人々は、企業・産業、ロビー団体の利害関係、強力なロビー団体によって色づけされていない、そして、フクシマ・フォールアウトの結果として電離放射線がもたらす健康影響について、実際に理解しようとの意図を持った医師達や科学者達によって注釈された、「UNSCEAR報告書に対する科学的で偏りのない取り組み方」から学び、利することになるでしょう。

LH: 以上はアレックス・ローゼン、ベルリンからの電話でした。彼はドイツ人の小児科医、IPPNWドイツ支部副議長、IPPNW理事会の前副会長です。彼が言及していたUNSCEAR報告書の批判的分析は英語、独訳、和訳があります。

以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2779 :140927〕

n-tv オンライン記事: 驚くべき国連のフクシマ報告書- IPPNW ドイツ支部 アレックス・ローゼン(Alex Rosen)博士の論評


グローガー理恵

4月 2日、国連放射線影響科学委員会( UNSCEAR )は、 東京電力福島第1原発事故の健康への影響に関する最終報告書を公表しました。報告書は、「フクシマでの被曝によるがんの増加は予想されない」と述べています。

「UNSCEARの最終報告書」については、福島民報が報道しています。http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2014/04/post_9745.html
報告書の概要が、国際連合広報センターのサイトにプレス・リリースとして、日本語で掲載されています。http://www.unic.or.jp/news_press/info/7775/

この国連のプレス・リーリースは、国連科学委員会(UNSEAR)について下記のように説明しています。:

UNSCEARについて

1955年に設置された原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、電離放射線源のヒトの健康と環境への影響を広範に検証するこ とを目的としている。UNSCEARの評価は、各国政府や国連機関が電離放射線に対する防護基準と防護のためのプログラムを作成するための科学的基盤と なっている。

世界中の80名以上の著名な科学者が、福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線被ばくの影響を解析する作業に取り組んだ。彼らがとりまとめた解析結 果は、2013年5月に開催された委員会の年次総会で、27の加盟国により、技術的かつ学術的に精査された。科学者らは全員、本評価に参加するにあたり、 利益相反の有無を申告することを義務付けられた。」
80人の著名な科学者達がUNSCEARのフクシマ報告書作成に取り組み、彼ら全員が、利益相反の有無を申告することを義務付けられということですが、そ うだとすると、このことを、彼ら全員に利益相反の問題がなかったものと理解すべきなのか、その点が不明確なように思えるのですが…。

何れにせよ、このUNSCEAR最終報告書に対して、IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン(Alex Rosen)医学博士が、非常に批判的な論評をドイツメディア「n-tvオンライン」に寄稿しています。ローゼン博士は、「フクシマ大災害の影響結果につ いての論議は、それぞれ一人一人の人間が持つ、放射能汚染のない健康な環境に住めるという権利に関する問題であるのだ」と、人間が持つ当然の権利である放 射能汚染のない環境に住めることの重大さを訴え、論評を結んでいます。
そのローゼン医師の論評を和訳して、ご紹介させて戴きます。なお、論評を和訳することについては、ローゼン博士より許諾を頂いております。

原文へのリンクです。:

http://www.n-tv.de/panorama/Der-erstaunliche-UN-Bericht-zu-Fukushima-article12588996.html

n-tvオンライン-2014年4月2

死亡者って? どの死亡者のこと?  驚くべき「 国連のフクシマ報告書」

論評寄稿者: アレックス・ローゼン(Alex Rosen)医学博士―IPPNW ( 核戦争防止国際医師会議 )

( 和訳: グローガー理恵 )

国連の報告書が明白にしていること: 日本の原子力事故が、より多くのがん死亡者をもたらすことはない。これに対し、IPPNW医師団は「この報告書は、産業に好意的な原子力国家のメッセージと全く同様に、被曝がもたらす健康被害を故意に軽視し、被災者を侮っている」との見解を表明している。結局のところ、フクシマ大災害は全く収束していないのである。

今週の水曜日、原子力放射線の影響に関する国連科学委員会 ( UNSCEAR )は、フクシマ核大災害についての報告書を発表した。報告書の中で、筆者たちは「フクシマ原発事故による放射線被曝と関連づけられるような、がん発生率に おける著しい変化 (増加)が、今後あるとは予想されない」と主張している。我々、IPPNW医師団は、このような (UNSCEARの) 過小評価への試みを批判する。「がん」という病気は、その出所の表示を掲げていないこと、そして「がん発病」の理由を明らかで疑問の余地のないような、た だ一つの原因に帰せることができないこと、― これらの事実が、いかなる因果関係をも否認する上で、都合よく利用されているのである。我々は、この種の策略を既に、タバコ産業やアスペスト企業から知っ ている。

UNSCEAR報告書の作成者たちは、まるで、どんなに僅かな放射線被曝量であっても、がん発病のリスク上昇を伴うことが、一般的には知られていな いかのように、振る舞っているのである。報告書の筆者たちは、これらのリスクについて被災者達に率直に、はっきりと説明する代わりに、疑わしい推定や選択 的な(食物の)抜き取り検査、そして修整軽減された被曝線量をベースにして、「フクシマの人は、ただ怯えただけで、ことが済んだ」との、産業に好意的な メッセージを広めようと試みている。原子力大災害の結果、何万ものがん症例が予測されていることを「重大ではない」と称することは、被災者を侮っているこ とである。

UNSCEAR報告書は、被災者集団における被曝線量を算定する上で、IAEAの食物サンプリングを決定的なベースとしている。― この「IAEA」という機関は、「世界中におよぶ原子力利用の促進」を目標に設立されたものである。 好ましくない独立した食物抜き取り検査は、それに対して、無視されている。放射能総放出量を算定する上で、報告書の筆者たちは、独立した研究所による明ら かに、より高い放射能総放出量の算定を鑑みることなしに、日本の原子力当局のスタディーによる推定値を使っている。フクシマ現場作業員たちの被曝線量推定 には、大部分が、物議を醸す、大災害を引き起こした重大責任者である福島原発の運営者、東京電力からのデータが直接使われている。

フクシマについての論議に終止符を打つことは不可能

このUNSCEAR報告書によって、原子国家は、フクシマを巡る論議に急いで決着をつけようと試みている。しかしながら、フクシマ原子力大災害は未 だに、全く終わっていないのである。日々、何百トンもの放射性廃棄物が海洋へと流れ込んでいっている。除染作業は行き詰まっている。破損された原子炉(複 数 )から放射性物質を救出する危険な作業は、これから未だ何十年も続いていくことであろう。放出されたセシウム-137の半減期はおよそ30 年である。原発事故から、たった3年後に、原子力大災害がもたらす長期的な影響結果について最終的な報告書を作成したいと願うこと、これは非科学的なこと である。被災地域の人々が必要としているのは、信頼できる情報であり、教示であり、援助であり、被災者を惑わせる虚偽の希望ではない。

去年の秋、アナンド・グロバー (Anand Grover ) 国連特別報告者は、健康への権利/人権を課題とした、フクシマの状況に関する報告書を公表した。彼は報告書の中で、「被災者達の健康への権利および健康な 環境に住む権利が、計画的且つ意図的に拒否されている」と、公然と非難している。被災者達は、自分たちの医療データへのアクセスを持たず、セコンドオピニ オンを求める可能性もなく、汚染地域を去りたいと意を決しても、何の援助も得ることはなかった。公平でバランスがとれ、よく調査され、被災者への共感に満 ちたグローバー氏の報告書を読むと、UNSCEAR報告書との際立った違いが、極めてはっきりとしてくる。

フクシマ大災害の影響結果についての論議は、経済的および政治的な利害関係に服さない医学的調査研究の独立性に関するだけの問題ではない。それは、それぞれ一人一人の人間が持つ、放射能汚染のない健康な環境に住めるという権利に関する問題でもあるのだ。
以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye25975:140425〕