放射能のまとめ:土壌の中のセシウム137


竹内雅文

 

土壌の中に入ったセシウム137がどういう状態になっているかを考えるには、まず、土壌というものがどういうものであるかを、見ておく必要があるでしょう。

土壌の主成分は、粘土鉱物と呼ばれる細かい粒子と、岩石の細片、そして有機物と水分です。土の中の無機的な部分を見ていく時には、粒子の大きさに応じて、粗砂、細砂、シルト、粘土というような区分が行なわれるらしいのですが、私たちが「土」と感じているものは、粘土質を中心としたもので、粒子が大きくなると、「砂地」という感じになっていきます。粘土と呼ばれるのは、直径2μm以下の細かい粒子ですが、「粘土鉱物」というのはその粘土の組成をさらに細かく見ていく時に出てくる概念です。

地球の長い歴史の中で、地表近くに岩石として生成されたものが、風化、侵食などを経て、粉々になってできあがったものが、土壌の中の無機質細粒であると考えておくことにします。その主成分としての粘土鉱物は、珪素、アルミニウム、酸素などからできているのですが、その中心となる酸素と珪素との結合の仕方をモデル的に示すと、珪素を中にした四面体構造になっているというように、どんな解説にも必ず書かれていますので、ここでもそういう模式図を載せておくことにします。

ele10この「珪素四面体」と呼ばれるものには、たいへんに強固な結合力があって、土壌の温度として通常、考えられる温度のもとでは、絶対に壊れません。そして、四面体の頂点にある酸素を共有しあうことによって、四面体どうしが無限に結合して、ほぼ平面に近い形状の結晶的な強固な構造物になります。その結合の模式図を載せておきます。

この四面体が多数集まって、珪酸塩鉱物というものの骨格を作っています。その時、四面体と四面体とは、酸素を共有することによって、平面的に幾らでも繋がっていきます。こうした珪酸塩の薄い層と、アルミニウム化合物の薄い層が、粘土では交互になって重なっているものらしいですが、山などにある粘土が層のように剥がれることがあるのも、そうした構造のためです。

さて、この結合の模式図を見ていただくと、酸素が六角形に結合している様子が分るかと思います。ここには3個だけしか描いてありませんが、実際には、幾らでも上下左右に繋がっています。蜜蜂の巣のような形になっているわけではありませんが、それでも、この六角形の中は穴になっていて、つまり、ここに元素が1つ入り込める部屋があるのです。

ele11カリウム、アンモニウムなどの陽イオンがやってくると、ここが空いていれば入り込むのですが、いったん入ったものはなかなか抜け出ることがありません。鉱物側はマイナスに帯電しているので、電気的にガッシリ結合してしまうらしく、単に、穴が空いているから入っているということではないようです。これを粘土鉱物によるイオン固定と言っているようです。セシウムもここに入り込みます。いったん入り込んで固定されたセシウム137は、なかなかこの「珪酸塩鉱物」の外には出ていかないのです。

粘土に入り込むこうした陽イオンをカチオンと呼ぶことになっているようですが、カチオンには順位のようなものがあります。H>Ca>Mg>KNH 4>Na というような順位ですが、セシウムはカリウムと性質の似た元素で、粒子の大きさとしてもほぼ同等ですので、Kと書いてある位置にセシウムを嵌めて考えて差し支えないようです。そこで、Mgイオンなどが作用すれば、僅かながら、固定されたセシウムが溶かし出されることもある、ということになります。

セシウム137が入り込んだ土壌に、雨が繰り返し降れば、土壌の中のセシウムはどんどん下の方に移動していきそうに思えますが、実際にはそうなりません。特に、粘土質の土壌では移行が遅く、チェルノブイリ事故後の観察でも、そうした場所では年に1mm程度しか下っていかないことがあるようです。そういう現象は、粘土の水捌けの悪さなどから説明されるものではなく、こうした「固定」によるところが大きいわけです。

放射能のまとめ:β線の挙動


竹内雅文

ele07

セシウム137が崩壊すると、核から電子が飛び出してきます。セシウム137という不安定な人工元素は、ウラン236が壊れてできたもので、陽子の数に比較して余分な中性子を原子核内に抱えています。この中性子を陽子に変身させることによって、安定に向かうのですが、こうして陽子が1つ増える時、同時に電子が1つ、核内で生成されます。プラスが1つ増えると、マイナスも1つ増える必要があるのです。

この電子は、通常原子核の周囲にあって原子を構成している電子と違って、強い運動エネルギーを持っていますセシウム137の不安定な原子核が抱えていた余分なエネルギーを、電子の運動エネルギーとして吐き出すのだと考えれば良いようです。この時の、吐き出し方に2種類あり、電子が全面的に抱えて飛び出していく時と、かなりのエネルギーをなお核内に残したままにしておく場合とがあります。

全面的に電子が抱えて出ていく時には、運動エネルギーは最大で1 117 keV ほどになります。約112eVということです。« eV »は電子ボルトという単位ですが、1電子ボルトは「自由空間内で電子1つが 1V の電圧で加速されるときのエネルギー」と定義されています。カロリーに換算すると、10のマイナス22乗分の3,83カロリー、というような小さな値になります。

こうして、エネルギーを全面的に抱えて出ていくのは、20回に1回くらいで、それ以外の場合は、最大で514 keV、約51eVです。原子核に残ったエネルギーは、後刻、光子として放出されることになります。この、最初に飛び出していく電子をβ線、後から飛び出していく光子をγ線と呼ぶことになっています。

この飛び出した電子は、空間に存在する様々な原子と次々に反応していきます。原子の中にこの強い運動エネルギーの電子が飛び込んで来ると、原子核の外側に幾層かに分かれて存在する電子のうち、どれか1つが弾き飛ばされます。この時、β線側の電子は、その運動エネルギーを3eV程度、消耗すると言われています。そうして、エネルギーを減衰させながら、次から次へと、原子にぶつかっては、その外殻の電子を弾いていくわけです。

ele08β線が通過する原子の中には、陽子と電子があって、それぞれがプラスとマイナスになっています。プラス側、つまり陽子には、通過する電子を引き寄せる力があり、マイナス側、つまり電子には、遠避ける力があります。そこで、β線はクネクネと曲がりながら、原子の中を通過します。曲がる時にはx線が出ます。その際にも、運動エネルギーは減衰します。

運動エネルギーを失なえば、そこで電子は止まります。運動エネルギーの数値として挙げた1 117 keVとか514 keVとかは最大値で、不定です。原子を損傷する毎に3eV減衰し、それ以外にも減衰の機会はあるわけですが、止まるまでに10数万個の原子を間違いなく損傷するということです。

地面からβ線が出ているとして、空気中を飛んでくる電子は、大気中の分子を次々と通り抜けるわけで、だいたい12mで止まってしまうようです。

もっと稠密な物質の中ではもっと短い距離でエネルギーを失うわけです。金属の塊の中ですと、1 mm強でだいたい止まるようです。ですから、かなり薄い鉄板とか、アルミ板とかで、だいたい、遮蔽できることになります。ゴム板のようなものでも、そこそこの厚みがあれば良い、ということのようです。

ですから、汚染された地面の上を歩く時には、しっかりとした靴底のある靴を履くのが大切だということになります。それで真下から来るβ線はほとんど遮蔽できますが、斜めからも当然、電子は飛んできますので、半ズボンとか、ミニスカートとかは避けるべきでしょう。布では完全に遮蔽できないと思いますが、しっかりしたズボンならば、電子のエネルギーをそれなりに減衰させると思われます。

ele09吸引や飲食によって体内にセシウム137が入ってしまった場合には、体内の組織内で、電子が次々と原子を破壊していくことになります。筋肉内では、電子を10数万個弾き飛ばすのまでに、だいたい10mm程度移動して、そこで止まるようです。この途中で弾き飛ばされた電子は、また別の電子に当たって連鎖反応的に原子を壊していきます。こうして弾き飛ばされていく電子にも破壊力があるわけなので、これをδ線として扱う説明も見受けますが、核から出てくる放射線と同列に扱うのは、やや没論理的な感じがします。ただ、ここでは図解の中に入れておきました。有害であることに間違いはありません。

人体の60%以上が水分ですが、体内に入ったセシウム137から出るβ線によって水の分子を結合させている電子が弾き飛ばされると、-OHというような遊離した基(=フリーラジカル)が大量に出現することになります。こうした生成物による害については、また別項で扱うことにしましょう。