危機的健康状況を巡る緊急アピール


ユーリ・バンダジェフスキー
ガリーナ・バンダジェフスカヤ

「ドニエプル」50号に掲載されたアピール文(2009年4月)

チェルノブイリ原子力発電所事故から23年がたち、ベラルーシ共和国では、放射性元素によって汚染され、長期にわたる放射線核種セシウム137とストロンチウム90を吸収した汚染地域の住民たちは、心臓・循環器系の様々な病気と、各種の悪性腫瘍との危険度の増大に曝されています。これらの病気が休みなく増え続けている結果、人口構成が破局的な様相を呈し始めてきました。死亡率が出生率の2倍近くにもなっているのです。

放射性同位体セシウム137が長期にわたって身体組織に入り込むと、幾つもの器官が、また生命系が損傷を受けます。

私たちには、セシウムを次のように捉えるだけの確かな理由があります。

1) 細胞核を崩壊させ、それによって身体組織内に変異を引き起す源のひとつとして

2) 体の状態を維持するプロセスを破壊する要素の一つとして。また、人には生れつき遺伝によって、特定の病的な状態になりやすいとか、病気になりやすいといったことが、隠れていることがありますが、それを表に出やすくする要素のひとつとして

3) 生命器官に大量に集まって、そこで細胞内のエネルギー装置を破壊して、器官を傷つける、そうした毒物の一つとして

私たちの考えでは、これこそがベラルーシ共和国の領域内で様々な病気の罹患率が上昇している基本的な原因なのです。

人体組織へのセシウム137の作用の支配的な特徴は、細胞の仕組みを破壊するに至る、代謝過程の圧迫です。細胞と組織との損傷の量は、取り入れられた放射性核種の量に比例します。

セシウムが人体組織内、あるいは動物の組織内にもたらす病的な変質は、放射性同位体セシウム137慢性同化症候群、ないしは放射性同位体セシウム137滞留同化症候群としてまとめられます。

セシウム137を体内に取り入れると、この症候群が現れます(その激しさは、取り入れた量と、期間によって変化します)。この症候群の特徴は、代謝の病気で、その結果、心臓=循環器系、神経系、内分泌系、免疫系、生殖系、消化器系、腎臓系、肝臓胆嚢系の構造的機能的な変質が起ります。

滞留同化症候群がどの程度の分量のセシウム137によって起きるかは、年齢や性別や身体の全般的な状態によって、異ります。

子どもたちは、50Bq/kg程度のセシウム137が体内にあると、システムや臓器に重大な病的変化が現わ始めることが分りました。代謝の障害も、10B/kgくらいから以上のセシウム137が集ってくると、問題になり始めます。これは主に心筋内で起ります。

放射性元素(セシウム137など)を含んだ食品の摂取によって、日常的慢性的に、長期にわたって放射能に曝されている住民たちを、私たちはチェルノブイリ事故の被害者として考えていくべきだと思います。

こうした問題に解決を与えること、つまり、チェルノブイリ事故によって汚染された地域に住む人々の健康状態を守っていくべきですが、目下の状況はそうなっていません。国内的にも国際的にも、緊急な決断が要請されています。

セシウム137による心筋の病気


ユーリ・バンダジェフスキー
ガリーナ・バンダジェフスカヤ

「カルディナル」2003年10月号に載ったフランス語版(チェルトコフ訳)による

ベラルーシ南部の田園地帯には、チェルノブイリの原子炉爆発以来、至るところに放射性セシウム(Cs137)が存在する。食物連鎖の中にこれが存在する結果、身体組織にセシウムが蓄積するのである。子どもが胎内にいる間は、胎盤がフィルタとして胎児を守る。生後はまず母乳によって、次いで地元産の食品や牛乳、野菜、果物、肉、森の漿果類、きのこ、魚、野鳥などによって、子どもの体は汚染を受けてしまう。

こうした子どもたちには、たいへん高い頻度で、高血圧の発症が見られる。子どもたちは疲れやすく、すぐに息切れする。胸の痛みに苦しんだり、子どもによっては心臓の機能が充分でないこともある。こうした心臓の病から、子どもは突然死んでしまうこともある。

心臓の先天的な畸形も、この地域では発症率が目立って上昇している。

汚染された子どもの身体内の、セシウム137の分布

人体用ガンマ線スペクトル計測装置(ホールボディカウンタ)によって、セシウム137に特化した身体組織の計測ができる。これによる検査が学童を対象として行なわれた。検査の際の決りはごく単純だ:子どもはスペクトル分析装置の肘掛け椅子に座って、3分間じっとしていなければならない。使われているのは、V・ネステレンコが率いるベルラド放射線防護研究所の移動チームの装置である。村に暮す子どもたち一人ひとりに蓄積しているCs137は、同じ村に暮す大人と比べて、平均して3倍ほども高い。

ホメリ病理研究所(ベラルーシ)で私たちは、農村部の村で亡くなった方々の解剖を通じて、子どもたちの数値が、同じ地方の成人と比べてやはり3〜5倍高いことが分った。子どもたちの場合で、特に線量が高い部位を順に挙げると、まず副腎、腎臓、甲状腺、膵臓、胸腺であり、次いで骨格筋、心筋、腸壁、脾臓である(3)。

放射性セシウムノ身体組織内での特異な分布については、ずっと以前から知られていた。セシウムが心臓や内分泌腺に集まることから、1927年以来、たいへんに半減期の短いセシウム131という同位体を用いて、甲状腺の病気を研究してきたのだし、ある種の心筋拘束の場所を特定するのにも使われてきた(4)。

セシウム137による内部被曝は、外部被曝とは異る。ガンマ線は体に浸透してきやすく、外部被曝は、基本的にガンマ線によるものだ。ベータ線はごく短距離しか飛ばないが、体内に入ったCs137から恒常的に放射されていて、線源から数ミリメートル単位の半径にある細胞の、ゲノムや細胞膜にとってはずっと有毒である(5)。

臨床所見

ここでは、子どもたち、中でも、就学年齢の子どもたちについて述べることにする。

子どもたちの場合

学童たちの身体内にあるセシウム137の線量はまちまちである。

■ 僅かな運動をしただけで、頻脈、不整脈、血圧の不安定、異様な疲れ、といった症状が出る子どもがたくさんいる。収縮期血圧が標準より20mm以上も高いという意味での、高血圧はこの病気によく見られる要素である。強度に汚染されている地区では、子どもたち2人に1人にこうした症状がある。

■ こうした«疲れた»子どもたちを臨床的に検査すると、時に、収縮音が聴き取れるが、2つの音の組み合わせで、最初にしばしば聴き取りにくいほどの音がした後、次いで倍化された音が聴き取れる。

心電図からは流通障害、不完全脚ブロック、再両極化の異常、際立った洞結不整脈などが見られる。

これらの心電図上の異常な状態の程度は、臨床的に見られる様々な徴候の程度と同様、身体組織内のCs137の分量と直に相関している。小児科診療所の大半はホールボディカウンタを備えていない。そこで、そうした診療所はこの心臓の病と人工放射性核種とを結び付けて考えることができない。

■ 体重1kgあたりのCs137が0〜10Bqの子どもの80%以上で、心電図には異常がない。
■ 11〜36Bq/kgでは、子どもたち3人に2人が、心電図に異常がある。
■ 37〜100Bq/kgでは、80〜90%の子どもたちに、もっとはっきりした心電図の異常が出る

成人の場合

成人では、体重1kgあたり20〜30Bqを超えるセシウムが慢性的にある場合、軽微な運動とか、感染症とかによって体に負荷がかかると、心臓がそれについていくのが難しくなる。こうした心臓の病は突然死に行き着くことがある。子どもでもそうした突発的な死は同じように起こる。

病理解剖:心筋の劣化と壊死

心臓が慢性的に充分に機能していない徴候を呈している症例では、平均して心筋1kgあたり136±33BqのCs137がある。大人でも子どもでも、心臓は肥大し、心臓の血液送出が不十分である徴候が看て取れる。心筋の虚血をともなった冠動脈の狭窄、あるいはアテロームに関連した梗塞は、このグループでは稀である。そこで、心筋組織内の劣化や壊死のこうした現象に、セシウムの慢性的蓄積が果している役割に疑いを向けることができる。

これらの症例の組織検査によって、心臓の筋肉に異常があることが分る。心筋繊維の萎縮ないしは肥大であり、横紋の消失を伴う。細胞核収縮ないし細胞死を伴う心筋繊維の劣化も観察される(図1)。ところどころ、細胞が局所的に凝集していて、全般的に間質浮腫が見られるが、炎症によって曇って見えるような個所はごく僅かだ。

心臓以外の臓器にも状態の劣化が見られる。特に、内分泌腺と腎臓だ。甲状腺の機能不全は心臓障害を顕在化させることがある。腎臓の障害は、この人たちの間に高血圧の頻度が高い説明になるかもしれない。

図1
Cs137によって高度に汚染された地区で暮していた67歳の女性の心筋

バンダ心筋図
心筋に、心筋繊維の劣化や壊死がある。エオシン好性原形質、横紋消失、自己融解。細胞核の変質、固縮。間質浮腫はあるが、炎症による曇りも出血もない

溝鼠での実験

セシウムの集積と心臓疾患との関連性は、動物実験によって確かめられる。

■ ウィスター系列種の鼠にCs137によって400Bq/kgの汚染のある穀物を餌として与えた(1日の平均穀物量は45g)。10日めに、鼠の体内のCs137は平均63,7Bq/kgになった。しかし解剖して計測すると、心臓では、心筋1kgあたり、平均445,7kgのCs137であった。つまり、心臓以外の身体の7倍もある。

実験の途上、血清内でアルカリホスファターゼとクレアチニンフォスフォキナーゼの活性低下が観察された。その一方で、アラミントランスフェラーゼの活性は非常に増大していた。酵素レベルでのこうした変化は、代謝障害の深刻さの証しである。組織検査からは、心筋細胞の劣化が明かになった。電子顕微鏡で見ると、心筋の変質はミトコンドリアのレベルにまで達していた(1,2)

■ 12匹のウィスター系列種に毎日5mlの180BqのCs137溶液を、胃袋に管を挿して摂取させた。1週間の後、動物の生体の体重1kgあたりで平均850Bqになった。脂肪組織や骨や皮膚と比較して、ずっと多くのCs137を集積する組織が幾つかあった。全身の値に比べて、腎臓では15倍の多さであったし、心臓では11倍であった(図2)。

心臓の組織検査の結果、心筋に劣化が見られ、心筋繊維に幾つか壊死もあったが、心筋炎も梗塞もなかった。

図2
180BqのCs137を1週間毎日投与された鼠の体重1kgあたりの体内Cs137

banda_Cs137_fig21:全身  2:肝臓  3:腎臓  4:心臓
5:脾臓  6:骨格筋  7:睾丸  8:肺

肝臓と腎臓と心臓とが格別に高いことが分る。脂肪組織や皮膚などに比べて、腎臓や心筋にはずっと多くのCs137が集積する。

子どもの症状の回復可能性

心臓のこうした症状に対して、林檎ペクチン末をベースにした吸収剤による治療効果を研究した。ペクチンの有効性は鉛、水銀などの重金属では確かめられている。この療法によって、Cs137非含有の食事のみを与えた場合の、3倍の早さで体内のCs137が減少する。

■ 体内のCs137が減少するとともに、症状の幾つかは軽減が見られる。調査したのは94人の子どもたち、男の子が46人と女の子が48人である。

心電図が正常に戻るのは、Cs137の減少がかなりの程度である場合である。右側不完全脚ブロックの消失、あるいは再両極化障害の消失が見られる。私たちの患者の一人で、14歳の少女の場合であるが、治療前の心電図は右側脚の不完全ブロッックを表示していた。その時の体内Cs137は全身体重1kgあたりで36、8Bqであった。16日間のペクチン療法の後で、心電図は右側不完全ブロックの消失を示した。その時の体内Cs137値はスペクトル装置の検出限界値5,0Bq/kg以下に下っていた。血圧は20/70mmHgで、変化しなかった。

今後、被験者となる子どもたちの数を増やし、また、ペクチンと偽薬の2グループに分けるなどして、さらに実証研究を進めていきたい。

■ 今までのところ、高血圧の子どもたちの血圧を正常に戻すことはできていない。

私たちとしては、セシウムにより中毒した患者へのペクチンの3〜4週にわたる投与を年に3回繰返す療法の実現を提案したい。


1 -BANDAJEVSKY YU.I, LELEVICH V.V. Clinical and experimental aspects of the effects of incor- porated radionuclides upon the organism. Ministry of Health.Gomel
State MedInstitute Gomel;1995 ; pp 128.
2 -BANDAJEVSKY YU.I. Pathophysiology of incorporated radioactive emission. Gomel State Medical Institute ; 1998 ;pp 91.
3 -BANDAJEVSKY YU.I. Chronic incor- poration in children’s organs. Swiss Med. Weekly.Septembre 2003
4 -NESTERENKO V.B. DEVOINO A.N., NESTERENKO I.E. et al. Monitoring of population of the Chernobyl region of Belarus for the radioprotection, by assessment of
radionuclides in food and human organism. Intern.J. Radiation Med.2001 ; 3 (1-2) : 93
5 -BANDAJEVSKY YU.I, NESTERENKO V.B., RUDAK E.A. Medical and biological effects of incorporated 137Cs in radioresistant human tissues. Intern. J. Radiation Med. 2001; 3 (1-2) :12.
6 -BANDAJEVSKAYA G.S. : Thesis in Russian; Moscow, 1998 ; pp28.
7 -BANDAJEVSKY Yu.l.,BANDAJEVSKYAG.S. Incorporated caesium and cardiovascular
patho- logy. Intern.J.Radiation Med.2001 ; 3 (1-2) : 11-12.

子どもの諸器官へのCs137の慢性蓄積


ユーリ・バンダジェフスキー

スイス医学週報(SMW)(2003年)

要約

チェルノブイリ大惨事による降下物で激しい汚染を受けたベラルーシのホメリ地方で、私たちは1990年以来、田園地域の人々、特に子どもたちの諸器官内のCs137の蓄積の進展を研究してきた。子どもたちは、同じ地域に住む成人に比べて高いCs137の平均値を示している。

私たちは解剖時に諸器官のCs137の水準を測定した。Cs137の特に高い蓄積が見られたのは、内分泌腺で、特に甲状腺、副腎と膵臓である。心臓、胸腺、脾臓にも高い値が見られた。

序文

チェルノブイリ原子力発電所の爆発(1986年4月26日)以来、ベラルーシの放射能に汚染された諸地区で生活する子どもたちは、ベラルーシでもCs(セシウム)137に汚染されていない地域の子どもたちには滅多に見られない慢性の疾患に苦しんでいる。放射性沃素ショックなるものの病原的役割については沢山のことが書かれてきた。それは数十種ばかりの短寿命の放射性核種に、基本的には沃素131に因る。沃素ショックはまた、幾つかの状態の進行に糸口をつけ、それがそのまま、体内に取り入れられたCs137による慢性的な低線量被曝の下で、引き継がれていく、ということもありうる。チェルノブイリ周辺に生活する人々の身体組織内に、ここ17年、作用し続けている人工放射能は、長寿命の放射性核種に因るもので、主にはストロンチウム(Sr90)、セシウム(Cs134そして特にCs137)だが、さらにプルトニウムを含む各種のウラン派生元素がある。

Cs137の子どもの体内での効果を研究する場合、1987年3月以降の出生で、たとえ子宮内であろうとも、沃素ショックに傷めつけられていない子どもたちを選択するのが肝要である。正常な妊娠であれば、胎児を保護するために胎盤は母体の血液中を循環しているCs137を吸収する。Cs137の胎盤への集積が100Bq/kgを超えると、胎児は傷めつけられる。

新生児は母乳からCs137を摂取する。地域の村で生産された牛乳や野菜を飲食している子どもたちは体内に少しずつCs137を蓄め込んでいく。特に高いCs137の集中が見られるのは野生の漿果や茸、狩猟鳥獣で、貧困家庭はこうした食品に頼っている。

研究法

ホメリ病理研究所でとられていた研究法

セシウムはガンマとベータ、双方の線源である。ベータ線はゲノムと細胞の構造に対して、ガンマ線よりも放射線としての毒性が強いが、セシウムの人体内での単位体重あたり放射能を測定する時に使用されているのはガンマ線である。全身を測定するのと、諸器官に蓄積しているCs137の水準を測定するのとでは、私たちは異なった装置を用いている。

ベルラド研究所は放射線防護の独立機関だが、その移動チームによる測定は、装置の状態を年に一度、欠かさず精査することによって、精確さを保っている。さらに、ドイツとベラルーシの共同プロジェクトの一環として、異った装置(ベルラド研究所所有のウクライナ製«スクリーナ3M»型全身測定器7台、ユエリヒ研究センター所有のドイツ製«カンベラ・ファストスキャン»型移動測定用全身測定器2台)各々の癖を、相互校正でチェックすることができた。初めは11%ほどもあった誤差範囲が、後には7%以下に抑えられるようになった。体重1kgあたり5Bqを下回ると、測定の精確さは保障されなくなる。

解剖中の器官の検査など、実験室内での試料の体重あたり線量の測定には、ベルラド研究所から自動式の«Rug-92M»型ガンマ放射線測定器が、ホメリ国立医学院に提供されていた。測定時間は、100Bq/kg以上の試料の場合で1分、50-100Bq/kgの試料では10分である。49Bq/kg以下になると、精度は減少する。また、各試料の再測定をフランスで行ない、発見に間違いのないことを確かめた。

測定結果と議論

解剖=病理学的アプローチ

病理研究所では異なった器官それぞれについて、Cs137の集積状態を必ず計測するシステムになっていた。妊娠期間中ずっと、母体の血液中を循環しているCs137は胎盤が吸収、蓄積し、胎児は比較的うまく防護されているように見受けられる。多重畸形による流産の場合には、胎児に高い線量のCs137が見られる。

6ヵ月を過ぎた赤児からは高い線量が測定される。«表1»には、赤児の13器官について、Cs137の数値を示した。

«表1»
赤児6人の13器官で測定したCs137

 123456
死因敗血症早発性畸形敗血性出血脳畸形心臓病敗血症
器官




心臓5333 4250
62541661071
1491
肝臓250 277525 851 882 1000
肺臓1125
2666
400
1195
1500
2610
腎臓1500
1687
259
2250
812
583
3000
1363
305
90
1693
714
甲状腺4333
6250
250
1900
未検1583
胸腺3000
3833
1142
3833
714
833
小腸2500
1375
571
3529
2200
590
大腸3250
3125
261
3040
4000
2125
3750
1250
1500
未検未検未検
脾臓3500
1500
428
1036
2000
2125
副腎1750
2500
未検2500
4750
2619
膵臓11 000 12 500 1312 未検未検2941

Cs137の体重あたり放射能がもっとも高い数値は膵臓、副腎、心臓に見られるが、胸腺、胃、腸壁も高い。症例1と2では、集積しているCs137の値は、膵臓では肝臓のそれぞれ44倍、45倍にもなっている。

成人と子どもの各器官でのCs137の蓄積

ホメリ地方の田園地帯に居住する成人と子どもの解剖の際に、8つの異った器官に含まれていたCs137を調べた。子どもの平均的な;Cs137測定値は、同じ環境に生活する成人の2倍から3倍の高さである。(図1)

調べたすべての器官で、放射性セシウムの測定平均値は、子どもの方が成人より高かった。ホメリ州の田園地帯の町村での、学童の全身測定値も、やはり成人の値を上回った。

«図1»
1997年に死亡した成人と子どもの;諸器官内での放射性同位体の蓄積

banda_f11:心筋
2:脳
3:肝臓
4:甲状腺
5:腎臓
6:脾臓
7:骨格筋
8:小腸

1997年調査の、10歳以下の子どもたち

1986年の4月26日から6月までの間、チェルノブイリからの放射性降下物は濃密であった。放射能の2/3は短寿命の放射性各種によるもので、もっとも重要なのは沃素131であった。1987年以降に出生した子どもたちは、«子宮内»も含めて、«沃素ショック»によっては傷つけられていない。

病理研究所では、様々な原因で死亡した、ホメリ州の田園地帯の町村の子どもたち51人を調べた。このグループは沃素ショックを受けていない。慢性的な内部被曝がこの子どもたちの病気の源であったとしても、放射性セシウムなど長寿命の放射性核種、に帰因できるであろう。調べた13の器官について平均数値の高い順に、標準偏差付きで示したものが«表2»である。

ホメリの国立医学院では、器官への放射性セシウムの蓄積に因る細胞の損傷を研究した。諸器官にこの放射性核種が蓄積したことに因る機能障害、ないしは疾病については、臨床的、疫学的、ラットとハムスターによる解剖=病理学的ないし動物実験的な論文が計20編ある(1〜4の文献を参照)

«表2»
1997年、ホメリ地方の10歳以下の子ども52人の13の器官でのCs137の体重あたり平均測定値

器官Bq of Cs-137/kg
1:甲状腺2054 ± 288
2:副腎1576 ± 290
3:膵臓1359 ± 350
4:胸腺930 ± 278
5:骨格筋902 ± 234
6:小腸880 ± 140
7:大腸758 ± 182
8:腎臓645 ± 135
9:脾臓608 ± 109
10:心臓478 ± 106
11:肺429 ± 83
12:脳385 ± 72
13:肝臓347 ± 61

Cs137のもっとも高い平均値が見られるのは膵臓を含む内分泌腺である。甲状腺のCs137の蓄積量は肝臓より6倍も高い。内分泌腺の次に高いのは胸腺で、平均930Bq/kgにもなる。

結論

子どもたちが体内に抱えてしまっているCs137については、さらに調査を進めるべきであるし、様々な疾病の発症に関しては集中的な研究が必要である。放射能に汚染された耕地が次第に耕作されるようになってきているし、放射能汚染された食品が全国的に流通している現在、ことは急務である。

汚染地域の学童たちは放射能汚染のない食品を学校食堂で無料で提供されていたし、また毎年、綺麗な環境のサナトリウムで一カ月を過した。しかし経済的な理由から滞在期間は短縮され、汚染地域内の町村の中に、「きれい」に分類し直されるところが出てきた。そして、国家によるきれいな食品の提供も終りにされてしまうのである。

文献

1 Zhuravlev F. Toxicology of radioactive substances, Second Ed. pp 336, Energoatomizdal, 1990.
2 Bandazhevsky Yu I. Pathology of incorporated radioactive emission. Gomel State Medical Institute 2001; pp. 91.
3 Bandazhevsky Yu I. Radiocaesium and congenital malformations. Internat J Radiation Medicine 2001:3:10–11.
4 Bandazehvsky Yu I & Lelevich V V. Clinical and experimental aspects of the effects of incorporated radionuclides upon the organism. Gomel 1995; pp 128.

エートスへ、そしてCOREに至る流れ


ウラディミル・チェルトコフ

2002年11月15日

COREの基本文書へのチェルトコフ執筆の批判文書に、予備的な注釈として付されているもの

ヴァシーリ・ネステレンコ

チェルノブイリ大惨事が生み出した状況に関して、ソヴィエト政府は動きもせず、嘘を重ねていた。物理学者のヴァシーリ・ネステレンコ教授は学士院会員であり、ベラルーシ科学院原子力研究所の所長であったが、事故の直後、政府の決めた30kmではなくて100kmの半径内の住民たちを即刻避難させるように要求して、当局と対立、余分な警告を行いパニックの種を播く人物であるとして、1987年7月に解任された。1990年にネステレンコはこの国立研究所を最終的に離れ、アンドレイ・サハロフ、カルポフ、さらに作家のアレス・アダモヴィチの支援を受けて、放射線防護独立研究所«ベルラド»を設立し、放射性降下物の被害にあっている地域で、子どもたちの救援に乗り出した。ベラルーシのもっとも汚染の激しい地域の村々に370個所の放射能測定地域センター(CLCR)を設立し、そこに医師たち、教師たち、看護婦たちを集めて放射線防護の手解きをし、また家族たちに食品から汚染を減少させる調理法を学ばせた。短期間しか続かなかった「民主化」の時期の間、政府の「チェルノブイリ委員会(コムチェルノブイリ)」からの資金を得て、初めのうちは運営されていたわけだが、核ロビー(IAEA、WHO、およびミンスクの保健省内でこれに対応するセクション)が状況をその手に取り戻して以後は、CLCRはその数を68にまで縮小されることになった。

1996年にネステレンコは林檎ペクチンをベースにした食品添加物の導入に成功し、ウクライナの保健省からはセシウム137の吸収剤として推奨されることにもなった。子どもの身体組織に溜ったセシウムが1ヵ月の治療で60-70%ほど減少するのだった。

ユーリ・バンダジェフスキー

1994年にネステレンコはホメリ医学院院長で、解剖=病理学者で医師のユーリ・バンダジェフスキーの知己を得た。バンダジェフスキーは1991年より、汚染地域の住民たちに見られる、これまでにない病理的状態について、病原学的研究を重ねていた。小児科・心臓科医師の妻、ガリーナとともにバンダジェフスキーは、心臓の形態的・機能的変質の頻度と重篤性が、身体組織に含まれる放射性セシウムの量に比例して増加しているのを発見した。彼は「セシウムによる心筋病変」をこう描いている:心筋組織の変質をともなった小児、青少年、成人の心臓疾患。あらゆる年齢層、小児にさえおこる突然の死。バンダジェフスキーと共同研究者たちのチームは、「心臓、肝臓、腎臓、内分泌諸器官の各部で、また免疫系にも同様に見られる、相互依存的な病変過程」を描いている。こうした傷ついた状態は、すべて、似たような病理過程からきている。彼らはそれを「放射性核種の長期間摂取による症候群」と呼んでいる。ホメリ医学院のあらゆる研究部門から上がってきた何千人もの子ども、大人の健康状態の厳密な研究の成果であった。9年にわたって、25の研究室が同じ主題で、臨床、動物実験、病理解剖学という3つの方向性で研究を続けるのである。ホメリ医学院には200人の教員と300人の補助職員、1500人の学生がいた。

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1996年から、「ベルラド」研究所とホメリ医学院とは協調して仕事をするようになる。ネステレンコは村々を一つひとつ訪ね歩き、西欧のNGOから提供を受けたホールボディカウンタをもって、セシウム137による身体組織の内部汚染を測定することに力を注いだ。セシウムの身体組織への作用の、神経解剖学的研究には、彼は自作のガンマ放射線自動測定器を、ホメリの研究者たちに提供した。これによって、調べている器官ごとの、kgあたりのセシウム137量を、解剖の度に測定することができた。両研究組織によって、子どもの場合でも実験動物の場合でも、食事を管理してセシウム137を極小にすれば、生命に影響する器官の致命的な損傷を避けることができることも、示された。まったく新しい研究への道が、ここい開かれたのだった。

1999年4月、2人の科学者たちはベラルーシ議会に招かれた。線量白書と、チェルノブイリ事故の諸帰結に関する医学研究の中での、保健省の放射線医学研究所による国家資金の使用の正当性を審議する委員会で意見を述べるためであった。2人の陳述の結論は、委員会内の保健省に近い筋のメンバーたちの気に入らなかった。バンダジェフスキーとネステレンコと研究所前所長のストジャロフの3人は、別の報告書を作成して、住民の健康に責任を負っているベラルーシ国家評議会に送付した。評議会は保健省の線量白書を撤回させ、ネステレンコ、バンダジェフスキー、ストジャロフの「結論をベースにして、早急に」白書の内容を見直すように指示した。一方、バンダジェフスキーは一通の報告書をルカチェンカ大統領に送付し、その中で、保健省の研究所の基本方針に厳しい批判を向け、総予算1700000ルーブルのうち、有効に使われているのは100000ルーブルだけだと主張した。その数週間後、1999年の5月だが、保健省の3つの統制委員会が突然、ホメリ医学院を臨検したが、何も異常を発見できなかった。1999年7月13日の夜、バンダジェフスキーはルカチェンカ大統領の発布した反テロリスム条例を根拠に逮捕された。2001年6月18日、彼はベラルーシ最高裁の軍事法廷で証拠のないままに汚職の罪で禁固8年の有罪判決を受けた。ホメリ医学院の新しい医学院長はバンダジェフスキーが創設した研究プログラムは、高等教育機関のプログラムの名に値したないとして、廃棄たのだった。

ガリーナ・バンダジェフスカヤ

小児科・心臓科医師だったガリーナは、ホメリ医学院の小児医学講座の教授だったが、追放された。2002年9月2日以来、彼女は「ベルラド」研究所で科学秘書兼医学部門責任者として働いている。

エートス

こうした間に、1996年、エートスと名乗るフランス人の研究者グループがネステレンコ教授の運営するオルマニー村の測定センターCLCRを頼ってやって来た。彼らはネステレンコの放射線測定データを手に入れ、チェルノブイリの汚染地域で前例のないこの研究所の内部で、ネステレンコから放射線防護を学んだのだった。エートスはCEPN(核の領域での防護評価研究センター)の作ったものだが、そのCEPNはEDF(フランス電力)と原子力庁(CEA)が作ったもので、フランスの核ロビーの化身のような団体である。

エートスの目的の一つは、「放射線量と社会的信頼との長期管理を定義」(2001年4月1日の要約議事録)し、核事故と、寿命の長い放射性核種に汚染された地方の管理に関して、欧州連合向けに研究成果を文書化することである。1996年から1998年まで3年の間、エートスはオルマニーのCLCRの測定データを集め、ネステレンコが養成した技師を使い、ネステレンコが設備した装置を使って、食品や牛乳などの放射能測定を行ない、女性技師が測定で残業になっても一銭の支払いもしようとはしなかった。この同居状態に実りがなかったわけではないが、しかしそれもエートスがベラルーシ当局に、ネステレンコをオルマニーと、ストリン地区の他の4つの村から追放させた日までのことであった。

今日、エートスはチェルノブイリ地方の放射線防護に関する科学的権威であるかのような顔をしている。そして、COREプログラムを編成したわけだ。

「ベルラド」研究所は切迫した経済状態の中で、存続のために苦闘を続けている。資金の提供者たちは、ヨーロッパのつましい市民たち、環境と健康を防護するNGOのメンバーたちである。エートスの動きに対してこうした諸団体が批判を強めたために、ネステレンコもCOREプログラムに加えられることになったが、しかし、汚染を受けている子どもたちの病気を予防する活動を続ける手段を、ネステレンコは奪われたままだ。