汝の敵を知れ:国連の機能のし方


キース・ベイヴァスタク

IPPNWチェルノブイリ25周年集会(ベルリン、2011年4月11日)での講演に使用されたスライド

国際連合のある重要な特徴

関連組織や機構を傘下とするための「武器」が2つある:
1. 安全保障理事会(IAEAはここに入る)
2. 経済社会理事会(WHOはここに入る)

前者の傘下の組織や機構は、後者の傘下の組織や機構よりも、強い影響力を持つ

国連の組織や機構は、加盟国によって所有されている:加盟国があなたの金(税金)で組織や機構に支払いをしているのだ

国連は自身を一つの家族と見なしていて、組織や機構の各々は、この家族への忠誠を自覚している

組織や機構の責任領域に重なりのある時には常に、双務的な合意を取り交す; WHOでは、合意文書は«基本文献»と呼ばれているものの中に入っているーーほとんど聖典だ。

そこで、IAEAとWHOとの間には合意文書が存在する。そこには原子力に関するただの議論以上のものがある。WHOにとってはたいへん重大な要素がいくつもある。

様々な問題のある領域の中でも、原子力こそはもっとも重要な領域だ。どういう問題があるのか、注意深く、かつ精確に分析することが重要だ

WHOには公衆の健康防護し、保健の質を確保する権限があるーーWHOの「万人に健康を」政策:

IAEAには原子力の平和利用推進する任務があるため、核技術が安全な使用を確保する権限がある:

放射線が疾病の診断や治療に有力な道具である限りでは、2つの組織は協調し、相互に支援しながら、働いていけるように見える

核技術が«原子力»であるところから、問題が生じるのだ。

2つの組織の協働には明らかに利点がある:

低開発国に提供された放射線治療装置(charged particle generators)を例に取ろう: 装置の扱い者と患者とを、誰が後見するのか? 装置が誤用されていないか、誰がチェックするのか? 放射線測定の専門技能は基本的であるーー誰がそれを提供するべきかーーIAEAかWHOか?

同じく低開発国での、治療診断用の小さな放射線源を例に取ろう: 正しい保管、使用、余分な線源の処置を誰が指導するのか? ーー医学目的のものには違いないとは言え、WHOだけの責任分野になるのだろうか?

こういう領域こそがIAEAの任務ーーIAEAが推進する技術の安全な使用、それによってWHOの任務も拡充できるのが否定できないーーWHOには専門技能が欠けている領域

さて、原子力である:

IAEAは、不誠実にも、彼らは原子力の推進などしていない、求めに応じて援助をするだけだ、原子力の使用が、武器製造技術に転用されないよう監督するのだ、と主張する。後の方の論点は、IAEAが安全保障理事会という国連の武器の傘下になっている理由

不誠実に。IAEAで仕事をしようというような連中は始めから核推進派で、はっきり書いてあろうが無かろうが、組織の観点に隅から隅までバイアスを掛けるのは避けようがない

ここで少しばかり寄り道をして、脳について話をしよう

人類の進化の仕方によってこうなったのだが、脳は«記憶»を機能よりもむしろ、構造に即して扱っている。脳はソフトウェアではなくむしろ、ハードワイア、堅い針金細工のようなものだ。

何か役に立つ発見があると、その新しいものを「システムに針金で結い付け」れば、、失くして、«忘れられて»しまわないよう、サバイバルを強化することになる。

1950年代には、原子力は何でも解決できる答のような顔をしていた。来たるべき原子力の黄金時代にはエネルギーはメーターが不要になるくらいに安くなる。一世代が丸ごとそう信じ込まされ、それは頭脳に針金で結い付けられて、変えれないようである。

もちろん過大評価だった。故意にそうしたのだ。国連加盟国の一部が、核兵器を開発しようとし、プルトニウムを必要としていたのだ。イギリスでは、否認し続けられてはいるが、民間原子力プログラムはプルトニウムの生産のために運用され、今や100トンの在庫を抱えて、処分に困って核燃料に混ぜ込もうとしている(MOX燃料)。(これがA世代、核推進派の世代である)

1979年と1986年という2度にわたり、巨大で警告的な核事故を私たちは経験した。そして核の力はあまりに危険似すぎると誠実に(また理性的に)信じる世代が登場した(B世代)。サバイバルは危うくなってきた。

その結果、原子力は汎地球的に凋落に向い、能力のある原子力技術者や物理学者たちの中から、職を他に求める人たちが続出したーー核は黄昏れ産業と化した。こうした流れに、数週間前のフクシマは拍車をかけたに違いない。

2000年頃だが、汎地球的気候変化が重要な政治課題として浮上してきた。(A世代によれば)原子力こそ、解答である:もはや安いエネルギーではなくなったので、今度は低炭素のエネルギーだというわけだ。2つの事故の結果の矮小化を通じて、こうした見方は多くの人々を引き付けた。原子力ルネサンスが見込まれる(れた)。B世代の立場からA世代の立場へと転向した人々もいる。著名なところでは、モンビオ、ラヴロクなど。

かくて、今や、核の有用性の議論は二つの陣営に割れていて、共通の土俵などはないーーどちらにとっても、相手方は不合理で滑稽の極みだ。

しかし1980年頃には、一筋、光明もあった。その時代に、原子力の未来は«高速増殖炉»へと向っていた。この炉はウラニウムを製錬する必要がなく、プルトニウムを燃やすことができ、炉は天然のウランから燃料を「増殖」することができる。

1980年頃、ジアン=カルロ・ピンケーラというイタリアの核物理学者が、高速増殖炉は本質的に危険であることを示した。
ただ1本の講演録で、高速増殖炉はほぼ全面的に放棄された。私は1990年代の初めにピンケーラに会ったが、彼は「核の弁護人たちは死後硬直の瞬間に蹴りを入れてくる、注意したまえ」と警告した。

今まさに私たちはその蹴りを目にしている、しかし、彼らは多分、死んでなんかいないのだ!

フクシマ:この事故が原子力政治に与えるインパクトを見るには時期尚早である。

この寄り道のポイントは、WHOとIAEAの間の、私たちの直面している状況を説明するためであった。

私たちには、2つの決定的に対立した見方があり、一方は一方の陣営に、他方は他方の陣営にある。

国連はどう働くか?

私は下部から(技術スタッフの話から)始めよう。これだけは忘れないでいただきたい:
加盟国は国連に金を払っていて、だから利益を引き出そうとしている。

沃素安定剤のガイオドラインの作成過程を、例として取り上げよう。1997年に、IAEAのマルコム・クリクと、WHO欧州事務局が雇ったウェンドラ・ペイルとリーフ・ブロンクヴィストという2人の研究者とともに、技術スタッフ・レベルの連携プロジェクトとして始められたものだ。

1998年の中頃、ガイドラインの最初の草案が、IAEAとWHOとの管理者レベルで回覧された。

2つの組織の間には管理者レベルの明確な合意があったし、仕事はオープンに進められていた。ところがIAEAはここまできて引いてしまい、問題の部分があるから、そこの全体を省くか、見直すことを強く勧告した。問題の部分は、行動の実施規準となる子どもの甲状腺被曝線量を100グレイから10グレイに引き下げる提案であった。

1999年にWHO欧州事務局は、出版に向うべきだということでジュネーブ本部を説得した。

IAEAはガイドラインに「草案」であり単なる参考資料だとして繰り返し言及する、という形で応酬した。これはガイドラインに加盟国から疑いの目を向けられたこと、また、加盟国はこのガイドラインを採用しなかったことを意味する。

IAEAに従えば、加盟国の多くが、このガイドラインの新しい実施規準の部分が、「科学的に不十分」と見做していたという

そこでWHOのジュネーブ本部はガイドラインの弁護を拒んだが、欧州事務局は立場を変えなかった。

問題は2001年にウィーンで実務会議を開いて解決されたが、そこでは科学的不十分さなるものについて4日間以上もの間、議論された。

最終的に明かになってきたのは、フランスがコストを理由に反対していたということで、IAEAはフランスの利益に沿って行動していたのだということである

政治レベル(加盟国)がIAEAに圧力を掛ける
フランス

管理者レベルでは、IAEAは報告書への裏書を拒み、WHOはそれでもガイドラインを1999年に出版する。しかしIAEAはそれはただの「草案」だと主張し、ジュネーブのWHO本部も同意する
IAEA:アベル・ホンサレス
WHO:リヒャルト・ヘルマー、ミカエル・レパコーリ、アン・カーン

安定沃素剤ガイドライン策定のためのWHO/IAEA連合による技術共同作業(1997/99)
IAEAからマルコム・クリク
コンサルタント2名: ウェンデラ・ペイル、リーフ・ブロンクヴィスト

これに関しては、WHOとIAEAとの合意はまったく関係がない。IAEAは一加盟国の代理人として行動したのである。

今、必要なのは、公衆全体のレベルでの事故のインパクトを知るための戦略である。そうした時にのみ、政府が一般的に認めるよりもずっと酷い健康被害があるということを示すことができ、兵器と電力、というのも二つは繋っているからだが、その双方の領域で核の問題をキチンと議論することができる。

ここ2年間、欧州連合に援助されたグループが、健康調査の優先順位を見直す作業を続けてきた。

「チェルノブイリ調査計画」(ARCH)プロジェクトは完成し、「戦略調査計画」が公表されている(http://arch.iarc.fr)

ARCHは欧州連合に対し、広島長崎の原爆生存者に関して行なわれた諸研究にも似た、「想定寿命研究(LSS)」を、既存の諸研究をベースに進めていくための資金援助を、被害を受けた3国と協力して行なうよう、勧告している。

EUを説得して動かすには、政治レベルでのサポートが必要である。このことは今や急務で、IPPNWのような関係NGOがEUに対して圧力を掛けていく必要がある。

IAEAはこういう研究はしないし、WHOがもしすればIAEAは妨害してくるだろうと、いうことは確信してよい。