福島医大とIAEAとの2013年12月協定書


竹内雅文

2013年12月に福島県は国際原子力機関(IAEA)との間に幾つかの協定書を取り交 しました。その中に、「福島県立医科大学とIAEAとの間の実施取決め」という題目の協定書があり、医大学長の菊地臣一氏と、IAEA事務次長(原子力科 学・応用担当)のモハマド・ダウド氏が署名をしています。(原文英語版:http://www.mofa.go.jp/policy/energy /fukushima_2012/pdfs/fukushima_iaea_en_06.pdf 日本語版:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/fukushima_2012/pdfs /fukushima_iaea_jp_06.pdf )

この文書には見過しにできない文言が色々と含まれています。

「1目的」という条項には、「事故後の福島県における放射線が人の健康に与える影響及び放射線リスク管理の分野において、協働活動を発展させ実施することを目的とする。」とあります。
この「放射線が人の健康に与える影響」という言葉は、次の条項にも現われます。
「2協力の範囲」という条項を読むと、「●啓発の強化:IAEAは、放射線が人の健康に与える影響に関する啓発を強化し、福島県民の放射線に対する不安及 び心的外傷後ストレス障害に取り組むことを目的として、大学と協力して、会議、セミナー及びワークショップを開催するよう努める。」となっています。
「放射線が人の健康に与える影響」という言葉には、例えばどのようなものを指しているのか、何ら具体的な説明はありません。そして、これとほとんど同じ比重で「県民の放射線に対する不安及び心的外傷後ストレス障害」なるものが並置されています。

私たちはこうした文言を、この覚書締結当時まだ県立医大の副学長であった山下俊一氏の発言として繰返し伝えられている「100mSvでもニコニコしていれば大丈夫」という文言と、相通ずるものとして理解しないわけにはいきません。
かねてよりIAEAは、放射線被曝による疾病であることが疑われる個々の症例で、その真の原因を被曝によるものと特定し連関を確実に立証することが困難で あることを論拠に、放射線の人の健康への影響をほとんど丸ごと否認してきました。そして、それに変る病因として、ストレス障害なるものを繰返し持ち出して います。
けれども、チェルノブイリ周辺で事故後に発現した大量の死者や病者、障害者、死産等に関して、個々の症例の立証が困難であるからと言って、まとめて否認す るのは、一かけらの科学性もない暴挙であり、さらに、彼らの言うストレス障害なるものに、どのような学説的論拠があるのか、一度として説得的に示されたこ とはありません。

一方の「放射線リスク管理」という言い方は、「××癌による死亡可能性は0.0×パーセントの上昇です」といった枠内に問題を押し込めるもので、こういったリスク論なるものは、実際に発病してしまった人の命の問題を確立統計の中に疎外するものです。

この医大とIAEAとの協定は、放射能による健康障害の問題を、ストレス論、リスク論という2つの軸によって成り立つ軸の中に押し込めようというもので、このような設定を行なった福島県知事の佐藤雄平氏と医大の菊地臣一氏との責任は重大であると言わなければなりません。

以上の点が、この協定の最大の問題点と思いますが、それ以外にも、幾つか留意しておくべき条項があります。

「9 知的財産」には「IAEA憲章上の任務を尊重しつつ、適当な場合かつ必要に応じ、知的財産及び知的財産権に関連する事項について相互に協議する。」とあり ます。総じてこの協定には、福島県側のみがIAEAの立場に留意するべきことが規定されています。そうした力関係に立った協定であることに注意しておく必 要があります。

「10特権及び免除」には「日本国政府が1963年4月18日にIAEAの特権及び免除に関する協定を受諾したことに留意する。」と書かれています。この協定については、別に項目を立てて解説していますので、そちらを参照してください。(準備中)