「福島県環境創造センター」の運営と展示に関する問題点


2013年11月
フクシマ・アクション・プロジェクト

背景

「福島県環境創造センター」は、「放射性物質により汚染された環境を早急に回復し、県民が将来にわたり安心して暮らせる環境を創造する」ことと「国内外の研究機関と緊密な連携の下、世界に冠たる国際的研究拠点を目指す」ことを基本理念として福島県が建設し運営する施設である。2012年2月から検討が開始され、同年10月に基本構想がまとめられた。三春町にA施設(モニタリング、研究、情報発信、教育・交流)、南相馬市にB施設(原発周辺のモニタリングや監視)が作られる。2015年度の開所予定。

関連して、2012年12月に「原子力安全に関する福島閣僚会議」が郡山市で開催された機に、福島県と国際原子力機関(IAEA)の協力に関する覚書が交されている。放射線モニタリングと除染の分野で協力プロジェクトを実施することになったほか、2013年5月には「IAEA緊急時対応能力研修センター」が福島県自治会館に開所した。

環境創造センターの設置に向けては、2013年1月から有識者による設置準備検討委員会(会長:田中知東大教授、日本原子力学会会長)が開かれており、同年10月に「中間まとめ」として目指す施設の概要が発表された。基本設計は、株式会社トータルメディア開発研究所が受託し、進めている。

«付記»

県とIAEAとの協定とはべつに、健康の分野については県立医大とIAEAの協力が合意されている

施設の概要(2013年10月「中間まとめ」による)

■A施設三春町 46,000平米)

①モニタリング、②調査研究、③情報収集・発信、④教育・研修・交流、の4機能
2階建で、本館、研究棟、交流棟の3棟。
研究棟には日本原子力研究開発機構(JAEA)と国立環境研究所が入居する。現在自治会館に置かれているIAEA緊急時対応能力研修センター(日本人職員1名)は同本館に転居。規模は県職員も含め全体で200名規模。
交流棟は子ども・県民向けの展示やイベント等のスペースとなる(後述)。

■B施設南相馬市 19,000平米)

原発周辺のモニタリングや安全監視を担う。
日本原子力研究開発機構(JAEA)が入居。

交流棟の展示・運営

A施設「交流棟」は、「子どもたち・県民とともにふくしまの未来を想像する『対話と共創の場』」をコンセプトとして、①子どもたちに「放射能をはじめ正しい福島の情報」を伝え、②福島の環境創造の力を「県民そして世界に発信」し、③子どもたち、県民と専門家の「対話」を醸成し、④「透明」でオープンな展示や活動を行い、⑤福島の未来を「創造」することを掲げている。(「交流棟に係る展示・運営事業の考え方(案)」)。

小中学生が中心的なターゲットとされ、学校で行われる放射線教育の一環としてこの施設訪問を組み込んでいくことが構想されている。県内の小学5~6年生が全員来館するようにするとの構想が報じられている。このほかに、教師の研修や県民(NPOなど)の地元利用、研究者や産業界による会議利用も構想されている。展示例としては「楽しみながら学べる参加体験展示」、放射線ラボ、環境創造シアターなどが挙げられている。

交流棟は2014年度前半に発注、同年秋から約1年半かけて本体工事し、2016年4月の開所を目指している。(本館は2013年度内に発注、2015年度前半に開所)

環境創造センター、とりわけ「放射能教育・展示」の問題点

フクシマ・アクション・プロジェクトは、IAEA共催による「原子力安全に関する福島閣僚会議」をきっかけに生まれた市民グループである。2012年11月の発足以来、県の環境創造センター整備推進室などとの対話を重ねてきた。福島県は、「県内の環境を回復していくために、原子力や放射能に関する専門的知見を有しているIAEAやJAEAから知見を活用させていただいている。全基廃炉、脱原発という県の方針は明確であり、それが揺らぐことはない」と説明している。

しかし、環境創造センターの整備に関する一連の流れを見ると、原子力推進機関であるIAEAやJAEAの影響力が大きいとの印象はぬぐいえない。これまで、いわゆる原子力ムラを構成する多くの企業や機関が、さまざまなパビリオンや教材を使って放射能に関する教育事業を行ってきた。しかしその多くが「放射能の危険性は小さく原発は安全である」という「神話」教育であったことが、今日までに明らかになっている。環境創造センターがこうした過ちをくり返すものになってはならない。

このセンターは、開所すれば、原発事故後に作られた公衆向けの初めての見学・教育施設となる。子どもたちが公教育の一環として訪問することになるのだとすれば、その波及効果は大きい。原子力や放射能の危険性を隠したりそこから目を背けたりするのではなく、原発事故と被災の教訓をしっかりと踏まえたものにしていく必要がある。

県議会、メディア等で取り上げられるべき論点

1. 環境創造センター交流棟の展示・教育内容は、誰が策定するのか。政府や産業界から独立し、原子力に対して批判的な観点をもった専門家が関与することが不可欠である。展示・教育内容の策定委員会を早急に形成し、その策定過程を被災者、県民をはじめ、広く公開すべきである。

2. これまでの学校教育における放射能教育には多くの問題があったことが原発事故後次々と明らかになっている。福島県は原発事故で直接に被災し脱原発を掲げる県として、同センターでの展示・教育内容に関して、文科省の枠組みにとらわれず独自の視点を掲げるべきである。

3. 現時点で、環境創造センターでは、原発事故の恐ろしさや事故被害の実態に関する直接的な展示は行わない方向での検討がなされているようである。子どもや被災者への心理的影響に対する配慮が必要であるとしても、原発事故こそが今日の問題の原点である。展示内容について、被災者、県民に開かれた十分な議論が必要である。

4. 環境創造センターの内容策定過程には、国際的視点が不可欠である。海外からの見学に対応できるよう展示内容は英語など多言語でなければならないのはもちろんのこと、構想段階での情報を積極的に国際社会に発信し、策定プロセスに国際的な独立専門家の助言を得ていく必要がある。

«資料» ICRPの日本人たち


2013年11月現在での、ICRPメンバーとされている全日本人のリスト

■ ICRPでの現職
■ 日本での現職
■ 日本での前職

丹羽太貫(にわ・おおつら)
主委員会(2009〜)
タスクグループ75(幹細胞放射線生物学)
京都大学名誉教授
福島県立医科大学  理事長付特任教授(2012〜)
原子力安全委員
文部科学省 放射線審議会 会長
放射能影響研究所 評議員
バイオメディクス株式会社代表取締役社長(2009〜2012)
放射線医学総合研究所重粒子医科学センター副センター長(2007〜09)
京都大学放射線生物研究センター教授(1997〜2007)
広島大学原爆放射能医学研究所病理学教室教授(1991〜97)

佐々木道也(ささき・みちや)
科学書記局長補佐
電力中央研究所 原子力技術研究所 放射線安全研究センター

伴信彦(ばん・のぶひこ)
第1委員会(放射能の影響)
東京医療保健大学大学院看護学研究科 教授
大分県立看護科学大学
動力炉・核燃料開発事業団(1989〜1993)

遠藤章(えんどう・あきら)
第2委員会(放射線被曝による線量)
タスクグループ4(線量計算)
タスクグループ90(環境線源による被曝の年齢依存当量換算)
日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究部門 環境・放射線科学ユニット

米倉義晴(よねくら・よしはる)
第3委員会(医療における防護)
タスクグループ87(イオンビーム放射線治療の放射線防護)
放射線医学総合研究所理事長(2006〜2011)
福井大学 高エネルギー医学研究センター 教授(〜2006)

本間俊充(ほんま・としみつ)
第4委員会(ICRP勧告の適用)
タスクグループ93(ICRP文書109&111の改訂)
日本原子力研究開発機構 安全研究センター 研究主席

甲斐倫明(かい・みちあき)
第4委員会(ICRP勧告の適用)
タスクグループ91(放射線防護目的のための低線量&低線量率での放射線リスクの推論)
タスクグループ93(ICRP文書109&111の改訂)
大分県立看護科学大学理事/人間科学講座 環境保健学研究室 教授
日本原子力研究所 環境安全研究部 研究員

酒井一夫(さかい・かずお)
第5委員会(環境防護)
タスクグループ91(放射線防護目的のための低線量&低線量率での放射線リスクの推論)
放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター長・人材育成センター長(2006〜)
東京大学大学院 工学系研究科 原子力国際専攻 客員教授
電力中央研究所 低線量放射線研究センター 上席研究員(1999〜2006)

石榑信人(いしぐれ・のぶひと)
タスクグループ4(線量計算)
名古屋大学 医学部保健学科 医療技術学専攻 医用量子科学講座 教授
放射線医学総合研究所 緊急被ばく医療研究センター 線量評価研究部 物理線量研究室長

保田浩志(やすだ・ひろし)
タスクグループ83(宇宙線被曝からの航空乗務員防護)
放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター 環境放射線影響グループ

立崎英夫(たつざき・ひでお)
タスクグループ85(現代的放射線腫瘍医学における二次的癌リスク減少のための実践的放射線防護勧告)
放射線医学総合研究所 緊急被ばく医療研究センター 被ばく医療部 障害診断室長

辻井博彦(つじい・ひろひこ)
タスクグループ87(イオンビーム放射線治療の放射線防護)
粒子線がん相談クリニック院長
放射線医学総合研究所 理事/重粒子医科学センター長(2000〜2011)
筑波大学 臨床医学系教授 陽子線医学利用研究センター長(1990〜94)

中村尚司(なかむら・たかし)
タスクグループ87(イオンビーム放射線治療の放射線防護)
東北大学名誉教授
東北大学大学院工学研究科教授(1999〜2003)
東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター教授(〜1999)
文部科学省放射線審議会会長

佐藤大樹(さとう・だいき)
タスクグループ94(環境線源による被曝の年齢依存当量換算)
日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究部門

斎藤公明(さいとう・きみあき)
タスクグループ90(環境線源による被曝の年齢依存当量換算)
日本原子力研究開発機構 福島技術本部 上級研究主席

栗原千絵子(くりはら・ちえこ)
タスクグループ94(放射線防護の倫理)
放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 客員研究員(2007〜) 同主任研究員(2008〜)
科学技術文明研究所(2003〜2007)
臨床評価刊行会/コントローラー委員会(1994〜2003)

Roy E. Shore
タスクグループ91(放射線防護目的のための低線量&低線量率での放射線リスクの推論)
放射線影響研究所