UN原子力機関はフクシマについての真相を否定


IPPNWプレスリリース (2014年12月1日付)

ドイツ連邦国会・科学研究調査局がIPPNWの論評批判を取り上げる

2014年12月1日

(和訳:グローガー理恵

ドイツ連邦国会の科学研究調査局 (der Wissenschaftliche Dienst des Deutschen Bundestages)は、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)のフクシマ報告書を評価する上で、IPPNW医師団による論評批判を取り上げて いる。

科学研究調査局発行の情報文書には、IPPNWによる幾つかの重要な批判点が引用されている。引用されているのは、例えば、①UNSCEAR委員会 の委員構成に、いかに原子力国家(複数)が強い影響力を及ぼしているのか、②透明性に欠けるデータベース、③経営会社-東電による不正問題、④破損された 原子炉(複数)から絶え間なく放出される放射性物質などについてである。また、情報文書は、現在すでに、被災地域の子供たちの間で、予期されなかったほど に多数の甲状腺異常が発見されたことにも言及している。

科学研究調査局は、フクシマに関しての存在するデータに基づき最終的リスク評価を出すことは不可能であり、長期的研究調査が必要であるとの結論に達している。

10月末には既に、9ヶ国から40以上のNGO(非政府組織)が、IPPNWによる論評に基づき、国連総会の担当委員会にUNSCEAR報告書の改訂を要求した*。更に、彼らは、UNSCEARを原子力産業の影響/勢力から脱させてUNSCEARの本来の役割を果たすことができるようにすべきである として、UNSCEARの改革を要求している: UNSCEARの本来の役割とは、すなわち、電離放射線によってもたらされる健康影響について中立的な科学研究調査を行うことである。

「我々は、UNSCEAR委員会の委員たちがフクシマ原子力災害による広範で複雑なデータを評価する上で、かなりの努力を費やしたことを知ってい る。しかし、現在においても今後将来においても”識別可能な健康影響なし”という彼らの結論は、常識では受け入れられないものであり、UNSCEARの信頼性を蝕み破壊するものである」と、UN宛の公開書簡には述べられてある。

その間、明らかになったことは、UNSCEARが今年、日本の外務省から7100万円(約48万3千ユーロ)の金を受け取り、福島の住民に産業や政 府にとって都合のよい情報を提供し「放射線によってもたらされる影響に関しての余計な心配を取り除くようにすること」を頼まれていたことである。

「そのような虚偽の約束で福島の人々は救われません。彼らが待ち望んでいることは、公正な現実に即した情報であり、医療支援であり、何よりも、健康 への、そして健康な環境で生活することへの侵すべからざる人権が認められることです。このことが、フクシマにおける健康影響を評価する上での指針となるべ きでです。;経済や政治の権益ではなく…」

と、IPPNWドイツ支部理事会メンバー、そしてIPPNWによるUNSCEAR報告書の論評の共著者であるアレックス・ローゼン医師は述べる。

原文(独語)へのリンク:

http://www.ippnw.de/startseite/artikel/e8ee7f0f2dc41258e481d137e15cf7d8/un-atomorganisation-leugnet-wahrheit.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2835:141209〕

チェルノブイリでの放射線防護と、その後


イヴ・ルノワル

この文章の原文は、2014年10月14日に早稲田大学内で開催されたフォーラム用の準備稿で、11日に福島市で行われたフクシマアクションプロジェクト学習会でのイヴ・ルノワル氏の講演も、概略、これをもとに行なわれている。

1. はじめに

チェルノブイリの破局的惨事の後には、前例のない甚大な健康被害が続いた。

私が提起したいのは、その起源と制度上の理由の明確化である。

この甚大な健康被害の存在を否認する人たちの聖典とも言うべき、2006年に出た「チェルノブイリフォーラム」報告書の編者たちのうちの何人かが、福島事故後の放射線計測と健康影響予測との担当チームを組織したのだった。また別の«古株»たちは被災地を跋扈し、ベラルーシで破産したはずのエトス=コア方式を適用している。

チェルノブイリでの甚大な被害に光を当てることが、福島後の状況下で進行中の同様の被害に向き合う助けになればと、願う次第である。

2. 1986427日の状況と役者たち

プリピヤチからの退避が始まったのは27日で、爆発から36時間たっていたが、 放射性の霧塊の第一陣がスエーデンのフォルスマルク発電所に到達して、探査装置を作動させるよりは前であった。

1988426日に私はチェルノブイリにいた。その時の診療所長の説明によると、事故に先立つこと数年、アメリカによる«先制»核攻撃が懸念されていた時期に、練り上げられていたシナリオに基いて退避は行なわれた。核戦争を闘う部隊の兵員一人一人の被曝量を1Sv以下に抑えるという積りであったのだ。プリピヤチでの爆発直後の線量は平常の30万倍ほどに当たる、30 mSv/hほどにまで上がっていた。この数字は、事故を起した4号原子炉からほんの数十mの場所で、初日に«清算»作業をした人たちの推定被曝線量から確かめられる。それは3 Sv 以上(125 mSv/h 以上)であった。退避は必然となった。

世界がチェルノブイリ事故を始めて知った時には、プリピヤチは既に町としては死んでいた。

チェルノブイリ後の甚大な健康被害にICRPが果した決定的な役割を述べる前に、まずはこれをご覧いただきたい。

yvesw02195056年に国際連合の外郭で、放射線防護の諸機関がどういう国際的布置にあったかが、ここに示しておいた。この中で中心的な権威の役割を果していたのは、ICRPである。

階層的な図式に当て嵌っていることが、良く分る。

1)研究機関や大学などから発表される論文をUNSCEARが審査する。ここでの篩い落しに残ったものが、放射とその影響に関する«科学»の中身をなす。委員会の報告は国連総会にかけられ、総会はこれを承認して抗い難い権威を与えることになる。

2)この«権威を付された»基礎内容を拠り所として、

電離放射線と放射性物質による被曝に人が曝されるあらゆる部門にわたって、払うべき予防・注意措置

超えてはならない被曝線量の上限値

ICRPが勧告する。

3)これ以外の諸機関は、この勧告に基いて、規則や法的処置を定める。

1962年にICRPは勧告の適用を任務とする第4委員会を創設した。チェルノブイリ事故当時は、設立から1985年まで第4委員会の座長であったアンリ・ジャメが辞任し、替ってUKAEA 出身で、1959年以来委員会V(現在の第5委員会とは別)、次いで第4委員会でジャメの同僚だった、ジョン・ダンスタが座長になって間がなかった。ジャメは主幹委員会の副委員長に昇進して、委員長のアルゼンチン人、ダン・ベニンソンと並ぶことになった。ベニンソンは1962年から1981年までの間、第4委員会の一員だった。ジャメとベニンソンとはそれぞれ、UNSCEARで、ジャメは1964年以来、ベニンソンは1962年以来、自国を代表してもいた。ジャメはピエル・ペルランにバトンタッチする1993年まで、ずっと代表であり続けた。このペルランはICRPの第3委員会に1969年に登用され、その年にUNSCEARにも加わったのだが、第4委員会に在籍した1989年と1993年の間を除くと、1997年までずっと第3委員会の一員であり続けた。公式の図式に描かれているような一方通行の情報の流れは、こうした兼任の実態によって、否定される!

ICRP=UNSCEARという大家族の系図は知っておく価値がある

yvesw03長崎の原爆での« 黒い雨 »の降った地域内でのセシウム137の降下状況と、1986426日のヨーロッパでの降下状況とを突き合わせてみたのがこの図である。

チェルノブイリ事故の重篤性は想像を超えている。分りやすくするために、黒い雨の降った西山地区と同等の汚染になる、ロシアの2つの地区に跨る形で、比較対照の地域を設定してみた。長崎では45 km2 ほどが、最大で 30 kBq/m2程度の汚染である。一方、チェルノブイリでは汚染地域は1 000 000km2以上が、1 500 kBq/m2

を超えるまでの汚染になっている。

チェルノブイリでは、汚染の強い地域が、汚染のずっと少ない地域によって分断されていることに気付く。汚染の度合いのこのような差異は、降雨の役割をはっきり現すものである。しかし当たり前のことだが、雨が多かったか少なかったかにかかわらず、比較的近隣の地域では、より遠方で降雨が多量のセシウム137を地面に染み込ませた地域よりも、ずっと高い密度の放射能の雲が通過したのである。だから、近隣地域の住民たちは、そうした遠方の住民たちよりもずっと多くの放射性ヨウ素を吸引したのだ。ところが公機関に守られた疫学研究が病理学的な効果を説明する際には、土地の汚染線量を基盤にしている。それどころか、汚染地内にある線量の低い地域から、対照集団が取られたりさえしているのである。このような研究の結論を受け入れるわけにはいかない。 « 事故前 – 事故後 » の比較だったらこれよりは良いだろうが。

3. 甚大な危機の状況での、放射線防護への取り組みの2つの流儀

1986428日、クレムリンがチェルノブイリ4号炉の爆発があったことを認めざるをえなくなった後で、いったい何が起ったのか? さらに正確に言えばこうだ。害を既に受けた住民たち、受ける危険に曝されていた住民たち、そして害をこれから受けようとしていた人たちの運命を閉ざしたのは誰なのか?

さまざまな主導的行為の中から、2つを取り上げて比較しよう。ひとつは、ベラルーシの物理学者ヴァシーリ・ネステレンコによるものだが、彼は当時、ベラルーシの首都ミンスクに近いソスニの核研究センターで行われていた、移動式原子炉の構築を目指したPAMIRプロジェクトの責任者だった。もう一方はICRP副総裁であったアンリ・ジャメのもので、彼は委員会勧告の適用の歴史を体現する権威者であった。

yvesw04ネステレンコから始めよう。彼が事故を知ったのは28日で、クレムリンでソ連の閣僚会議(当時の最高執行機関)の軍産委員会に出席して、PAMIR の進捗状況を報告をしていた。現地との電話で得られる情報は混乱していて、19時の飛行機で彼はミンスクに飛んだ。いつもの運転手が空港に待っていたが、クルマには既に測定機器など必要なものが積み込まれていた。この42829日の夜中に、ミンスクから、発電所から40kmほどの、ブラヒンというウクライナ国境にある町まで往復する間に測定された空間ガンマ放射線をまとめたのが;この図である。ブラヒンでの測定値は正常なバックグラウンド値の3000倍ほどにあたる300 μSv/h に達していた。帰りに往きと同じ場所で測定していった数値は、往きよりもいっそう上っていた。ミンスクに戻ると、彼は研究責任者としての地位を通して動かせるだけの機関や人員を動員して、幾つもの緊急手段を取らせた。安定ヨウ素剤の配布、食品放射線量の測定管理、水浴禁止や屋外散策の制限などである。簡単に言えば彼は、原子力の仕事の責任ある地位の者ならば誰でも知っているはずの、放射線防護の基本原則を尊重してことを運ぶようにさせたのである。可能な限り多くの人が、放射線被曝を回避できるよう、一刻の遅れもなくことを進める、それが基本原則第1条である。

428日に、当時、ソ連側の放射線防護責任者であったレオニド・イリン教授と、最初に連絡を取った西側の人物の一人がアンリ・ジャメだ。ジャメにとってUNSCEARソ連代表のイリンは、そこでの同僚と言うより、ま新しいアルターエゴであったと言ってもよい。

56日にジャメは、コペンハーゲンでダン・ベニンソンを座長に開かれた最初の専門家会議に出席した。信頼できる証言によれば、「専門家グループは、雨水の使用を警告し、食品の放射線量を監視するよう勧告したが、住民の退避は提案されなかった」また、「事故後10日めの国際専門家会合は事故評価にも勧告にもたいへん控え目であった」….

では、このもっとも肝要な時点での、彼らの勧告の射程はどのようであったろうか。放射線防護の世界的権威は、物理学者ネステレンコが要求したのと同じようなさまざまな措置を勧告しただろうか。

彼らを裁くには恰好のものとして、内容の一致する2つの証言がある。

まず第1に、64日付ルモンド紙の医学欄がアンリ・ジャメ博士自身を情報源として、チェルノブイリ事故の被害を受けているヨーロッパ諸国の反応の« 協調性を取る » ための公式派遣団の機関を報じている。その中から、

ここでは彼の勧告に関する基本的な部分だけを取り上げる。

…..チェルノブイリ近くの村々の住民たち(約1000人)のうちで、風下にいた人たちは大量の放射性放出物の影響を受けている……。彼等は完璧な臨床検査を受けているし、医学的な監視の下に置かれることになるはずではあるが、こうして被曝したことが、健康上に何らかの結果をもたらす、ということを、今ここで、確信をもって言えるということではまったくない。

反対に、こうして害を受けた場所は、人が再びそこを訪れ、危険なく居住するに先立って、注意深い調査の対象となるべきであろう。….

ロシアの放射線環境学の専門家たちの決定を導くのは一つの«最適化原則»である。……

かなり遠方では、…..実際の放射能汚染が宣告がされうる。……この程度の汚染には……いかなる臨床的結果を伴うこともなく、したがって、何か特別の措置を必要としない」

ヨウ素131に対する子どもたち感受性を強調したUNSCEARの出版物や、甲状腺の被曝量は子どもの場合には1050mSv を超えてはいけないことが特記されている1965年の「ICRP 9 」に照らして、アンリ・ジャメがここに示しているような事態放置策には言葉もない。

ここで、« 臨床的結果» « 最適化原則 » という2つの表現を記憶しておいていただきたい。

ここでソ連に戻って、ヴァシーリ・ネステレンコが取った行動への反応がどうであったかを見ておこう。

429日の夕刻、ネステレンコはベラルーシ閣僚会議中央委員会総裁のミハイル・コヴァレフに面会していた。この委員会だけが、緊急事態宣言や人民強制避難を発令できるのである。ネステレンコが状況と取るべき手段を説明するのと並行して、隣室では保健大臣サフシェンカがレオニド・イリンに電話で、ネステレンコの提案を伝えていた。その前日にジャメ博士とそういう問題を議論済みだったイリンは、こう答えたのである。

「急ぐ必要はない。避難は適切でない」

ネステレンコの要求が適切だったことは、その直後、1986514日にベラルーシ共産党中央委員会にネステレンコが回付した恐るべき数値からも明らかである。

「ブラヒン、ホイニキ、ナロフリアの各地区での1986427日〜55日のガンマ放射のエネルギー水準は、50150Radに逹した模様である。…..甲状腺に吸収された線量の水準は501500Radの間にあるが、これは住民に対して定義されている、…..事故の際の最大値をすら、大幅に上回る。」

53日に、ホメリ州の査察に続いて、ネステレンコは、原発から30km圏とされていた避難区域を100km圏までに拡大するよう要求した。この提案は中央委員会に回付されて、57日の委員会で討議に掛けられた。

ダン・ベニンソンが座長を務めた国際会議の翌日に当たるその日、ヴァシーリ・ネステレンコは中央委員会の集まりから追放されたのだった。

ウクライナ閣僚会議議長のリアシュコも、広範な防護策を取った廉で、モスクワの大幹部たちの前で罵倒を受けている。

ICRP勧告が、レオニド・イリンという仲介者を経て、忠実に実行されたのである。

yvesw05写真は1970年代にICRPの会合の合間に撮られたジャメとベニンソンだ。

4. 国際組織の防護科学者の人脈

続く危機を通じて、それに対処すべき諸機関の最優先目標が、はっきり目に見える。であればこそ、突然でしかも未曾有のチェルノブイリ危機こそは、ICRPUNSCEARによって執行されている権力と、彼らの共同プロジェクトとの本質を、もっとも雄弁に暴露するものとなったのである。

このジャメとかベニンソンとかは、いったい何者であろう。彼らはどこから来たのか。どういう文化に浸って生きてきたのか。彼らの深部にある、何があっても譲れない選択肢は何だろうか。

彼らは防護学者の第3世代に属している。

1世代、パイオニアの世代は、1928727日のストックホルム会議で形成された。「X線とラジウムからの防護のための国際勧告」という最初の勧告が採択された会議である。放射線学者や放射線療法士の健康保持のためのものであった。この世代には、スエーデンの医療物理学者ロルフ・シヴァート(シーベルト1896-1966 )、そして放射線計測の専門家であったアメリカの物理学者ロリストン・テイラ(1902- 2004)という二人の著名人が含まれる 。二人はともに、ICRPの主幹委員会に、初めは委員として、その後は名誉委員として、前者は1964年まで、後者は2004年まで、休止なく座を占め続けた。

協調性と実効性を気にかけていたロリストン・テイラは、彼自身の言葉に従って言うと、グループの扱いやすさを保証するために、メンバーの数が増えないようにした。1947年には、原爆後の情勢の中で、テイラは、科学的な不確かさを一般の人たちの目の晒すと、世論による信頼が揺ぐことを恐れて、被曝限度を巡る討論を公表すべきだとする意見を葬り去っている。

2世代では、ICRPと、そして特にUNSCEARへの、マンハタン計画(アメリカの第2次大戦中の原爆開発)参加者たちのの流入が見られる。広島、長崎の存命者の研究にはオスティン・ブルス、シールズ・ウォレン、ジアキーノ・ファイラ、メリル・アイゼンブド、ジェイムズ・ニール、ジョン・ローリン、マクス・ツェレ、シャルル・デュナム、ポル・ヘンショなどが加わった。この人たちは総体として、1927年に放射線が突然変異を起こすことを発見したハーマン・マラをはじめとする遺伝学者たちの慎重な態度を攻撃した。この人たちにとっては、簡単に言えば、臨床結果が不在であるならば(今のところ発病していなければ)、被曝は無害で、予測できる健康上の影響もないと考えるべきであった。

X線とラジウムとへの秘教的信仰の中で育ち、原子爆弾の力に魅了されていた彼らは、原子力と放射性同位体の適用の中にこそ未来があると信じ込んでいた。ブレーキを掛けるなど、問題外であった。かくして、ハーマン・マラの拠り所ともなっていた、遺伝学者アルフレド・スターティヴェントによって19546月に公に表明された怖れに対して、USAEC の親玉ルイス・ストロスは真っ向から否認する議論を展開したが、その結論はこんな書き出しであった:

「根本的に言って、原子力が広く使われる世界へ人類を適合させていくという問題はたいへん真面目なものであって、だから我々は(遺伝学者一派のように)消滅しそうなほど僅かな確率的可能性について重大性を誇張するような真似はしないのである」

USAEC (米原子力委員会)の生物学と医学の部門の責任者であったオスティン・ブルスは、当時、ICRP委員会IIの一員で、また翌年にはUNSCEARの最初のアメリカ代表の一人にもなったが、「癌研究」誌に載った「科学における新なる感情論」という騒々しい論文の中で、しつこく念を押している。同じような物言いが何度も出るが、例えば、こんな文章だ:

「私は今、遺伝学者ではないが、私は医学校へ行ったし、ヒステリーの特徴的症状の一つは、視野の狭窄である……

ブルスは1946年には、トルーマン大統領に働きかけて広島にABCCを設立させた人々のうちの一人で、前にも挙げたジェイムズ・ニール、ポール・ヘンショウやシールヅ・ウォレンとともにその指導者の一人となった。

この50年代の中頃には、私が「臨床家」と読んでいる人たちが第一線に立ち、未来を準備していた。

3世代は、慎重な姿勢を貫こうとしていた遺伝学者たちがほぼ敗退したところに登場した。遺産相続人の世代である。ダン・ベニンソンとアンリ・ジャメはここに入る。2人はたいへん若くして、この名門家系に入り込んだ。

yvesw06放射性降下物を巡る世間での議論は喧騒を極めていた。原子力のイメージは不透明となった。それが彼らの一番の関心事であった。原子力の未来は、一般の人たちがその危険性をどう考えるか、放射能防護をどう考えるかに、かかっている。彼らにはそれが分っていた。彼らは、原子力への信頼を立て直すことを自らの任務としたのである。この役割に身も心も捧げ、自らの存在を投げうったのだ。

1930年生まれのベニンソンは、1954年にブエノス=アイレスで医学の学士号を取った。彼がその後2年間を過ごしたのはロレンス・リヴァモア研究所という、1940年設立で1941年にマンハタン計画に組み入れられた研究所内の、ドナー研究室(核医学生誕の地と言われている)である。博士号を手に入れ、アルゼンチン原子力委員会の要員となって、ついでにUNSCEARのアルゼンチン代表になっている。その時、彼は26歳であった。 1962にはUNSCEAR代表となり、2004年に亡くなるまで、その地位にあった。

1920年生まれのアンリ・ジャメはメード・インCEA(フランス国立の原子力研究所)の純粋培養品であって、 1951年に防護部門の責任者になっている。2年後にはICRPの新メンバーに指名されている。33歳であった。1958年には、UNSCEARのフランス代表に指名されている。

2人はともに、現在、特に福島で第一線に立っている第4世代の人々の人選に深く関係した。そうした一人が、引退間際とは言え影響力を失わずにいるアベル・フリオ・ゴンサレスだが、彼はベニンソンの直接の後継者で弟子でもある。

図では、こうした大指導者たちの間で、UNSCEARの役職とICRPの役職とを兼任する伝統が見て取れる。言うまでもなく、この人たちは皆、それ以外の数え切れない機関でも専門家とか顧問という形で役職に就いている。 特に国連関係で言えば、IAEAWHOでだ。

放射線防護の国際複合体内での世代間の遺産の引き継ぎに関して、イメージしていただけるようになったことと思う。

5. 198889惨状の実相と、新しい危機

1988年末から翌年頭にかけて、チェルノブイリでは健康状態の悪化が進んだ。子どもたちの具合はますます悪くなった。家畜も惨憺たる有様だった。人々の怒りも増した。ソ連政府も汚染マップの公表を余儀なくされた。ベニンソンとその同僚たちとが、事故以来、あらゆる講演や、また政策決定の場などで主張してきた、影響を最小限に見積った予測は、完全に信用を失墜した。

汚染した場所が豹の斑模様のように散らばった地域で、住民たちは移住を要求した。どうしたら良いのか? 前にも引用した信頼できる証言の続きを読めば、イリンやICRPの指導者たちが、どうやって問題を処理したのかが分かる。

「彼らは3年後にウィーンで彼らは、一生のスパンで計算した、地域住民に対して我慢させられる線量上限について、数値を上げる議論を非公式にしていた。彼らが閾値を定め、それを超える場合は移住させる必要がある、ということは了解された。L.イリンの提案している350 mSvという数値が受け入れられ、数日後には公表された」

この線量はICRPが勧告していた住民の被曝限度の5倍にあたる。ソ連での求心力低下の動きが、チェルノブイリの問題を巡って徹底して加速していった当時の流れの中で、数十万人の人々を危険に晒していることを覆い隠してきた嘘の数々を知って衝撃を受けた世論を前に、この基準を押し付けるには、自分たちはあまりに弱体だと、権力は感じていた。専門家たちが権威であり続けられるのも、正当性があると受け取られている限りでのことである。世論やメディアにとっていちばん目立つところにいるソ連の放射線防護担当者たちの権威は、地に墮ちていた。しかし、さらに多くの人たちを移住させるのは費用が嵩み過ぎるように思われた。何とかして、この新しい上限値を受け入れさせる必要があった。

そこで、WHOが呼び出され、この決定の正当性を人々に納得させることを職務とした、最上級の専門家たちの派遣団の任命を任される。WHOには放射線の専門的な知見などはほとんど皆無だが、しかしICRPという馴染のない名と違って、WHOのもつイメージならば人は安心する。派遣団にはダン・ベニンソン委員長と、第3委員会のピエル・ペルランというICRPのメンバー2人が含まれていた。旗持役は「WHO事務局放射線防護グループ長」というパッとしない役職の、ピータ・ウェイトというカナダ人だった。19897月のことである。

1990415日に私はミンスクでミハイル・ゲマスタイエフという物理学者と出会った。彼はある公開の講演会で、350 mSv についてベニンソンに質問をぶつけた。この基準に異を唱える質問者に向かって、ベニンソンはこう言った。

「あなた方には金がないじゃないですか。ということはつまり、避難はさせられません。だからつまり、問題なんてどこにもないということです」

こうした物言いに、いかがわしいところなどまったくない。1973年にICRPの「出版物22号」で提示され、4年の後に「ICRP勧告」と題された大部の「出版物26号」に包摂された、「最適化原則」の精神と文言を守ったものなのである。

では、勧告適用の哲学の、2つの言葉にについて論じることにしよう。

6. 「できる限り低く」と「最適化原則」

1974417日にアンリ・ジャメ博士は、放射線廃棄物管理の技術的選択肢を査定する省庁連合会議で、講演した。私も会場にいた。その日に、放射線防護の一番の問題は経済性だということが、私にはよく分かった。ジャメは、この図に示した図式を使いながら、発表の全体を、前年に発表していた「最適化原則」の説明に費した。

yvesw07副作用を伴う一つの行為を扱った、ありきたりの経済学的最適化曲線が提示されている。これは本物の « 費用対利益分析 » ではない。本物ならば、« 利益 » の縦軸に、同じ線上の « 被曝 » の縦軸の数字と向き合わせて数字を入れるはずだが、そうではなくて、より良い放射線防護のための付加費用と避け得る被害とが釣り合うように被曝の値を決めようというのである。

ベニンソンの応答をどう解釈すればよいだろうか。

より多くの人たちを避難させるには、多額の出費が必要で、それも猶予なく借入金によって賄う必要があるとされた。あてにできる利益は、3つの理由から、仮想的なものに留まるとされた。第1に、利益は何年、あるいは何十年もの後になってからのごく僅かな健康出費額分に相当するのだとされた。第2に、避け得る支出については、数値化不可能とされた。第3に、支出が避けられたからと言って、それで借入金が返せるわけではない、というようなことであった。

この「最適化原則」はどういう必要に対応しているのか。

as low as… 」の知的轍から抜け出す必要にである! この轍の最新版は、ICRPの「出版物26号」で定式化されている « ALARA (As low as reasonnably achievable合理的に達成可能な限り低く)の原則 » だ。さまざまに形を変える、一連の「as low as… 」は、1954年のICRPの「出版物1号」から既に始まっている。 医療分野で推奨されていた“lowest possible”(できる限り低く) が、ここで“as low as practicable”(実行可能な限り低く)に席を譲り、さらに1959年には、ほとんど同じ意味の “as low as is operationnaly possible”に変わった。難点は明白だ。拘束力のない形だけの規則なのである。1965年に「出版物9号」が明確化を行なった:「線量はすべて、経済的、社会的な影響を考慮に入れた上で、as low as is readily achievable (速やかに達成可能な限り低く)抑えなければならない」ということで、つまりはどういう状態であれ正当化される。「速やかに」とは、つまりは「楽に」ということだ。2001年にはALARAからALARPへの移行が議論された。PPraticable(実行可能)である。これは立ち消えになったらしい。ICRPは“as low as…” の哲学的袋小路に、迷い込んだままだ。

「最適化原則」には、ものごとを数値化さえすれば、どんな批判に対しても予め備えておけるという、知的快適性がまことに備わっている。一例ごと、実情に合わせれば良いのだ。最適化された防護mesuresの計算例は、「出版物37号・第4委員会」(1983)の中に幾つか提示されている。そうしたうちの「放射性産物廃棄に関する最適化の一手法の例」という題名一つで、批判者たちのうちのもっとも困難を厭わない者さえ、口を閉ざすということであろうか、何しろ、そこには計算に使用された(変数だの、機能係数だの、媒介変数だのといった)シンボルの一覧だけでも4ページもあるのだ。

yvesw08「最適化原則」の適用は、1976年にアンリ・ジャメの主導で創設されたCEPN(核の分野での防護査定研究中枢)の商売の中身そのものだ。CEPNのメンバーはたった4社で、フランス原子力局、フランス電力、放射線防護原子力安全研究所、AREVA社である。石綿など、放射線以外の危険分野にも、商売を拡げている。2000年代の初め頃から、ICRPCEPNに従属するようになり、自分たちではできない高度な数学計算はこの組織が頼みである。1979年以来この組織の頭脳である経済学者のジャク・ロシャルが、今ではICRPの副代表であり、彼のチームが、放射能への恐怖をモデル化する理論を携えたティエリ・シュネデルという数学者とともに、また福島エートスにも依りながら、「ICRP福島対話イニシアティブ」なるものを推進している。ジャメはここでも、遺業としてではあれ、新なる戦略的成功を収めた。CEPNICRPに包摂され、逆にICRPCEPN……

放射線防護は科学のような顔をしているが、科学ではない。荒天のただ中での舵切りである。ネステレンコは人々を護るためにできる限りのことをした。ジャメとベニンソンは、彼らの「最適化原則」を実現しようとさえ努めなかった。彼らは結局、原子力産業の将来を保全する目的に沿って、「最適化原則」を適用しただけのことである。

yvesw097. ただただ否認し続けるだけ : 原子力様の仰せの通りに!

「チェルノブイリ・フォーラム」報告書出版に先立ち、UNSCEARIAEAから幾つものコミュニケが出され、19869月のウィーン報告会議での予測と、事故の実際の帰結とが、よく一致していることを強調していた。つまり専門家たちは、自分たちの論文の中ではまったく想定しなかった状況に関して、その帰結を数値化して示す手段を1986年には手にしていたというのである!

疫学的調査結果のこの報告では、健康被害はほとんど存在しないと断言されているのだが、調査結果の中身そのものはそうなってはいない。しかし、こうした裂け目の記述に入り込むことはすまい。至高の権威が現実原則を退けているようなところで、闘いに参入しても無益である。この権威を裁くことが許されている審級などないのだ。

「臨床的結果は皆無…….」と、ICRP副委員長で、世界でもっとも原子力化されている国のUNSCEAR代表であった人物が、19866月初頭に予言しているのである。ベニンソン、イリンその他、ジャメの仲間たちはこの帆船に乗り込み、2つある船首の一方から他方へと絶えず行ったり来たりの乗り移りを続けてきた。目指す岬は50年代以来変わりがない:原子力の発展である。

チェルノブイリによって何千という数の科学論文が書かれることになったが、UNSCEARがその選り分けをした。

今、一瞬だけ、想像してみよう、委員会のただ中で、いとも長い年月、考えを共有し、論文を共著してきた仲間たち知人たちの居並ぶ中で、一大勢力が急に立ち現れて、ICRPの中枢にいる同僚たちのうちでもっとも影響力のある者たちの、チェルノブイリの甚大な健康被害を生み出す過程における責任を問うような仕事を維持していく、というようなことがあるかどうか。そうなれば、ICRP側の船首とUNSCEAR側の船首との間で魚雷を打ち込み合うようなものだろうか…….そして小舟は沈みかけるであろうか。

実際にそんなことがあったと仮定してみよう。国際的な放射線防護は乗組員もろとも沈んでいたことだろう。政治エリートやオピニオンリーダたちが掲げてきた原子力の有用性や無害性への信頼は、決定的に馬鹿にされることになろう。産業発展モデルの支柱が一つ、崩れ落ちることになろう。EPR欧州加圧水型炉)よ、高速増殖炉よ、核融合よ、さようならだ! チェルノブイリどころではない惨事ではないか!

しかし、国際原子力村には、見渡したところゴルバチョフはいないようだ。創業の父たちは、事業の行く末に熟考を払っていた。彼らの創造物はチェルノブイリの試練を乗り超えただけでなく、それを通じていっそう強くなりさえした。福島危機の運営がその証左である。

彼らは劫を背負った。存在し続けるには、一丸となって真実を否認し続ける以外にないのである。「原子力様の仰せの通りに!」

IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医が「IPPNWのUNSCEAR報告書の批判的分析」について説明:”Nuclear Hotseat” ポッドキャストから…(2)


グローガー理恵

6. UNSCEARは非がん疾病および遺伝的影響を無視している

LH:(30:28)  これは、IPPNWがUNSCEASRに対して申し立てた異論表の中で、私にとっては大変に印象深い点だったのですが、非がん疾病と遺伝的影響がUNSCEARによって無視されているということですね。

AR: そうなのです。これは、また別の大きなイシューなのです。長年の間、私たちは、放射線、電離放射線が、「がん」だけでなく、例えば、心臓血管系疾患、緑内障、心理的/神経的影響、内分泌系疾患、甲状腺疾患などのような非がん疾病も誘発するということを知っているのです。

私たちは、これら全てのことを、広島や長崎の犠牲者達や、また、チェルノブイリのリクビダートル(爆発の後に事故処理のために現場へ送り出された人々)からも認識しているのです。そして、このことはUNSCEARによって完全に無視されました。彼らは、あたかも、それを証する科学的証拠が存在しないかのように振る舞っています。しかし、例えば、広島や長崎で低線量被曝をした人々の中に心臓血管系疾患や甲状腺疾患が発生したという放射線による顕著な影響を明らかにしている、多数のスタディーが存在しているのです。

そして、同じことが、例えば、私が前に言及しましたティム・ムソーによる動物の研究調査のような、将来世代における何世代にも及ぶ影響や遺伝的影響に当て嵌まるのです。そればかりでなく、英国の核作業員の子供たちにおける白血病罹患率の増加ー 子供たちの親が放射線被曝した場合ー も同様のことなのです。したがって、これらの影響/結果は簡単に言い逃れができるようなことではないのです。しかし、この事実はUNSCEARによって簡単に無視されました。

7. 核フォールアウトと自然放射線の比較は誤解を招く

LH:(32:13) さらにIPPNWの分析によりますと、UNSCEARは、核フォールアウトと自然放射線とを比較することで誤解を招くようなことをやったということですが…。

AR: これは、UNSCEARや他の機関/組織が度々やっていることなのです。彼らは、「やあ、私たちは、年間1ミリシーベルトか2ミリシーベルトの追加放射線量について議論してるだけのことだから、これが実際に有害だなんてことはあり得ないよ。だって、自然バックグラウンド放射線なんていうのは、もうすでに年間で2ミリシーベルトになるんだから。」と言っているのです。

ここが、彼らの誤っているところなのです。明らかに、自然バックグラウンド放射線というものは、私たちが完全に避けられることができないものです。そして、世界にはバックグラウンド放射線量が他の地域よりも高かったり低かったりする地域があるのです。しかし、研究調査が再三再四、明らかにしていることは、線量が高い地域では実際に、より多くのがん発症があり、線量が低い地域における人々のがん罹患率はもっと低いのです。

そして、地殻内の放射性物質が多い環境に住んでいるために、より多量のラドンガスに晒されている人々における発がん率はより高く、飛行機で旅することが多い人達、大西洋横断飛行は宇宙放射線に照射される度合いが増えますが、このような人達における発がん率は高くなります。より高いレベルの地殻放射線に晒されている人達においても、がん発症率がより高くなります。なぜなら、がん、または、発がんするリスクと被曝線量の相関関係は直線的であり閾値なしの直線で、それはゼロまでに下がります。低い放射線量でさえも、かなりの、がん発症のリスク上昇をもたらすのです。そして、彼らが人々に伝えようとしているような、ある境界値以下だったら安全であると言えるような閾値なんてないのです。

フクシマのフォールアウトのために、年間たったの1ミリシーベルトか2ミリシーベルトの被曝線量を浴びるのだとしたら、あなたは心配することは何もありません、というのは真実ではありません。これは、ある人が、「いいかい。君が一日に一本のタバコを吸っているだけのことじゃないか。それはみんながやっていることだよ。だから心配することなんてないよ」と、言っているようなものです。

でも、健康な生活を営みたい人達、放射線に晒されたくない人達、発がん率の上昇を望まない人達、ー 彼らは、健康で核フォールアウトによる放射能汚染のない環境に住む権利を持つべきです。これは人為的なものであり、防ぐのが可能なことなのです。フォールアウトが起こったために、もうそれを防ぐことができない地域に居る人々には汚染区域を離れて別の場所へ移る選択が与えられるべきです。ーでも、そのようなことは、起こっていないのです。

8. UNSCEARのデータ解釈には疑問がある

LH:(34:32) 次の結論はナンバー8です。私は、これは、見事で控えめな表現だと思うのですが、IPPNWが

UNSCEARのデータ解釈は疑わしいと述べていることです。

AR: はい。 私たちがここで、意味していることは: それは、単に、データと仮定についての基本的な算定に関するだけのことではないし、また単に、彼らの算定の方法に関するだけのことでもない。しかし、最終的には、結論を引き出すことであり、結論として、「オーケー。これで、我々は(UNSCEARは)、何人の死亡者、もしくは、何件のがん症例数が予測されるのかを推算することができる」と、述べることができるのではないだろうか、という意味です。

しかし、UNSCEARはそういったことをしていないのです。彼らは自分達が出したデータについて真剣に考察していないのです。そうです。私たちの言っていることは、両天秤策のようなものです。一方で、私たちはUNSCEARがシステマティックに過小評価していると批判し、他方では、UNSCEARは少なくとも、自分達の手中にあるデータを利用して、それらを、人々が理解できるような方法で解明するようにせよ、と求めているのですから。

これが、住民が晒される集団線量であると人々に告げたところで、それが大いに役立つとは言えません。なぜなら、集団線量の数値をもらったところで、人々は実際、何もすることができないのです。しかし、公にアクセスが可能であるリスク係数を実際に用いて、健康影響はどうであるか、何件のがん症例数またはがん死亡をもたらすかを算定するのです。そうすれば、人々に、実際に何が予測できるのかということを教示することができます。同時に、私たちが前述しましたような要因が理由となって、おそらく、これらの予測や評価はやはり過小評価になるものと、私たちは述べなければなりません。

9. 政府によってとられた防護措置が誤って伝えられている

LH:(36:07) もうひとつ持ち出された批判というのが、政府によって為された防護措置が誤って伝えられているということですが…..。

AR: そうです。UNSCEARは報告書の中で、「もし政府が、あれだけよく住民を防護していなかったのなら、住民の被曝線量はもっと高くなっていたであろう」と言及しているのです。

日本の住民がもっと高い放射線量に晒されたかもしれないということは、明らかに事実ですが、私たちは、日本政府の素晴らしいクリーンアップの努力とか素晴らしい防護への努力とか言って、喝采を送る気にはなれないのです。なぜなら、福島で実際に何が起こったのかと言えばーこれは私たちの意見ではないのです、これは日本の国会事故調によって言明されたことなのです: 「住民を実際には守るべきであったはずの危機管理体制がまったく機能しなかった。完全なる大混乱の中で、住民は何をしてよいものか分からず、手元には何のプランもなく、首相は完全に不意打ちを喰わされた状態であった。例えば、彼は、住民に放射線の拡散状況を知らせることができたはずである、緊急時環境線量情報予測システム(Speedi)の存在を知らなかった。それどころか、ある人々は低線量の区域から高線量の区域に避難させられた。なぜなら政府の上層部において誰一人として、このシステムが存在することを知らなかったからである。」

私たちは皆、安定ヨウ素剤が、核災害によって放出された放射性ヨウ素が甲状腺へと入り込み、甲状腺がんを誘発するのを防ぐことができることを知っているのです。しかし、日本では、集団パニックを防ぐために、ヨウ素剤は住民に配布されませんでした。ですから、災害への緊急対応や避難、避難範囲やクリーンアップの取り組みに関してたくさんの問題があるのに、「全てが完璧でうまくいった。そうでなかったら災害はもっと大変なものになっていたのだ」と、実際に述べるのは、まったく有益なことではありません。

「緊急対応が如何に酷かったのか、何をもっと適切に為すことができたのか」との国会事故調の批判に、私たちも加わるということは、この時点で、まさに適切なことだと感じています。なぜなら、私たちは、50以上もの原子力サイトがあり地震多発国である日本において、核事故はいつでも起こり得る可能性があるという問題について論じているからです。それは一度起こったことなのだから、もう二度と起こるようなことはない、というようなことではないのです。私たちは、チェルノブイリから、フクシマから、ハリスバーグ(スリーマイル島原発事故)から、核災害というはいつでも、どの国でも起こり得るのだということを知っているのです。住民のための安全対策と公衆安全を改善するために、「今回は、全てがうまくいった」と、単に述べるだけのことでは何の役にも立ちません。なぜなら、そうでは、なかったのですから。

そして、明らかに、もっと酷いことになっていたかもしれないのです。そうです。日本は、言わばラッキーだったのです。風が東方に向かって吹いていたために、放射能の80%以上が海の方へと吹かれていったことで、日本の人達はラッキーだったのです。もし風が、たったの一日でも南方向へ吹いたのだとしたら、首都東京は放射性フォールアウトを被っていたことでしょう。これは、それが、どんなことをもたらしたのであろうかと想像したくもないようなことなのです。しかし、実際において、一日だけ風が北西方向に吹いたということが、今、私たちが見ているような、放射性フォールアウトの影響を受けた都市やコミュニティーにおいて、ほとんどの問題を引き起こしているのです。そうです。ある意味で、この核大災害はもっと酷いことになっていたかもしれないと言えます。

10. 集団線量推計値からの結論が提示されていない

LH: (39:27) 最後のポイントは、集団線量推定値からの結論が提示されていないということですが……。

AR: はい。私が言いましたように、UNSCEAR報告書は集団線量推定値について言及しています。これは、UNSCEARは、今後何十年間の間に、日本国民が「何人・シーベルト」に晒されるのかということを述べているわけですが、彼らは、それが人々にとって、どんなことを意味するのか、実際に述べていないのです。例を挙げてみますと: UNSCEARは、日本全国の生涯線量の集団積算線量が【48,000人・シーベルト】になると述べています。合計集団線量(生涯線量の集団積算線量)とは、フクシマ核事故のために被曝した日本における全ての人の生涯における、一人当たりの個人被曝線量の全てを加算したものです。これが【48,000人・シーベルト】なのです。

そして、国際的に認められているリスク係数を使って、これを計算しますと、日本におけるがん過剰症例数が4,000件 から16,000件になるとの結果が出ます。これは、すでに説明しましたように、過小評価されたものをベースにしているのです。

したがって、もし、実際に正しいデータおよび正しい仮定を用いるのだとしたら、この数値は、おそらく、もっとはるかに高いものとなるでしょう。しかし、UNSCEARが表示し算定している数値だけを用いるのだとしたら、4,000件から6,000件のがん症例の過剰発生、2,000件から9,000件のがん死の過剰発生を論じていることになります。

すなわち、もし、フクシマ核災害がなかったら、がんを発病しなかったであろうという人々が、フクシマ核災害が誘因となってがんを発病する、そういった人々の数が16,000人になるであろうということです。また、化学療法、手術もしくは放射線治療を受けて生き延びる人々は多数いるけれども、フクシマ核災害によって誘発されたがんのために死ぬ人々が9,000人もしくは9,000人以上ちょっとになるであろうということになります。このことは、人々に知らされなければならない事柄です。

これは、認めなくてはならないことであり、「いいかい、聞いてくれたまえ。フクシマは大惨事だったのだ。だから、こういった結果を誘発することになるのだ」と、言わねばなりません。そして、私たちができることは、ー ①実際に食物の放射能汚染を厳しくコントロールすること、②人々を、特に若年世帯と子供たちを放射能汚染地域から移住させること、③彼らが放射能汚染区域を離れるために、私たちができる、ありとあらゆる全ての支援を提供すること、④がんや他の疾病を早期発見して、より良い治療が施されるために充てられた健康管理と健康診断を提供することー によって、この数値を低減させるように試みることです。

しかし、これに関しては、ほとんど何も起こっていません。人々は、経済的要因のため、放射能汚染された地域へ帰還することを奨励されている、これが事実なのです。彼らは、これらの地域が空になってほしくないのです。彼らは、この核災害が起こったことを忘れたいのです。彼らは、人々が何事もなかったが如く、いつものように生活し続けていってほしいのです。彼らは、これから何十年間の間に核災害による健康影響が生じることを認めたくないのです。彼らは、人々が、健康被害に苦しむであろうということを認めたくないのです。私が、ここで「彼ら」と呼んでいるのは、核エネルギーからお金を受け取っている、核エネルギーの陰に潜む原子力ムラの政治家たち、核エネルギーを支持する会社、国家の規制機関を指しているのです。

「彼ら」の全てが、この大惨事を隠蔽しており、UNSCEARもこの動きの一部なのです。UNSCEARは「彼ら」を援助しています。 私たちは、科学者として医師として、このことを、すなわち、UNの組織体が実際にこの大惨事を隠蔽して取り繕っていることが、容認できないのです。

ーIPPNWによるUNSCEAR報告書の破滅的分析ー

LH:(42:44) これは、UNSCEARおよび彼らの報告書の破滅的分析ですね。あなたの評価では、UNSCEARによるこのような振る舞いは、意見の相違や彼らが用いているデータの別の解釈から来ているのことなのでしょうか、それとも、核産業を守るためのUNSCEARによる虚言やプロパガンダが多少あるのでしょうか?

AR: これは取り組む上で、とても困難なイシューだと思います。まず、UNSCEARはUNの組織体なのであるということを分からなければなりません。そして、UNの組織体として、UNの加盟国が派遣団員や代表者を、この組織体に派遣しているのです。ここで問われることは:「どの国が代表者を派遣しているのか?」ということです。それは、原子力国家です。それは米国であり、カナダであり、ドイツであり、日本であり、インドで…..あるのです。

これらの国は核エネルギーを保有しており、核プログラムを持てる能力があるのです。そして、明らかに、これらの国には、核エネルギーおよび核能力を保持していく上での既得権益があります。したがって、彼らは、核プログラムから直接出てきた科学者や、これらの核プログラムの中で育て上げられた科学者をUNSCEARに派遣しているのです。それらの科学者の中には、IAEAで専門家として働いてきた経歴のある科学者もいますし、核燃料企業で働いてきた科学者もいます。

ですから、これらの人達が核エネルギーに批判的であるとは言えません。核エネルギーや電離放射線による健康被害に関する批判的論文を発表した何れの科学者もUNSCEARに入るのを認められたことがありません。UNSCEARは、原子力国家の権益を代表する科学者達のクラブなのです。このことに人々は気づかなければなりません。UNSCEARは、独立した研究組織体ではありませんし、一方では、批判的な科学者で成り立っている組織体ではなく、他方では、核を支持する科学者で成り立っている組織体なのです。

UNSCEARは全くの核支持派です。UNSCEARのメンバーには、自分達の国で、一生涯、核産業のために働いてきた科学者達がいます。また、UNSCEARの報告書に引用されている科学者にも、やはり自分達の国で、一生涯、核産業のために働いてきた人達がいるのです。ですから、私は、彼らが虚言していて、プロパガンダをやっているとまでは言いません。しかし、彼らの思考は集団思考であり、彼らは非常に核支持派である組織からの出身者なのです。

彼らは決して異なった見解などを耳にしたことがないのです。そして、彼らは、全く逃れることが不可能であるような特定の意見/判断の偏りを持っているのです。科学において、真の科学において必要なことは、科学者それぞれが様々の異なった意見を持っていて、種々の異なった分野からの科学者達がお互いに論議しあい、実際に、各々の仮説を査定して、それぞれの見解をお互いに評価し合うことです。そうすれば、そこから最終的に出されるものが、可能な限り、真実に近い結論となるのです。ですから、私は、UNSCEARが故意に虚言しているとかプロパガンダを用いているのだとは言いません。しかし、私が言わなければならないことは、UNSCEARの情報と論文は、そのために、誰が勘定を支払っているのか、また勘定支払人はどこから来ているのかを明らかに示しているということです。

ーIPPNWの批判的分析は、メディア、政府、UNSCEARによってどのように受けとめられたか?ー

LH: (45:41) IPPNWの批判的分析はメディアによってどのように受けとめられたのでしょうか?それに対する政府からの反応はありましたか?UNSCEARはIPPNWによる批判的分析の存在を認め、それに対して応答してきたのでしょうか?

AR:  大変に興味深い質問です。私たちは、この批判的分析を公表する前にUNSCEARから連絡を受けました。去年の10月、UNSCEARは、彼らの報告書の一種のエグゼクティヴ・サマリー、ティーザーと言うかプレビューのような類のものを国連総会で公表したのです。それで私たちは、そのプレビューを読んでから、即座にUNSCEARに返答を出して、彼らに告げました。:「さて、聞いてください。私たちは、あなた方のエグゼクティヴ・サマリーを通読したのですが、私たちには、これらの点、イシューに問題があるのです。これらの点を、私たちは批判的に見ているのですが、あなた方は、私たちと意見交換をしたくありませんか?」

そこで彼らが何をしたかと言いますと、実際に、彼らは私たちの言い分を幾らか受け入れたのです。今、私たちは、彼らの最終報告に、幾つかの私たちの表現や言い分を見つけています。しかし結論は、そのまま、以前と同様です。

私たちがUNSCEARに宛てた最初の文書の中で、私たちは、彼らを、こう批判しました。: 彼らは象牙の塔に座っていて、実際に、遠方の他国に住む人々の一人一人が持つ苦悩や個人個人の状況を検討することなしに、これらの人々についての判決を下している。そして、ただ、「心配することはないですよ。全て、大丈夫になるでしょう」と言っているが、実際に福島に行って、そこの人々と話をして、彼らがどのような状況/気持ちでいるのかを尋ねることもしないでいる。

それで、UNSCEARの最終報告書で彼らが述べている結論は同じです。ー「全て、大丈夫になるでしょう」ーでも彼らは、そこに「被災者達が苦しんでいることを認識し、現地の人々の一人一人のストーリーに気を配ることは、明らかに非常に重要なことである」との文章を付け加えているのです。

ですから、私たちは、ある意味では、彼らが応答してきており、私たちの批判をいくらかは取り上げたのですが、彼らの結論においては何も変わっていなかった、と見ています。私たちは、何れにせよ、そのようなことを期待してはいません。また、UNSCEARの組織を弱めるようなインパクトを与えるようなことも期待していません。なぜなら、明らかに、彼らは、批判的思考もしくは、核エネルギーに関する批判点を許さないようなバックグラウンドから来た人達なのですから。

彼らがお金を儲け、このような地位に収まって、UN組織体の中で世界中のあちらこちらを飛び回っていられるのは、彼らが核エネルギーに批判的であるからではなく、彼らが、政府に、こう言ってほしいと頼まれたことを言っているからなのです。

私たちの論文に対するメディアの反応に関してですが: 2つの大きな記者会見がありました。ひとつはニューヨークの国連の前でヒューマン・ライツ・ナウと一緒にした記者会見と、もう一つはベルリンでの記者会見でした。

両方ともかなりよい参加者数でした。私たちの所見に関しての、テレビ出演もありました、新聞記事にもなりました、ラジオでも放送されました。

全体的にみれば、これは、とても科学的で特定なテーマですので、メインストリームメディアには余り受けません。でも、それが私たちの意図ではないのです。私は、今後何年もの間、UNSCEAR報告書が言及され引き合いに出されることになり、人々は常に、「そうだね。UNSCEAR報告者は、ああ述べているよ。こう述べているよ」と言うことになるだろうと考えています。

私たちの意図は、人々にUNSCEARとは別の見解を提供したいということだけなのです。私たちは、「そう…UNSCEAR報告書ではそう述べられているかもしれないけれど、UNSCEAR報告書に書かれていることが実際に真実なのか、私たちの批判と疑問について読んでくれませんか」と言いたいのです。私たちは、私たちが真実を自分達の掌中に握っているのだとは思っていません。IPPNWの組織は余りにも小さすぎますし、日本における何十万人という人達を対象にして、実際に、これらの人々にどのような影響が及ぼされたのかを突き止めていくための非常に大規模な研究調査を行うには、私たちのリソースは余りにも限られています。

しかし、私たちが科学者および医者として、また人間としてできることは、批判的な疑問を提示して問うていくことです。: 「これは本当に信じられることだろうか?これが本当に真実なのだろうか?」と。そして、この私たちの「問い」を理解してくれたジャーナリスト達は、私達が、- ①自分達の患者を、とにかく守りたいと試みている、②公衆衛生に害をもたらしている産業ロビーに立ち向かおうと試みている、③放射能汚染のない健康な世界を促進している、 – 医者達なのである、ということに気づいてくれたのだと、私は考えます。そして、彼らは正しく理解してくれており、私たちのメッセージを広めてくれるものと、思うのです。

私たちは、これから何年か何十年か後に、人々がUNSCEAR報告書を考察するとき、IPPNWによる批判的分析も見つけてくれ、その結果、彼らが、UNSCEARの調査結果について、より批判的で偏らない見解を、おそらく、持ってくれるであろうということを望んでいます。

ー どのようにすれば、この重要な分析に国際的注目が向けられるようになるか? ー

LH:(49:49) この重要な分析に国際的注目が向けられるように援助するために、私たちは何をすることができるでしょうか?

AR: そうですね。 今、私たちは、このIPPNWの批判分析を、この10月に催される国連総会で、UNSCEAR報告書を再検討することになっている様々な国連代表団に、実際に届けようと試みています。

個人、ブロガー、ジャーナリスト、このテーマに関わっている全ての人ができることは、この情報を広め、こう述べることです: 「そう。これがUNSCEAR報告書です。読んでごらんなさい。いろんな情報を見つけることができます。それから、これがIPPNWによるUNSCEAR報告書の批判的分析です。これは、UNSCEAR報告書の限界や問題点がどこにあるのかをよく理解するために役に立ちますよ。」

例えば、あなたの(Libbeさんの)ショーやブログ、Wikipedia記事のようなニュース・アウトレットを通じて、誰かが、この情報をもっと広く知らせることができれば、ですね。ー 私は、この情報が人々に届くことがとても重要だと思います。

この情報をもっと広く知らせることができる人とは、自分のクラス・プロジェクトのための調査をしている学生になるかもしれません。自分達の生徒に何を教えていこうかと探索している先生になるかもしれません。政策を形付けるために調査している政治家たちや彼らの助力者かもしれません。バックグラウンド調査をしているジャーナリストになるかもしれません。または、原子力発電所に近接したところに住んでいて、フクシマで何が起こったのかを知りたいと願っている一般大衆かもしれません。

これら全ての人々は、企業・産業、ロビー団体の利害関係、強力なロビー団体によって色づけされていない、そして、フクシマ・フォールアウトの結果として電離放射線がもたらす健康影響について、実際に理解しようとの意図を持った医師達や科学者達によって注釈された、「UNSCEAR報告書に対する科学的で偏りのない取り組み方」から学び、利することになるでしょう。

LH: 以上はアレックス・ローゼン、ベルリンからの電話でした。彼はドイツ人の小児科医、IPPNWドイツ支部副議長、IPPNW理事会の前副会長です。彼が言及していたUNSCEAR報告書の批判的分析は英語、独訳、和訳があります。

以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2779 :140927〕

IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医が「IPPNWのUNSCEAR報告書の批判的分析」について説明:”Nuclear Hotseat” ポッドキャストから…(1)


グローガー理恵

Nuclear Hotseat ポッドキャストは、スリーマイル島原子力発電事故を体験し生き延びた女性、リベ・ハレヴィー(Libbe HaLevy)氏によって営まれているポッドキャスト・ステーションです。彼女の番組のメイン・イシューは核問題であり、彼女は核問題に関わる人達や核エ キスパートを番組に招待しインタビューしています。そして、7月22日、ハレヴィー氏はIPPNWのアレックス・ローゼン医師をインタビューし、6月6日 に公表された「IPPNWのUNSCEAR報告書の批判的分析」に関して様々な興味深い事柄を質問しています。

アレックス・ローゼン先生は、それに答えて、科学的/医学的な論文である「UNSCEARフクシマ報告書に対する批判的分析」を、できるだけ解りやすいように説明して下さっています。

Nuclear Hotseat Podcastによる放送、アレックス・ローゼンとのインタビュー(英語)へのリンクです:

ー 6月6日に公表されたIPPNWによるUNSCEARフクシマ報告書の批判的分析*の中で、IPPNWは「UNSCEARによる仮定とデータ は、計画的且つ意図的な過小評価であると見なされなければならない」と批判し、その理由として次の10点を挙げています; Podcastでは、HaLevy氏がAlex Rosen医師に、これらの主要点について、一つずつ取りあげながら質問していきます。:

1 UNSCEARのフクシマ報告書のソースターム推定値の妥当性に疑問を持つ
2 UNSCEARの内部被曝線量の算定に関して深刻な懸念がある
3 フクシマ作業員達の線量評価は信頼できない
4 UNSCEAR報告書は、放射性降下物による人間以外の生物相への影響を無視している
5 胎芽/胎児の放射線に対する特別な敏感性/脆弱性が考慮されていない
6 UNSCEARは非がん疾病および遺伝的影響を無視している
7 核フォールアウトと自然放射線の比較は誤解を招く
8 UNSCEARのデータ解釈には疑問がある
9 政府によってとられた防護措置が誤って伝えられている
10 集団線量推計値からの結論が提示されていない

《(注):*IPPNWによるUNSCEAR報告書の批判的分析の和訳は下のリンクに掲載されています:
https://docs.google.com/file/d/0B9SfbxMt2FYxYV9QZERZRXppaTA/edit?pli=1》

Nuclear Hotseat Podcastから:アレックス・ローゼン医師にIPPNWのUNSCEAR報告書の批判的分析について訊く

(日本語訳:グローガー理恵)

-IPPNWのUNSCEARに対するスタンスについてー

Libbe HaLevy(以下LHと省略): (14:20) UNSCEARに対する、IPPNWの従来の関係やスタンスは、どういったものですか?

Alex Rosen (以下ARと省略 ): UNSCEAR、国連放射線影響科学委員会は、核エネルギーや特にチェルノブイリ核大災害に対する彼らのスタンスを、IPPNWだけでなく、世界中の医師 達や科学者達によって、広く批判されてきています。そして、UNSCEARが、フクシマについて発表したステートメントやプレス・リリースを見れば、また もや、歴史、同じストーリーが繰り返されていることが分かります。私たちは、UNSCEAR報告が、現地で実際に何が起っているかということを明確に示し ているものではないと考えているのです。

IPPNWドイツは、チェルノブイリ以来ずっと、取り繕って核大災害の事実を隠蔽してきているUNSCEARのスタンスを批判しつづけてきました。 現在、私たちは、米国の支部やその他世界の12以上のIPPNW支部と共に、UNSCEARのフクシマに関する報告は間違っている、どこが間違っているの か、実際に指摘しそれを公表するために活動しています。

LH: IPPNWは論評、すなわち、UNSCEARのフクシマ報告書の注釈付き論評を発表しました。まず、この具体的なトピックにはいるまえに、質問ですが、この論評はどのように作成されたのでしょうか?

AR: そうですね。私たちは国際的な組織ですから、このUNSCEAR報告書を課題として研究している人たちが、世界中にいるわけです。主に、アメリカやドイツ の支部がこのUNSCEAR報告書について、Skypeコールをしたり、お互いに関連文献を送ったり、意見を交換しあったりして、世界中からの専門的知識 を得ています。インド、英国、オーストラリア、オーストリア、スイス、ナイジェリアのようなアフリカの支部からです。世界中の科学者達や医師らが電離放射 線の健康被害に関する専門的知識を寄せ合ってまとめ上げること、これは、実際にUNSCEARの調査結果を批判的に見つめ、私たちが誤っている、または欠 けていると見なしたことを公表するためなのです。

1. UNSCEARのフクシマ報告書のソースターム推定値の妥当性に疑問を持つ

LH:(16:28)  UNSCEAR報告書について、IPPNWの分析は、10の具体的な結論を出しています。ーその結論について、それぞれ個別的に見てみることにしましょ う。そうして、UNSCEAR報告に関して、このような結論と批判へと導いた正確な要因について説明して頂きましょう。まず一番目は、「UNSCARのソースターム推定値の妥当性は疑わしい」についてですが…。

AR:  はい。 まず私たちがUNSCEARの報告書を見て、一番最初に浮かんだ明らかな疑問というのは: どのようなファクトをベースにして、フクシマにおける健康被害 の算定をしたのか、ということです。放射能汚染を検査する上で、最も重要なパラメーターの一つは、もちろん、核事故によって、どれだけの放射性核種、放射 能量が放出されたのかということです。

国際的に、いろいろな研究組織/機関による算定もしくは推定評価が公表されています。それらは、放射能放出の数量または規模に関するいろいろな数値 を出しています。しかし、ここで、UNSCEARがやっていることは、最も信用できると主張できるような、最も中立的な情報源からの数値や、最も高い推定 値と最も低い推定値の間にある中央値をとっていないのです。

彼らは日本原子力研究開発機構の科学者達が出した放射能放出量の推定値をとっており、その値は、ノルウェー大気研究所またはオーストリア気象学中央研究所のような中立的ソースによる推定値よりも数倍低いのです。

例を挙げてみますと:UNSCEAR報告書には、セシウム137の推定値が、-放射能汚染の話をする場合、この特定の核種を知っていることは重要な ことですが-【9 PBq(ペタベクレル)】であると述べられてあります。これは、【9千兆Bq】のことです。ノルウェー大気研究所が出したセシウム137の推定値は 【37PBq(ペタベクレル)】ですが、これはUNSCEARの推定値の4倍以上になります。ここで、私たちは、ノルウェーがまったく正しくて、日本原子 力研究開発機構が完全に間違っている、と言っているわけではないのです。

私たちが言っているのは、いろいろな数値が出ているけれど、誰がこれらの数値を公表しているのか、どのような関心を持ってか、彼らの計算にはどれだ け妥当性があるのだろうかと、もっとよく検討しなければなりません。 また、フクシマ核災害の共同責任者として、国会事故調から厳しく批判された組織である日本原子力研究機構からの最も低い数値を使うということは、理に適っ ていることでしょうか?そして、もし彼らの低い推定値をとるのなら、明らかに、その数値を使った計算は、結果として、健康被害をシステマティックに過小評 価していることになります。

2. UNSCEARの内部被曝線量の算定に関して深刻な懸念がある

LH:(19:11)  内部被曝量の計算に関して深刻な懸念があるということですが……。

AR:  はい。これは、UNSCEAR報告書に関する、私たちの分析の中で取り組まれている次のイシューです:内部被曝線量の計算に関する懸念。放射能放出量を 検討した後の次のパラメーターは、放射能放出の規模ですが、これは、どれぐらいの放射能が実際に人々によって取り込まれたのかを調べたいということです。 取り込むということは、大気中に浮かぶ放射性塵を吸入したり、または、飲み物/食べ物で摂取するという意味です。

ということは、日本の特に、東北本州の汚染地域における飲食物の放射能汚染を調査し、どれだけの放射能の量が人々によって摂取されたり吸入されたり するであろうかということを検討することが、とても重要になってきます。そのためには、食物サンプルが必要になってきます。まず一番最初に、みんなの食物 の中にどれだけの放射能が含まれているのかを計算し推定するために、畑やマーケットに行って、実際にサンプルを手に入れてくることが必要です。それから、 人々が食べる量、食物の生産地を仮定する必要があります。

UNSCEARは、まず第一に、内部被曝線量の全部の計算を単一の情報源を基にして、やっています。

さて、独立した検査が為される独立した科学委員会もしくは機関を、この情報源にするということも可能なのですが、UNSCEARは、その代わりに、 内部被曝線量を算定する上で、国際原子力機関、IAEAを単一のソースとしているのです。このIAEAというのは、民間の核エネルギーを促進するために設 立されたことは、誰もが知っていることです。ですから、彼らには、実際にフクシマ核大災害の多くの弊害を明かにすることに大きな関心がないのです。

事実、IAEAのソースは偏っており、内部被曝線量の計算のベースとして、最も確実で信頼できるものとは言えないでしょう。しかし、UNSCEAR は、彼らの算定の単一のソースとして、IAEAの食物データベースを用いているのです。そして、UNSCEAR報告書のどこにも、①どのようにしてこれら のサンプルが採取されたのか、②誰が採取したのか、③どこから採取されたのか、④いつ採取されたのか、まったく述べられていなくて、ただ単に、「スプレッ ド・シート/食物のデータベース」を引き合いに出しているのですが、これらが報告書に現れてくるようなことは全くなく、「スプレッド・シート/食物のデー タベース」は、後になってから、追補のような形で公表されることになっていると、述べられてあるのです。しかしながら、このデータがどこから出たのか、そ の出所を確かめたいと願っている私たちのような研究者や独立した科学者達は、未だに、それにアクセスができない状態でいるのです。

ですから、これらの食物サンプルが、どれだけ確実な根拠を持ったものであったのかということをチェックする、またはコントロールする方法がないわけ です。私たちが分かっていることは、IAEAのデータベース(その中のある部分はWHOによって公表されている)によって示された最高レベルの放射能汚染 濃度値が、日本政府によって示された数値よりもはるかに低いということです。

ですから、私たちは、(UNSCEARが)このデータベースを唯一のソースとして用いることで、内部被曝による影響が、実際に、過小評価されている ことを非常に懸念しているのです。さらに付け加えて言うならば、UNSCEARが算定のベースにしている仮定、 ①人々が、どれだけの量の放射能汚染地域からの食物を摂取しているのかの仮定、②フクシマでは、食物の放射能汚染検査やコントロールが、どれだけ為されて いるのかの仮定 ……これらの仮定が、とにかく間違っているのです。

3. フクシマ作業員達の線量評価は信頼できない

LH:(22:40) IPPNWによるUNSCEAR報告書の論評で挙げられている別のイシューは、フクシマ作業員らの線量評価に信頼が置けないということですが…。

AR:  はい。また、これも、どのようなソースをベースにして算定するのかというポイントに関わることです。フクシマ作業員の集団について検討するとき、彼らの 健康影響を算定評価するために、作業員達に関する独立した調査データを用いるのが当然だと思うのですが…。しかし実際は、そうではなく、UNSCEAR は、単独的に東電からだけの数値をベースにしているのです。でも考えてみて下さい。東電は、核災害で破産した以前には、福島第一原発を運営していた会社な のです。東電は、日本で何基かの原子力発電所を所有している会社であり、核エネルギーで、何十億ドルでないとしても何百万ドルもの金額を稼いでいた会社で すから、この大災害をこれ以上酷く見せることには、明らかに興味を持っていないのです。

それどころか、私たちが見ているのは、東電が自分達自身で人々を雇うのではなく、しばしば下請負業者を雇っていることです。そして、これらの下請負 業者は、また更に別の下請負業者を雇うのです。ですから、結局は、東電の中で東電のために、実際に汚い仕事をやっているのは、東電の規則/基準とは、ずっ とかけ離れたところにいる人達になってしまうわけです。そうなると、これらの下請負業者たちが、放射能汚染に晒された作業員達の被曝線量を適切に測定する 安全基準を固守しているのか、それを実際に確かめることが非常に難しくなってきます。

線量計が紛失していた報告や、線量表示をごまかすために線量計を鉛のカバーで被っていた報告や、下請負業者のグループがやくざとの関係があるとの報 告がありました。ですから、これらの段階で、たくさんの疑わしい取引や頽廃があるわけです。それで、作業員たちの健康影響を算定評価する上で、使用可能な 独立性のあるデータはなし、政府からのデータは何もなし、独立した研究者達からのデータは何もなし、ただ東電自身のデータだけで、東電からの数値を単独の ソースとして用いることは、再び、システマティックに健康被害の過小評価へと導くことになります。

4. UNSCEAR報告書は、放射性降下物による人間以外の生物相への影響を無視している

LH:(24:43) IPPNWが出した別の結論は、UNSCEAR報告書が、放射性降下物による人間以外の生物相への影響を無視しているということですが…。

AR: はい。 これがどういうことを意味するのかと言いますと、私たちは明らかに人間だけについて議論しているのではなく、植物や動物についても 議論しているのだということです。そして、私たちがチェルノブイリから何を学んだのかと言えば、特に動物集団においては、もっと確実に、健康影響や何世代 にも亘った影響を証明することができるということなのです。ー 核災害が発生した時に生きており、居合わせた動物だけでなく、その動物の子孫や将来の世代においても証明することができるのです。

そして、蝶やネズミにおいては、それらの何世代にもわたる影響を研究する上で、明らかに、モルモットでない人間集団よりも、より良いチャンスに恵ま れているのは明白なことです。それで、科学者達が何をやってきたかと言いますと、ティム・モソーのまわりに大変にアクティヴな米国のグループがあるので す。ティム・モソーとは科学者で、何年もの間、チェルノブイリに旅して、鳥を捕まえたり、異なった種類の動物や、放射能汚染における、それらの健康影響を 調査し、生殖能力や突然変異に関する、幾つかの非常に有意な健康影響を発見することができたのです。このような知識の全てが現に存在しているのです。彼ら の研究は、ピアレヴューされたジャーナルで発表されており、インターネットで、それを調査することもできるのですが、そのことに関してUNSCEAR報告 書には出てこないのです。

そして、UNSCEAR報告書は、人間以外の生物相に関する実際のデータが存在しないため、このことについて考慮しなかったと述べているのです。で すから、明らかに私たちはこのことを批判しているわけです。ー 蝶に何らかの変化が起ったからと言っても、同様なことが人間にも起るとは言えませんがー少なくとも、このことは薬理学研究や他の健康研究から分かっている ことであり、そこからある推論を出すことができるのです。そうして、こう言えるでしょう:「さて、もしこのことが全ての種類の哺乳動物に起こるのだとした ら、人間に起ることだってあり得るのではないかな?」と。 特に、人間集団において立証することが非常に困難である何世代にも亘る影響が、動物集団におい ては見ることができ、証明することができるのです。このことは、少なくとも、考えるべき事柄であり、考慮すべきことです。

ここで言うべきことは: そう、動物にはこのような影響を見ている、植物にも、このような影響を見ている。ということは、人間にも同様の影響が期待 されるのではないかということです。この時点において、私たちは未だ、その影響がどのぐらいのスケールであるのかは分かりません。しかし、少なくとも、こ の研究をするための論拠は十分にあるのです。でも、そうしたことは起っていません。これが私たちIPPNWの批判なのです。私たちがUNSCEAR報告書 の批判的分析の中でやっていることは、要するに、ティム・モソーと彼のグループの幾つかの調査結果を列挙して、UNSCEARに、これらを今後のパブリ ケーションには含めてくれるようにと頼んでいるのです。

5. 胎芽/胎児の放射線に対する特別な敏感性/脆弱性が考慮されていない

LH: (27:26) 次の問題は、胎芽/胎児の放射線に対する特別な敏感性/脆弱性が考慮されていないということですが….。

AR:  そうです。 これは、小児科医である私にとって大変に重要な問題です。人間は、放射能に対して同じようには反応しません。放射能には、確率的な影響があ ります。これは、ある一定の放射線量もしくは、ある一定の放射能量を定めて、それが有害であり、それ以下であれば安全であるといった意味ではないのです。

そういったことではありません。それは、事実、喫煙について議論する時と似ています。「タバコ2本は大丈夫だけど、3本吸ったら死んじゃうよ」なん て、到底言えないことです。これは、あなたが、どれだけのチャンスを賭けるのかに、かかってくる、それだけのことです。タバコを多く吸えば吸うほど、また は、放射線への接触が多ければ多いほど、実際に病気になり、がんになるリスクが高くなっていきます。

これは、明らかに喫煙のようなもので、その人の遺伝的背景、その人自身の免疫システムに左右されます。ですから、大変によい免疫システムを持ってい る人は、放射線や他の毒素による細胞の欠陥を修復することが、むしろ得意ですし、(例えば、被曝した後などに)実際に発がんする可能性も低いのです。

例を挙げれば、免疫欠乏のある人達や免疫機能を低下させる薬物治療を受けている人達、そして、放射能の影響に対してはるかに敏感であり、まだ完全に 免疫システムが発達していない子供たちが存在するのです。そして、このことが考慮されていないのです。特に胎児は放射能に対して最も脆弱です。

これは、1950年代における研究から分かっていることです。大人は、後になってがん発症することなしに、胸部レントゲン照射を受けることができま す。しかし、母親の胎内の胎児は、放射能もしくは電離放射線に対して、とても敏感であり、従来のレントゲンからのような、ほんのわずかな放射線量であって も、その子が、がんになるリスクが、かなり相当な度合いで、高まってしまうのです。ですから、妊婦が腹部へレントゲン照射を一回受ければ、小児がんの発症 のリスクが50%増えることになります。これは、ただ一回のレントゲンの話ですが、私たちは、フクシマのもっと遥に高い線量について話しているのです。

ですから、全ての人間は同様であり、全ての子供達は同様であり、胎児や5歳の子供の間には何の違いもないと言うことによって……UNSCEAR報告 書は、 私たちが過去数十年にわたり蓄積してきた、この放射線生物学の知識を完全に無視しているのです。彼らは(UNSCEARは)、私たちが、子供、とりわけ胎 児が放射線に対して非常に敏感であることについて、まるで無知であるかの如く振る舞っているのです。この点は、私が特に小児科医として強く感じていること です。このことは修正されなければなりません。私たちが、放射線量レベルに関する自分達の勧告を、実際に最も脆弱な集団である胎児をベースにする代わり に、健康な大人、健康な男性をベースにするなんていうことは、あってはならないことなのです。

~~~~~to be continued…….次回の(2)へと続きます

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〔eye2774:140924〕

n-tv オンライン記事: 驚くべき国連のフクシマ報告書- IPPNW ドイツ支部 アレックス・ローゼン(Alex Rosen)博士の論評


グローガー理恵

4月 2日、国連放射線影響科学委員会( UNSCEAR )は、 東京電力福島第1原発事故の健康への影響に関する最終報告書を公表しました。報告書は、「フクシマでの被曝によるがんの増加は予想されない」と述べています。

「UNSCEARの最終報告書」については、福島民報が報道しています。http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2014/04/post_9745.html
報告書の概要が、国際連合広報センターのサイトにプレス・リリースとして、日本語で掲載されています。http://www.unic.or.jp/news_press/info/7775/

この国連のプレス・リーリースは、国連科学委員会(UNSEAR)について下記のように説明しています。:

UNSCEARについて

1955年に設置された原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、電離放射線源のヒトの健康と環境への影響を広範に検証するこ とを目的としている。UNSCEARの評価は、各国政府や国連機関が電離放射線に対する防護基準と防護のためのプログラムを作成するための科学的基盤と なっている。

世界中の80名以上の著名な科学者が、福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線被ばくの影響を解析する作業に取り組んだ。彼らがとりまとめた解析結 果は、2013年5月に開催された委員会の年次総会で、27の加盟国により、技術的かつ学術的に精査された。科学者らは全員、本評価に参加するにあたり、 利益相反の有無を申告することを義務付けられた。」
80人の著名な科学者達がUNSCEARのフクシマ報告書作成に取り組み、彼ら全員が、利益相反の有無を申告することを義務付けられということですが、そ うだとすると、このことを、彼ら全員に利益相反の問題がなかったものと理解すべきなのか、その点が不明確なように思えるのですが…。

何れにせよ、このUNSCEAR最終報告書に対して、IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン(Alex Rosen)医学博士が、非常に批判的な論評をドイツメディア「n-tvオンライン」に寄稿しています。ローゼン博士は、「フクシマ大災害の影響結果につ いての論議は、それぞれ一人一人の人間が持つ、放射能汚染のない健康な環境に住めるという権利に関する問題であるのだ」と、人間が持つ当然の権利である放 射能汚染のない環境に住めることの重大さを訴え、論評を結んでいます。
そのローゼン医師の論評を和訳して、ご紹介させて戴きます。なお、論評を和訳することについては、ローゼン博士より許諾を頂いております。

原文へのリンクです。:

http://www.n-tv.de/panorama/Der-erstaunliche-UN-Bericht-zu-Fukushima-article12588996.html

n-tvオンライン-2014年4月2

死亡者って? どの死亡者のこと?  驚くべき「 国連のフクシマ報告書」

論評寄稿者: アレックス・ローゼン(Alex Rosen)医学博士―IPPNW ( 核戦争防止国際医師会議 )

( 和訳: グローガー理恵 )

国連の報告書が明白にしていること: 日本の原子力事故が、より多くのがん死亡者をもたらすことはない。これに対し、IPPNW医師団は「この報告書は、産業に好意的な原子力国家のメッセージと全く同様に、被曝がもたらす健康被害を故意に軽視し、被災者を侮っている」との見解を表明している。結局のところ、フクシマ大災害は全く収束していないのである。

今週の水曜日、原子力放射線の影響に関する国連科学委員会 ( UNSCEAR )は、フクシマ核大災害についての報告書を発表した。報告書の中で、筆者たちは「フクシマ原発事故による放射線被曝と関連づけられるような、がん発生率に おける著しい変化 (増加)が、今後あるとは予想されない」と主張している。我々、IPPNW医師団は、このような (UNSCEARの) 過小評価への試みを批判する。「がん」という病気は、その出所の表示を掲げていないこと、そして「がん発病」の理由を明らかで疑問の余地のないような、た だ一つの原因に帰せることができないこと、― これらの事実が、いかなる因果関係をも否認する上で、都合よく利用されているのである。我々は、この種の策略を既に、タバコ産業やアスペスト企業から知っ ている。

UNSCEAR報告書の作成者たちは、まるで、どんなに僅かな放射線被曝量であっても、がん発病のリスク上昇を伴うことが、一般的には知られていな いかのように、振る舞っているのである。報告書の筆者たちは、これらのリスクについて被災者達に率直に、はっきりと説明する代わりに、疑わしい推定や選択 的な(食物の)抜き取り検査、そして修整軽減された被曝線量をベースにして、「フクシマの人は、ただ怯えただけで、ことが済んだ」との、産業に好意的な メッセージを広めようと試みている。原子力大災害の結果、何万ものがん症例が予測されていることを「重大ではない」と称することは、被災者を侮っているこ とである。

UNSCEAR報告書は、被災者集団における被曝線量を算定する上で、IAEAの食物サンプリングを決定的なベースとしている。― この「IAEA」という機関は、「世界中におよぶ原子力利用の促進」を目標に設立されたものである。 好ましくない独立した食物抜き取り検査は、それに対して、無視されている。放射能総放出量を算定する上で、報告書の筆者たちは、独立した研究所による明ら かに、より高い放射能総放出量の算定を鑑みることなしに、日本の原子力当局のスタディーによる推定値を使っている。フクシマ現場作業員たちの被曝線量推定 には、大部分が、物議を醸す、大災害を引き起こした重大責任者である福島原発の運営者、東京電力からのデータが直接使われている。

フクシマについての論議に終止符を打つことは不可能

このUNSCEAR報告書によって、原子国家は、フクシマを巡る論議に急いで決着をつけようと試みている。しかしながら、フクシマ原子力大災害は未 だに、全く終わっていないのである。日々、何百トンもの放射性廃棄物が海洋へと流れ込んでいっている。除染作業は行き詰まっている。破損された原子炉(複 数 )から放射性物質を救出する危険な作業は、これから未だ何十年も続いていくことであろう。放出されたセシウム-137の半減期はおよそ30 年である。原発事故から、たった3年後に、原子力大災害がもたらす長期的な影響結果について最終的な報告書を作成したいと願うこと、これは非科学的なこと である。被災地域の人々が必要としているのは、信頼できる情報であり、教示であり、援助であり、被災者を惑わせる虚偽の希望ではない。

去年の秋、アナンド・グロバー (Anand Grover ) 国連特別報告者は、健康への権利/人権を課題とした、フクシマの状況に関する報告書を公表した。彼は報告書の中で、「被災者達の健康への権利および健康な 環境に住む権利が、計画的且つ意図的に拒否されている」と、公然と非難している。被災者達は、自分たちの医療データへのアクセスを持たず、セコンドオピニ オンを求める可能性もなく、汚染地域を去りたいと意を決しても、何の援助も得ることはなかった。公平でバランスがとれ、よく調査され、被災者への共感に満 ちたグローバー氏の報告書を読むと、UNSCEAR報告書との際立った違いが、極めてはっきりとしてくる。

フクシマ大災害の影響結果についての論議は、経済的および政治的な利害関係に服さない医学的調査研究の独立性に関するだけの問題ではない。それは、それぞれ一人一人の人間が持つ、放射能汚染のない健康な環境に住めるという権利に関する問題でもあるのだ。
以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye25975:140425〕

«資料» 福島の核事故には直接の健康リスクなし、と国連科学専門家団


国連情報センター プレスリリース
2013年5月31日

長期モニターキー

ウィーン5月31日(国連情報センター)

「福島第一での核事故による放射線被曝は、直接的な健康への影響をまったく引き起さなかった。一般のの人々の間にも、大多数の作業者の間にも、将来的に、事故のせいにできる健康影響が出てくることなど、ありそうにない」と、ウィーンに本部を置く核放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の60回大会は結論した。

2011年3月11日の福島第一原子力発電所での事故による人体と環境との放射線被曝の諸結果は、5月27日の月曜日に始まった委員会の年次総会の主要な議題の一つである。二つめに大事な議題は子供たちへの、放射線の短期および長期の効果に関してである。これは、医療被曝なども含むものである(特に福島第一事故だけを扱うのではなく)。

1) 福島第一事故の放射線学上のインパクト

日本での2011年3月11日の出来事に続く被曝の水準と影響に関する、利用できる情報の分析に基いて、80名を超す国際的で指導的な科学者たちが作業を行なった。彼らが準備した材料は科学委員会の年次総会で、27ヶ国による精査を受けた。委員会の報告が公表される暁には、現在利用できる情報の、もっとも理解しやすい科学的分析になるはずである。

「1986年のチェルノブイリ事故からの経験は、身体的な健康への直接的なインパクトはさておいて、社会に対するないしは社会性に対する影響、そしてそうした影響が被害を受けた人々の集団に齎す健康上の帰結が、私たちがこれから先何年もの間、私たちが格別の注意を向けていかなければならない当のものなのだ、ということを示しています」とUNSCEARのカール=マグナス・ラーソン委員長は述べた。「家族はどれも苦しんでいて、人々は故郷を追われ、暮し向きや将来、健康そして子供たちのことで不安を抱いています。・・・・こうした問題こそが、事故後長い年月続いていく降下物なのです。これと並行して、被曝した人々には継続した長期医療態勢を維持することが必要で、幾つかの疾病に関しては健康状態の推移に関して、明確な像を提供しなければなりません」

報告草案は日本から受け取った最新のデータも含めて長時間にわたって審議された。方法論、査定結果、そして線量が細部にわたって検討され、委員会は幾つか助言を作成した。国連総会への提出に向けて仕上げ中の草案にはこの助言も挟み込まれる。「委員会の完璧な信頼を得た草案です」とラーソンは述べた。

総じて、日本の人々の被曝は低ないし極低水準であって、生涯の晩期になってからの健康影響の低リスクに相当する。一般の人々の防護のために取られた活動(避難と収容)は、そうしなければ高かったであろう放射線被曝を、著しく低減した、と委員会は結論した。「こうした方策が、被曝量を10分の1ほどにも低減したのです。もしそうしていなかったなら、癌の罹患率がずっと高くなっていたでしょうし、数十年にわたって、幾つもの健康問題が発生することになっていったでしょう」と福島第一事故の放射線影響のUNSCEAR報告書の座長、ヴォルフガング・ヴァイスは述べている。

もっとも重要な2種類の放射性核種の線量には大きな違いがある。甲状腺が主に沃素131から受けた線量は、数十ミリグレイほどにもなり、受けたのは事故後数週間の間である。主にセシウム134およびッシウム137から受けた全身(あるいは実効)線量は10ミリシーベルト(mSv)ほどまでの範囲であり、また被曝は生涯続く。多くの日本人に最初の一年、およびその後の何年間か、事故による放射性核種の放出によって余分に受けることになる被曝の量は自然放射線から受ける線量(ほぼ、年に2,1mSv)を下回っている。福島県から遠くに住んでる日本人の場合には、特にそうであって、事故によって受ける年間線量は0,2mSvほどだと見積られ、その上昇は主に食品からの放射性核種の摂取による。

事故現場で作業した25000人の作業者(東電社員、契約作業員の両者を含む)のうちで、放射線による死者はおらず、急性症状も観察されていない。

高い線量を浴びた作業者がいないことから、放射線被曝による甲状腺癌の発症超過が検出されることはありそうにない。年間100mSvを超えて被曝した作業者たちには、癌に関する甲状腺、胃、大腸、肺の毎年のモニタリングを含む、特別な健康状態調査が、個々人のレベルで想定しうる放射線による晩発性の健康影響をモニタリングする手段として予定されている。

査定はまた、植物や動物の被曝の度合いは、事故後の最初の数か月の間、影響の徴候の出る水準を超え数倍になっていた可能性もあるが、期間もごく短く、自然界の影響はあっても一時的であろうと、結論した。一般的に、海洋性、陸生双方の人間以外の生物相の被曝は、急性の影響が観察されるにはあまりにも低い水準である例外の可能性のあるのは、水中の植物、とくに放射性の水が海洋に注ぐ水域の植物である。「この点で私たちは、もっとも高い被曝を受けている地域では、ある種の生き物には潜在的なリスクがあると言うことができますが、利用できる情報の中からリスクを細部にわたって数量化して示すことは困難です」とUNSCEAR事務局のマルコム・クリクは言う(UNSCEARの事務局は国連環境プログラムUNEPによって運営されている)。「環境内の生命体の被曝がその集団に悪影響を及ぼすとしても、一時的なもの以上ではありません」と彼は付け加える。

2)子供の放射線被曝の諸結果に関するUNSCEAR報告書

解剖的にも生理的にも違いがあるために、子供の放射線被曝は大人とは違ったインパクトをもたらす。委員会は、福島第一事故より以前から、この違いの見直し作業を始めていた。この主題の結論は今年の国連総会に提出される予定である。

環境内の放射線、例えば、地面に高い水準で放射性核種があったような場合だが、その度合いが同一の場合でも、子供と大人とでは受ける線量は異る。子供たちはまた、医療の場で技術的な設定が不適切だったような場合に被曝した、というような状況でも、大人たちより有意に高い線量を受けることがある。

放射性核種が摂取されあるいは吸引されると、ある器官内に放射性核種が存在すると、他の器官にも大人たちのばあいよりも高い放射線量を与えることになる。というのも、子供たちの器官と器官は互いに大人たちの場合よりもずっと間近にあるからだ。加えて、代謝も生理も歳によって違うので、放射性核種が集積する器官も違うし、摂取量が同じでも器官ごとの線量は違ってくるのである。

放射線に曝された子供たちは放射線への感受性が大人よりはっきり高くなるという現象が、腫瘍型の30%に見られる。そうした腫瘍型に含まれるのは、甲状腺、皮膚、脳の癌である。腎臓、膀胱などの腫瘍型の25%になると、子供の放射線感受性は大人と同一である。そして腫瘍型の10%になると、大人たちより感受性は低くなる。

高い線量に帰因が結び付けられる影響については、発癌現象に見られるように、子供たちの被曝には大人たちの被曝 以上のリスクがある腫瘍群(つまり脳の癌、甲状腺小結節)があると、委員会は結論した。ほとんど同じリスクのある腫瘍群(つまり神経内分泌系と腎臓への影響)があり、また子供の組織の方が抵抗力のある稀な群(肺、免疫系、骨髄、卵巣)もある。

子供の放射線被曝のリスクと影響を充全に理解するには、もっと研究する必要があります。これは必要です(し、可能です)。というのも、子供の頃に被曝して、生き延びている人たちいるからです(原爆の生存者などです)。彼らの経験を失くしてはなりません」と子供たちの放射線被曝の影響UNSCEARの座長、フレド・メトラはは述べた。

またメトラは、子供たちの被曝の影響を全体として概観した理解しやすい報告書は、これが最初のものであり、そうした点でも価値のある資料であると付け加えた。

«資料» UNSCEAR年次総会に提示された福島第一査定の中間所見


国連情報センター プレスリリース

2012年5月23日

ウィーン 5月23日(国連情報サービス)

2011年3月11日の福島第一事故の主要査定の一部が、2012年5月21〜25日の日程でウィーンで開かれている、原子放射線の効果に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の年次総会に出席している国際的な専門家たちによって見直された後、本日、公にされる。

UNSCEARは損壊している4つの原子炉からの大気への放出物について、現在では、その性質と組成を良く理解している、とUNSCEAR議長のヴォルフガング・ヴァイスは述べた。大気、土壌、水、食糧に含まれている放射性諸元素の測定とともに、甲状腺などの重要な器官を考慮して、日本の様々な地域で、成人と子供とに対する線量査定が可能なところにまで、研究は進むとしている。

「飯館村、川俣町、いわき市で、1000人を超える子供たちの甲状腺に対して行なわれた測定の情報を私たちはいただきました。とヴァイスは述べた。「また、福島県での研究結果の一つは、事故当時県内に住んでいた200万人ほどの人たちの被曝水準を見積る助けになります。これらの地域に対するUNSCEAR査定の結果は日本が行なった測定や分析比較され、違いがあれば明かにされ、話題にもされることになります」とヴァイスは述べた。

2012年1月31日の時点で20115人の東京電力の関連労働者が福島第一事故の後処理に従事してきたが、うち80パーセントは契約社員である。中間所見の鍵になる点の一つとして、何人かの労働者が皮膚の汚染によって被曝を受けはしたものの、臨床的な観点からは影響がまったく見出されていない。事故以来、6人の作業者が死亡しているが、そうした死のどれ一つとして被曝とは繋がりがない、と所見は述べている。

「私たちはできるだけ幅広く多様な情報を元に結論を引き出しています。それは、矛盾点が見つけやすいようにするためです」とヴァイスは述べた。「一般の人たちの線量を査定するには、たいへん細部にまでわたった情報があります。けれども、作業者の被曝を見積るのは、そう簡単ではありません」とヴァイスは述べた。

「仕事はまだ完了していないのです。私たちの査定を確かな質で進めるには、細部にわたる注意深さをもって進めることになりますので、まだまだ長い道程になることでしょう」とヴァイスは述べた。

事故による放射線被曝の水準と効果に関する査定は国連総会のために行なわれていて、最終報告は2013年末までにUNSCEARによって提出される。

UNSCEARの研究は70人を超える国際的な科学者たちの手で、4つの領域で行なわれている。放射能と放射線の測定、放射性物質の放出と拡散、公衆および人間以外の生物相の被曝、作業者の被曝である。査定は、UNSCEARが1986年のチェルノブイリ事故のような、類似の見積もりを指揮した経験に支えられている。チェルノブイリ事故に関するUNSCEARの報告書は2011年に出版されている。

なお、委員会には総会の指名によって、新たに6ヶ国が加わることになった。ベラルーシ、フィンランド、パキスタン、韓国、スペイン、ウクライナであり、総計27ヶ国となった。

(以下、学者のリストなどがあるが、省略する)

«資料» 福島第一原子力発電所事故の効果を査定するために放射線の専門家たちがウィーンで会合


国連情報センター プレス リリース

2012年1月30日

国際連合のために、2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故による、放射線被曝とその健康上に及ぼす効果を査定する、国際的な専門家60人による一週間にわたる長い会合が、今日、開かれる。

「私たちは一緒にジクソウパズルを解いていくのです。一般の人々の、そして作業者たちの被曝、放射線の効果を見積り、失なわれた(パズルの)片を捜すのです」と、原子放射線の効果に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の委員長、ヴォルフガング・ヴァイスは述べた。

「この会合ではグループは、利用可能なデータに大きな隔たりがある個所、さらに集中的な精査が必要な個所を探求し、私たちの査定が根拠を置いている部分の質と信頼性をどう確保するのかを探求していきます」とヴァイスは述べた。

日本は委員会とともに、また国際連合食糧農業機構(FAO)、世界気象機構(WMO)、包括的核実験禁止条約機関準備委員会、世界保健機構(WHO)、そして国際原子力機関(IAEA)とともに、データの生成にかかわっている。

予備的な報告書がUNSCEARの年次会合(5月21〜25日)に出され、また最終報告は2013年に国連総会に提出される。

UNSCEARの査定は4つの専門家グループによって行なわれていて、作業は先月の国連総会での決議を元に遂行されている。60人の専門家たちは18の国連加盟国から費用の全額補助を受けている。

2011年12月の総会ではまた、科学委員会加盟国の21ヶ国から21ヶ国への拡張が承認された。新しい加盟国はベラルーシ、フィンランド、パキスタン、韓国、スペイン、そしてウクライナである。各国は委員会でその国を代表する科学者1名と、その助言者数名とを指名する。

国際放射線防護委員会の創設


ロザリー・バーテル

「チェルノブイリ:信じられない救援の失敗」(2008)より

原子力の平和利用を推進するために、IAEAは国連から労働者たちや一般の人々を防護するために適正な指針を勧告するよう、求めれらました。IAEAが権限を与えられた1957年には、合衆国、イギリス、そしてソ連が大気圏内で核実験を行なっていたことを思い起す必要があります。合衆国が太平洋のビキニ環礁で実験を始めたのは1946年です。ロシアの最初の核実験は1949年です。イギリスがオーストラリアで実験を始めたのは1952年です。

イギリスのロンドンで1952年に開かれた「原子力の生物学的危険性」という経義の出版されている議事録から、容易に見て取れるのですが、マンハッタン計画に加わった物理学者たちは、大気圏内核実験には北半球全体にわたる核の降下物の問題があることを、予見していました。1946年から1950年の間に一連の会議があり、その間にこの物理学者たちは放射線防護の共同体制について合意していました。この物理学者たちは、原子放射線の問題のうち、1)癌による死 と2)生きて産まれた子孫のうちでの、重大な遺伝疾患 のみを勧勘定に入れるべきだと、決めていました。今日でもなお、放射線被曝による「損傷」として通常数え上げられているのはこの2つです。ただし、業界は時には「子宮内での」精神遅滞を含まることがありますが。

多くの人たちの予想に反して、日本での犠牲者たちの疾病の全般にわたる調査は、この1956年の決定では大きな役割を果していません。実際問題として、1950年の日本の国勢調査からは284000人の原爆生存者が特定され、そのうち195000人が当時、広島と長崎にまだ居住していました。ABCCの資料によれば、原爆の爆発の瞬間に爆心から2,5km以内にいた適格者が全員含まれていて、さらに、それ以上遠くにいて被曝した人たちが20%ほど含まれています。この遠くの人たちは年齢、性別、町ごとに一定数ずつ無作為抽出されています。爆発時に2,0km以内にいた人たちとの間に対照ができるようにしたのです。研究者たちは爆心地から10km以遠にいた人たち26000人を「町にいなかった」人として特定することもしました。最初の試験的な線量測定が利用可能になったのはやっと1957年のことです。

…………………………..

この1950年のロンドンの会議では、「標準的な人間」というものについて、細かい議論がされました。その後、核物理学者たちのこの委員会は、医療放射線従事者たちの放射線被曝の防護標準を設定していた「国際放射線協会」という既にあった委員会のところへ出掛けていって、彼らと合体し、「国際放射線防護委員会(ICRP)」を創設するよう求めました。この時以来、物理学者たちは13人からなる委員会の過半数を占めていますが、多くの国々で使われている放射線防護勧告のすべてを、この委員会が作成しています。

ICRPはその後、国際放射線協会との絆は断ち切るのですが、物理学者たち、核国家の医療的規制担当者たち、放射線科医師たち、業務に放射線を使用するその他の人々からなる、メンバーを自己充足する非政府組織(NGO)であると考えられています。ICRPでは、現在のメンバーの誰かによって推薦を受け、執行委員会によって受け入れられた人が「メンバー」になります。職業的専門家の組織がICRPの基幹委員会に人を送り込むことはできません。WHOでさえ不可能です。

放射線防護規準の勧告に直面した時、できたばかりのIAEAはWHOよりもむしろ、ICRPに助言を求めました。主要な放射線災害で、関心事項を不適切に絞り込み、致死性の癌と、生きて産まれた子孫の重大な遺伝疾患とだけを選んでいることを、問題にする人はいないようでした。想像してみてください、セヴェソのダイオキシン大災害で、ボパールのユニオンカーバイドの大災害で、アジアでの津波やカテリナ台風の後で、死者以外は問題にしないなんて、できますか?チェルノブイリの降下物のあった地域での甲状腺癌を取ってみても、こういう制限は明らかに適切性を欠いています。国際放射線防護委員会によれば、甲状腺癌で死亡する人はたった5%ていどだということです。

国際連合のシステムの中でのUNSCEARの権限は、原子力産業の汚染水準と、電離放射線への被曝が環境と健康へもたらす効果とを査定し、報告するというものです。世界中の政府や組織がUNSCEARの見積もりを、放射線の危険度の評価や防護策確立の科学的基礎とし、信頼を置いています。一般的に言って、合衆国を除いて、すべての国が労働者や一般の人々の放射線防護のためのIAEA/ICRPの勧告を受け入れていますが、UNSCEARはそうした勧告が受け入れてよいものかどうかの、チェックになると考えらることができます。

前にも述べたことですが、メトラ博士は1991年にIAEAのためにチェルノブイリの健康調査の責任者でした。その後、ICRPの主幹委員会に指名を受け、同時にUNSCEARの健康影響評価委員会にも指名を受けています。それぞれの機関の権限を考えても、これは甚大な利益相反です。メトラ博士はチェルノブイリの後遺状況調査で、被害を与えたものの中から放射線を除いてしまいました。しかしICRPとUNSCEARという2つの組織での地位を得たのはこうした調査の「成功」より後であって、地位によって成功したのではないではないかと、論じる人もいることでしょう。ご指名は見返り謝礼、という方が当っていそうです。

2つの国連機関でのメトラ博士の地位は、彼の報告書より後なのですから、そうした彼の地位が、彼の発見に影響したというのは明らかに違います。けれども、医学学校の教科書に欠いてある専門職業的情報は大半、そしてまた健康物理学のプログラムも1957年以来ICRPによって作られていて、またメトラ博士が最初に取った学位がコロンビア大学の数学士で、ついで1970年にトマス・ジェファースン大学から医学博士号を取っていることなどが分ると、癌の初期症状を報告できずにいることが明白になるのです。

メトラ博士は、ICRPの潜伏期モデルの下では、明白な癌であっても10年の潜伏期を持たないものは、放射線に関係のあるものの数に入らないということを、しっかり学んだわけです。そういうわけで、チェルノブイリの甲状腺癌は目には入っていたのに、放射線が原因のものとしては報告されませんでした。惨事の5年以内に発症しますから! 原子力産業が、放射線と、人の健康の科学的情報を独占しています。そうした情報が大学を通じて原子炉施設に、病院の放射線科の研究室に、国連組織に、原子力産業の独占のもとに拡散していきます。その先にはさらにずっと深刻な問題があります。通常、人は理論よりも生の事実を信じます! 理論を事実として教え込まれる時、状況はより煩わしいものになります。ICRPは放射線の健康上の効果に関する、作り物の「合意」を形成したのです。

内部被曝をめぐるキエフでの論争


ミシェル・フェルネ VS ノーマン・ゲントナー

2001年6月、キエフの国際会議の幕間。チェルトコフ著「チェルノブイリの犯罪」より

ミシェル・フェルネ
ここまで会議をずっと聴いてきたわけですが、あなた方の組織(UNSCEAR)の主張によればチェルノブイリが原因と言える死者は31人で、その中で被曝によるのは28人、他に200人が被曝し、また甲状腺の腫瘍は1800人ということになります。あなたも同じお考えですか?

ノーマン・ゲントナー
データからはそういうことが言えます。これ以外にも甲状腺癌の症例は今後出てくるかも知れないとすれば、傷ましいことです。幸い、この癌は生存率が上っています。もっと高い線量を浴びた人々というカテゴリーがあるとすれば、そこでは癌の発症率が上ると考えられますし、それは統計的に明きらかになってくることでしょう。

F
激症の被曝に対して出されている数値だけをお認めになる考えはお変えになられないのですか? 今日、色々お聞きになられたと思いますが、そこからは影響はお受けになられなかった?

G
国際的に確かなものとされている病気について、症状と経過をご覧になれば、それはあらゆる国際機関が合意しており、データによっても裏付けられている数値なのです。傷を受けた人たち、あるいは受けたと思い込んでいる人たちが色々と申立をしていますが、けれども私たちが参照しているデータは加盟国の保健当局のものです。私たちはできうる限り完全で、確証されてもいるデータの収集に努力しています。そこから明かになった結論は、どのようなものであれ、科学的に確証されているのであれば、できうる限り広く拡散できるよう保障しています。

F
特定のもの以外の放射性核種の効果について、あなた方の作業グループではどなたも研究なさっておられないようなので、たいへん驚きました。

G
そういうものにも、私たちは常に気を配っています。私たちは統合原則は線量によって表象されていると確信しています。私たちは線量が何であり、それはどこから来るのかを、私たちは研究しているのです。そのもっとも大きな部分を占めているのは放射性セシウムです。格別に毒性の強い他の放射性核種、あるいは特定の人々に強く作用を及ぼす核種も、状況次第では、重大な被曝を引き起す潜在的な可能性はあります。

F
あなたのご意見では、セシウムがいちばん高い値に凝縮されてくるのは、どの病気ですか?

G
セシウムでの一番の問題は外部被曝です。セシウムは野菜と一緒に吸収されもしますが、その主題についてはUNSCEARの報告書の附録Jで議論されています。

F
この15年間、セシウムが一番大きな問題であったのは、内部の方だとはお考えになられないのですか?

G
違います。内部なんかじゃありません。人々が外部から受けた被曝のことをお話しになっていらっしゃるんじゃないんですか?

F
内部被曝のお話をしているのです。多くの地域で、人々が栽培した食品や、森で採れたものを通じて摂取した結果の内部被曝ですよ。

G
一時、最初の頃のことですが、被曝の計測に使われていたモデルからは内部被曝も外部被曝も同じように重要だということになりましょうか。

F
今日では90%は内部で、10%が外部だとは、お考えにならないのですか?

G
私は線量計測の専門家ではありません。

F
人々の全身を計測したデータをお持ちじゃないんでしょうか?

G
そういう計測データはあります。大部分の人たちの被曝総量はごく僅かだということがデータから分ります。しかしセシウムの場合には、体のどこが被曝したかといったことには、何ら重要性はないです。

F
ホメリ地方では子どもたちの線量は常に低いですよね?

G
裏付けされたデータがお望みなんでしょうか? なら、お見せできますよ。

F
確かなデータをどなたがお持ちですか? どなたが所有しているのでしょうか? どこにそういうデータがありますか?

G
例えば、ケニグスベルク博士のところになら、お連れできますよ。ベラルーシ国立医療統計局の副局長さんです。その方とお話しになれます。専門家ですよ。今からでもお連れしましょうか。

F
ええ、ケニグスベルク博士なら私も存じ上げていますし、博士のデータのことだろうと思っておりました。それとは他の計り方をしたデータも色々あります。計測されてきましたし、今でもされています。子どもたちの線量は、上ってきているんです。はっきり分る上昇の仕方です。

G
私たちはデータの物語っていることを凝視するべきです。でも、私は、被曝総量に内部と外部との区別を付けるというのは拒否します。受けた汚染の水準が問題なのであって、汚染のメカニズムがどうであれ、違いはありません。内部だからより重大だとか言って人々の信じ易さに付け込むのは、人々の爲になる行為ではありません!

F
私たちは子どもたちの心臓病を見てきているんです。死んでしまうこともあります。

G
そうです。そういう困難な症例なら存じています。増加もしています。だからと言って、それが事故の結果であると単純に断言したり、放射能の作用によるものだという盲目的な確信から吹き込んだりするのは、人々の健康を預る立場の人たちを助けることにはなりません。

F
放射能の作用による疾病は子どもたちの間に存在しています….

G
そんな情報は私は一度も目にしたことはありません。

F
このことについてはベラルーシのあちこちの大学で、9年にわたって研究されています。あの人たちの研究に一度も興味をお持ちになられたことはないのでしょうか?

G
その方たちは大学で多分、研究なされているのでしょう。けれども、大事なことは専門家たちの追認を得たうえで、そういした情報が発表されていることです。そうした情報を私たちに下さい。どこかにありますなんていう話を私たちにしに来ないでください。私たちはベラルーシとは公式の関係を結んでいます。ロシア連邦とも、ウクライナともです。私たちに情報を転送し、私たちのまだ知らないかもしれない情報に対して私たちの注意を喚起して下さる責務を負った方々がいらっしゃいます。意識の高い、保健の増進に献身されている方々です。科学者たちであり、専門家たちであるわけで、私たちはこの方々を情報源にしているのです。